死に戻った逆行皇女は中継ぎ皇帝を目指します!~四度目の人生、今度こそ生き延びてみせます~

Na20

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17 侍女視点

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「どうしよう…」


 私は皇后陛下付きの侍女だ。いやつい先程解雇されたので侍女だった、が正しいが。そして解雇されるや否や兵士に拘束され牢屋へと入れられてしまった。私は伯爵令嬢なので一般の牢ではなく貴族用の牢に入れられた。牢に入れられる心当たりはある。しかし十年以上気づかれなかったのになぜ今さらという思いがあった。


 (どうして今さら…)


 私はとある伯爵家の末っ子だ。伯爵家には兄と姉二人、そして私の四人の子どもがいる。嫡男である兄が家を継ぎ、長姉と次姉は嫁いでいった。そして残るは私だけとなったが、我が家は伯爵家ではあるが借金まみれで生活に困窮していた。
 理由は我が家は武器商を生業としていたからだ。この国も二十年ほど前までは戦争が行われていた。その時代はよかったと父は言う。次から次へと飛ぶように武器が売れたそうだ。
 しかしそれ以降は先代皇帝は戦争をやめ、国内の発展を重視した政策を打ち出していった。そして先代の後を継いだ現皇帝陛下も同じく国内の発展に力を入れていった。そのおかげで国はめざましいほどの発展を遂げたが、その裏で戦争で稼いでいた者たちは困窮にあえぐようになっていった。

 我が家も姉たちに持参金を持たせるのが限界だったようで父からは持参金が用意できないこと、外に働きに出てほしいことを伝えられたのは十六歳の時だった。確かに幼い頃からうちにはお金がないんだなということはなんとなく分かっていた。ただそのせいで結婚できないとまでは考えていなかったのだ。
 しかしできないものはできない。私は結婚を諦め働くことに決めたがなかなかいいところが見つからない。
 そんな時父の知り合いの貴族から当時の皇太子妃、現在の皇后陛下の侍女にならないかと声がかかったのだ。皇太子妃の侍女になれるのは家格が伯爵家以上の未婚の令嬢か夫人だけ。私は当然その話を受けたいと父に伝えた。だってこんないい話はない。給金もいいし、経歴にも箔がつく。それにもしかしたら誰かに見初められ結婚できる可能性もある。
 すると父が真剣な表情で話し始めた。


「よく聞きなさい。お前が皇太子妃の侍女になることを望むのであれば必ず成し遂げなければならないことがある。お前にその覚悟はあるか?」


 そうして父から聞かされたのは恐ろしい計画だった。そして私が侍女として何を成すべきかも。
 私は少し迷ったがその話を受けることに決めた。なぜかと言えば私は恐ろしいと思いながらも面白そうとも思ってしまったから。
 ただ公爵家に生まれただけでこの国の女性の頂点である皇后になることが約束されている女と、それに比べこの伯爵家に生まれてしまったばかりに結婚することもできず働かなくてはならない私。
 当然公爵令嬢の方が身分が上だ。それに皇太子妃になる女だ。私が格下なのは理解している。でもこの計画に乗れば自分より遥か上の身分の女を嘲笑うことができるのだ。しかもやることと言えば医者が出すお茶を毎日飲ませる、ただそれだけだった。
 この時の私はちょっとした憂さ晴らしのつもりだったのだ。きっとその計画は上手くいかずにすぐに終わるだろうと思っていたから。だから軽い気持ちで受けたのだ。

 しかし私の予想とは裏腹に皇太子妃は三年もの間懐妊することなく、皇帝陛下は皇妃を二人娶った。陛下と皇妃たちの間には一人の皇子と二人の皇女が生まれた。だがやはりそれから何年経とうとも皇太子妃、その頃にはすでに皇后であったが子に恵まれることはなかった。
 さすがに皇帝陛下が皇妃を娶った時はバレるのではないかと焦ったが、その後もバレることもなかったし次第に私は自分の行為が反逆行為であることなど忘れていたのだ。

 それが今になって皇后の懐妊。

 私は懐妊の発表がされるまで皇后の懐妊に全く気づかなかった。そして発表と同時に私は兵士に拘束され牢へと入れられた。その時はなぜ私がと思ったが都合よく忘れていたことを次第に思い出し血の気が引いていく。このままでは私は間違いなく処刑されてしまう。


 (嫌よ、そんなの嫌!ようやく結婚が決まったのに…!)


 私は半年前に出会った年下の子爵と婚約しているのだ。相手から是非にと乞われ、爵位は下がるものの私ももう贅沢を言っていられる年齢ではない。それに見た目も私好みだったので喜んで申し出を受けた。相手からはすぐに結婚したいと言われていて、一年の婚約期間を経てすぐに結婚するはずだった。


 (結婚まであと少しだというのにどうしてこんなことに…)


 私は牢の中でまもなくやってくるであろう死に絶望し怯えながら過ごすことしかできなかった。


 そしてそんな侍女は知らない。
 婚約者だと思っている子爵は存在しないこと、そして出会いすらもウラヌス公爵によって仕組まれていたことを。これは妹を馬鹿にされ続けたウラヌス公爵のささやかな復讐なのであった。
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