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15 ウラヌス公爵視点

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 私は妹から受け取った小瓶を我が公爵家の医者に調べるように頼んだ。彼女は私や妹が幼い頃から公爵家仕えてくれている心から信頼できる数少ない人物である。

 そして依頼して三日後、医者から驚きの報告を受けた私は急ぎ報告書をまとめ妹に連絡を取った。私は定期的にご機嫌伺いと称して妹の顔を見に城へと行っているので怪しまれずに会うことができた。


「これを」


 私は妹に報告書を手渡した。妹は早速報告書に目を通し始めたが次第に表情が険しくなっていく。


「…これは誰が調べたの?」

「アマンダだ」

「…アマンダが調べてくれたのなら間違いないわね。でも信じられないわ…」


 さすがにショックを受けているようだ。それもそうだろう。あのお茶には子ができにくくなる成分が含まれていたのだ。それも微量ではなく大量にだ。これを飲ませた人間は余程妹に子を生ませたくなかったのだろう。私も今までこの話題は妹に気を遣って避けてきた。だがそれは間違いだった。しっかりと向き合って話をしていればもっと早くに気がつけたかもしれないのに。


「あれからそのお茶は飲んでないんだろうな?」

「…ええ。飲んだ振りをして全て捨てているわ」

「そうか。ではこれからどうする?城の人間が信用できないならこちらで引き続き調べるが…」

「…」


 妹はこれからどう動くべきか考えているようだ。私は妹の考えがまとまるまで静かに待つことにする。五分ほど待つと妹が口を開いた。


「…いえ、今はこのまま何もせずにいましょう」

「なっ!正気か!?」


 この国の皇后を害した者が間違いなく存在することが分かったのだ。一刻も早く国の裏切り者を見つけなければならないのに妹は一体何を言っているのか。


「もちろん正気よ。正気だからこそ今はなにもしないの」

「どういうことだ?」

「私は例のお茶を十年以上飲ませられてきたわ。医者から身体にいいお茶だと言われてね。それを何の疑いもなく飲み続けてきた私をきっと犯人は嘲笑っていることでしょう。でもだからこそ油断しているはず。私がお茶を飲み続けている限りは他に何もしてこないと思うの。だってお茶を飲ませるだけで子ができないようになるなんてこれ以上ない簡単な方法だもの。他に何かしようとすればさすがに私に気づかれる可能性が高くなるわ。そんな危険をわざわざ侵す必要はないでしょう?」

「確かにそうだが…」

「それにね、この話も内密よ?このお茶を調べた方がいいと言ってくれたのはアンゼリーヌなの」

「アンゼリーヌ殿下が…?」

「嘘じゃないわよ?それでねその時アンゼリーヌにはっきりと言われたの。陛下と私の子どもを望んでいるってね。可愛い娘にそこまで言われてしまったら最後まで諦めずに頑張らなくてはいけないじゃない?」

「じゃあ…」

「ええ。陛下と私もそうなることを望んでいるわ。ただ年齢的な問題もあるからどうなるかは分からないけどね」


 妹が今すぐ犯人を探しだし罰しないのはまだ子を授かることを諦めていないからなのだと理解した。子ができる可能性を考えたらあえて動かないほうが安全だ。そもそも私と妹の前提が違ったので妹の正気を疑ってしまったが、前提が同じであれば納得できる。


「そういうことなら確かに今は動かない方が安全だな。だがその医者はどうする?その医者はお茶を勧めてきた張本人だ。だがあからさまに処分をしてしまえば医者に共犯者がいた場合、共犯者にこちらがお茶の件に気づいたことが分かってしまうだろう?だが子を望む以上医者は必要だ。どうすれば…」

「…ねぇ、アマンダにお願いできないかしら?」

「アマンダに?」


 確かにアマンダ以上に信頼できる医者はいない。


「ええ。私付きの侍女としてしばらく城に来てもらえないかと思って。でも忙しくて難しいかしら」

「いや、そこはこちらで調整するから気にするな。お前のことの方が重要だからな。それにアマンダの弟子もしっかり育っている。しばらくの間なら彼女が不在でもなんとかなるさ」

「迷惑をかけるわね。陛下には私の方から話しておくわ」

「わかった。とりあえず今は身体大事にするんだぞ」

「ええ、分かったわ」


 それから十日後、無事に皇帝陛下の許可が下りアマンダが妹の侍女として侍るようになる。彼女は医者としてだけではなく侍女の仕事もそつなくこなし、怪しまれることなくあっという間に侍女仲間と馴染んでいった。

 そしてアマンダが妹の侍女となってからわずか五ヶ月後、私の元へ喜ばしい報告が舞い込んでくるのであった。

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