14 / 30
14 ウラヌス公爵視点
しおりを挟むアンゼリーヌ十歳の生誕パーティーにて――
今日は国を挙げての盛大な催しが行われる日だ。アンゼリーヌ第二皇女殿下の十歳の誕生日を祝うパーティーが開かれる。皇族方の誕生日は毎年パーティーが開かれるのだが、十歳のパーティーだけは規模が違う。十歳になられた皇子皇女の重大発表の場なのだ。その発表は今後の社交界に影響を与えるほどで、国中の貴族達が注目している。
もちろん私もその中の一人である。
アンゼリーヌ第二皇女殿下は我が公爵家に連なるメイト伯爵家の娘が生んだ子だ。皇后である私の妹は皇帝陛下と婚姻してから三年間子に恵まれなかったため、皇妃を娶らなければならなかった。陛下と妹の婚姻は政略によるものだ。戦争で領土を広げるよりも国内の発展と安定を目指す陛下と、それを支持するウラヌス公爵家の婚姻であった。
しかし子に恵まれないことから皇妃を娶ることになったのだが、皇妃に選ばれたのはバスピア侯爵家の娘だった。バスピア侯爵家は明言はしていないものの戦争賛成派だ。もし皇妃に子が生まれその子が皇帝になればこの国はどのような道を辿るか分かったものではない。それを阻止するためにもう一人皇妃を娶ることを陛下に提案し受け入れてもらったのだ。そして皇妃にと選ばれたのがアンゼリーヌ殿下の生みの母であるラフィーネ・メイト伯爵令嬢だった。
しかし第二皇妃であったラフィーネはアンゼリーヌ殿下を出産した後の産後の肥立ちが悪く、そんな時に運悪く流行り病をもらいそのまま儚亡くなってしまった。
幼くしてて母親を失ったアンゼリーヌ殿下だったが、まさか妹が殿下の母親になると言い出すとは思いもよらなかった。ウラヌス公爵家に連なる家の娘が生んだ子ではあるが実際には他人と何ら変わりない。そんな子どもを妹が育てられるのかと心配したが、その心配は杞憂に終わった。本当の母と娘のように寄り添う二人を見てひどく安堵したことを今でも覚えている。
そんなアンゼリーヌ殿下もこの度十歳の誕生日を迎えられた。殿下はどんな未来を選んだのだろうか。
そしてパーティーが始まった。
会場には国中の貴族が集まっている。つい先月行われたマリアンヌ第一皇女殿下の生誕パーティーよりも人数が多いようだ。それもそのはずで、マリアンヌ殿下よりもアンゼリーヌ殿下の方が陛下から可愛がられているというのは国内の貴族なら誰もが知るところだからだ。
パーティーが始まり私は友人と会話をしていた。妻は妻で友人と話し込んでいるようだ。そして友人との会話が終わり私が一人になった瞬間、一人の給仕がそっと何かメモを渡してきた。私はそのメモを確認する。
「…オルレシアからか」
給仕の姿をしていたがあれは輿入れの際に妹が家から連れていった侍女の一人だったはずだ。名前はテレサだったか。確かその妹も侍女として連れていったなと思い出す。名前はケイトと言っただろうか。
まぁ今はそんなことどうでもいいかと軽く頭を振りメモのことを考える。メモには暗号でパーティーが終わった後内密に会いたいということが書かれていた。
(妹から呼ばれるなんてめずらしいな。何かあったのか?)
妹は輿入れして以降自分から会いたいなどと言ってきたことがなかった。だから私からいつも会いに行くのだが。それなのにわざわざ腹心の侍女に変装までさせて会いたいと言ってきたのだ。きっと何かあったのだろう。私はそっとメモを閉じた。
◇◇◇
パーティーが終わり私は帰る人たちの人混みに紛れ指定された場所へと向かう。そこにはすでに妹の姿があった。妹と言えど今や皇后だ。私より身分が上にもかかわらず私を待っているということは普通ではない。
(一体何があったんだ)
「皇后陛下にご挨拶…」
「お兄様」
私はただならぬ雰囲気に緊張で体を硬くさせた。だがそれを悟られぬように挨拶をしようとするが途中で遮られてしまった。淑女の鑑と呼ばれる妹が礼儀を無視するなんてよほどのことなのか。それにこの国の皇后としてではなく私の妹として話をしたいようだ。
「オルレシアどうしたんだ。お前らしくないぞ」
「ごめんなさい。私もまだ混乱しているのよ…」
「どういうことだ?」
「…今日はお兄様にお願いがあるの」
お願いがあると言って妹は懐から小瓶を取り出した。その小瓶の中には茶褐色の液体が入っている。
「これは?」
「…これは私が毎日医者から飲むように言われて飲んでいるお茶よ」
「お茶?」
「ええ。お兄様にはこのお茶の成分を調べてほしいの。内密にね」
「…理由は教えてもらえるのか?」
「…」
「オルレシア」
「そうかもしれないし違うかもしれない…。まだ私も分からないの。でももしかしたらこのお茶に子どもをできないようにする何かが入っている可能性があると指摘されたの」
「なっ!」
妹が言うことが本当であれば国を揺るがす大事件だ。皇帝陛下と皇后陛下の正統な血筋を絶やそうとしている反逆者がいるということ。しかし妹自身もまだ信じられないと思っているようだ。だが誰に指摘されたかは分からないが危険性がある以上調べないわけにもいかない。でも城の人間を使ってはどこかから話が漏れる可能性もある。だから妹の絶対的な味方である私に頼んできたのだろう。
「…それが本当だったら大変なことだぞ」
「だからお兄様に頼るしかないの。…お願いできないかしら」
私は妹が子に恵まれず辛い思いをしてきたことを知っている。いくつになろうとも私にとっては可愛い妹だ。妹には幸せになってもらいたい。だから私には断るという選択肢は存在しない。
「分かった。すぐに調べるよう手配しよう。だからそんな不安そうな顔をするな」
「…ええ、そうね。ありがとうお兄様…」
66
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる