9 / 30
9
しおりを挟むただ私はこの道を選ぶなど全く考えてこなかった。争い事は苦手だし自分には向いてないと思っていたからだ。でもその道を避けて他の道を選んできたが全て死という結末。
もう争い事が苦手とか自分に向いてないとか言っている場合ではない。お父様もお母様もケイトも死んでしまうのだ。クリスだってどうなるか分からない。
大切な人を、この国を守るためには皇帝になる道を選ぶしかない。
(それにお姉様が言っていたじゃない。お母様は故意に子どもができないようにされていたって。それならその要因を取り除けばもしかしたら…)
正統な後継者が生まれこの国を導いていく。それが本来あるべき未来だったのだ。その未来へと正すことが私のやるべきことなのではないか。
(そのためには中継ぎだとしても皇帝にならなければいけないわ…。私にできる?…ううん、できるできないじゃない。やらなくちゃダメなのよ!)
幸いと言うべきなのか、姉は私の絶望する顔見たさに色々なことを話してくれた。今回の人生ではもうどうすることもできないが、もしも次の人生があれば活かすことができるはずだ。
(それに私は生きたい。もう死ぬのはごめんよ!)
「うっ…!ごほっ、ごほっ!」
もう死にたくないと思った矢先、私は突然苦しくなって咳き込んだ。すると口から血が溢れてきた。
「…私も気づかないうちに毒を盛られていたのね」
思い当たる節はある。
ようやく結婚式を迎えとても緊張していた私にニコラが緊張を和らげるからとハーブティーを淹れてくれたのだ。その時の私はニコラの裏切りに気づかずなんの疑問も抱くことなくそのハーブティーを飲んだ。おそらくそれに遅効性の毒が入っていたのだろう。普段ハーブティーは飲み慣れていないので味の変化に気づけなかった。
そのことを姉は知っていたから私に色々と教えてくれたのだろう。私はもうすぐ死ぬのだからと。
悔しい。今回も私の負けだ。
(あ…。私にも悔しいなんて感情があるのね…)
初めて感じる感情に戸惑うも不快ではない。
三度の人生を経験して私も変わったのかもしれない。
徐々に毒が身体を蝕んでいく。息をするのも辛くなってきた。
その時地下牢に響く足音が一つ。
―――コツコツコツコツ
ひどく焦っているような速い足音だ。あの二人のものとは違う。一体誰なのか。
「アンゼリーヌ様!」
「ク、クリス!?っ、ごほっごほっ!…どうして?」
「申し訳ありません!私がアンゼリーヌ様の側を離れたばかりに…!」
地下牢に現れたのはクリスだった。急いでやってきたのだろう。髪は乱れ額には汗が滲んでいる。
「さぁ急いでここから出ましょう!」
どうやら私を逃がすために危険を侵してまでここにやってきたようだ。しかし私は首を横に振る。
「…いいえ、私はここに残るわ」
「な、なぜですか!?」
「…クリス、よく聞いて。私はもう長くないわ。こうして話すのが精一杯なの。だからあなただけでも無事に逃げて、ごほっ!」
「アンゼリーヌ様!血が…!」
「…身体に毒が回ってしまっているの。この身体ではもうなにもできないわ」
「そ、そんな…」
「でもねクリス、私は諦めたわけではないの。…次に、次に賭けることにしたのよ」
「次…?い、一体何をおっしゃっているのですか!?」
「クリス…うっ!げほっ、ごほっごほっ!…ごめんなさい。もうお別れの時間が、来たみたい…」
「ア、アンゼリーヌ様!」
私は口から大量の血を吐き地面に倒れ込んだ。身体は重く、もう起き上がれそうにない。私は最後の力を振り絞り口を開いた。
「どうか、生きて…。また、ね、クリス……」
「アンゼリーヌ様…?アンゼリーヌ様ぁーー!」
地下牢にクリスの叫び声が響き渡る。だがその叫び声に返事をする者は誰もいない。
そうして私は三度目の死を迎えた。
ただ一度目二度目と違うのは次の人生に希望を抱きながら死んでいったということ。
そしてその願いが叶い、四度目の人生の幕がまもなく上がろうとしている。
66
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。

この闇に落ちていく
豆狸
恋愛
ああ、嫌! こんな風に心の中でオースティン殿下に噛みつき続ける自分が嫌です。
どんなに考えまいとしてもブリガンテ様のことを思って嫉妬に狂う自分が嫌です。
足元にはいつも地獄へ続く闇があります。いいえ、私はもう闇に落ちているのです。どうしたって這い上がることができないのです。
なろう様でも公開中です。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる