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しおりを挟む「おねえ、さま?」
こちらを笑顔で見ている姉であった。
私は姉の笑顔を見てゾッとした。腹違いとはいえ妹がその婚約者に刺されているのに嬉しそうに楽しそうに笑っているから。
「そうだ。マリアンヌ皇女様がお前の悪事を突き止め私に教えてくださったのだ。そして今日こうして敵討ちの場を与えてくださった!」
「あなたも、あなたの家も、無事では、はぁ、すまないわよ…」
「当然分かっているさ!それでも俺はこの手で妹を殺した犯人に直接罰を与えたかったんだ!それにマリアンヌ皇女様が家には類が及ばないようにしてくれると約束してくださったからな!」
「なっ…!」
なぜ姉がという考えとまさかという考えが同時に頭を駆け巡った。血が止めどなく流れ続けていてすでに身体が冷たくなっていたが、更に血の気が引いて身体が震える。
「そして今日俺は妹の敵を討つことができた!俺は死ぬだろうが後悔はない!この機会を与えてくださったマリアンヌ皇女様に感謝を!忠誠を!」
カイン様は短剣を掲げながら叫んだ。それを笑顔で見守る姉と血を流し倒れ込んでいる私。端から見れば異様な光景であるが、この場には私たちしかいない。姉は私とカイン様の近くへとやってきた。
「カイン様、これで妹さんも無念を晴らすことができたでしょう」
「これも全てマリアンヌ皇女様のおかげです!」
「いえ、当然のことをしたまでよ。罪を犯した者はきちんと罪を償わないとね」
「おっしゃる通りです!」
「ではカイン様。私の遣いを宮の外に用意していますのでこの後はその者の指示に従ってください」
「しかし!まだこの女は生きて…!」
「カイン様。確かにこの子は嫉妬に狂い罪を犯しましたが私の可愛い妹に変わりないのです。ですから最後に姉妹だけで話をさせてほしいの」
「…分かりました」
カイン様は去っていき、そうしてこの場に残ったのは私と姉だけ。
「うふふ。ねぇアンゼリーヌ。今どんな気分かしら?私はね最高な気分よ!邪魔だと思っていたあなたがようやく死ぬんですもの!」
「な、ぜ…」
「なぜって?それは私が皇帝の座に就くのにあなたは邪魔だからよ。皇帝も皇后もあなたばかり可愛がるから大臣たちもあなたに皇帝になってほしいと思っているんだもの。それに家庭教師もいつもあなたのことを褒めていたわ」
「そん、なこと、しらない…」
「そうね。あなたは知らないでしょうね。でも私はいつもあなたと比べられるの。本当にうんざりだわ。それにこの自慢の美貌だってあなたより劣ってるというのよ?そんなの我慢ならないじゃない」
「そん、な…」
「だからね、あなたは安心して死んでちょうだい。それに――――」
(耳が聞こえない…。お姉様は何を言っているの?)
姉が私に対して死んでほしいと思うほどの悪感情を抱いているなど気づかなかった。おそらく私は姉に嵌められたのだ。姉の手の者なら隙を突いてイヤリングを盗むこともできるだろう。
私は皇帝の座を姉と争うつもりなどこれっぽっちもない。だからエグラント侯爵家への臣籍降下の道を選んだのにまたしても結果はこれだ。あの時と変わらない。私はまた何の役にも立てずに死ぬ。
これは夢ではなかったのだ。
「うふふ。この話を聞いても反応がないってことはもう何も聞こえていないようね?じゃあそのままそこで死になさい。あなたにお似合いな最後よ、アンゼリーヌ」
いつの間にか姉はいなくなり、この場には私一人となった。胸から血を流しながら一人で死を待つだけ。
(あの時と同じ状況ね…)
しかし前回と違うのは私は姉に嵌められて死ぬということ。
(姉が私のことを死んでほしいと思うほど嫌っていたなんて知らなかった)
もしも知っていれば死なずにすんたのだろうか。それは否。もうすぐ死んでしまう私にはその答えは永遠に分からないままだ。
『―――――ヌ様!――ゼリーヌ様っ!』
(まただわ…。もう耳は聞こえないというのに)
前回と同じくクリスの声が聞こえた気がしたが耳はもう聞こえない。おそらく気のせいだろう。
ああ、まただ。
ねむくてねむくてたまらない。
(今度こそ本当に死ぬのね。だけどもしも、もしもまたあの日に戻れるのであれば次こそは…)
そして私は冷たい床の上で二度目の死を迎えたのだった。
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