上 下
13 / 29

12 モーリス視点

しおりを挟む

 しかしそれからさらに二週間が経つ頃には確実に屋敷の状態が悪くなっていた。エリザに付けていた使用人もいつの間にかいなくなっており、エリザに文句を言われてしまったのだ。さすがにこのままにしておくわけにはいかないので、執務室にいるはずの家令の元へと向かった。
 そしてそこで執務室の状況を知り、使用人たちを罰しようと屋敷中を探すも全く見つからない。


 (どうして誰も見つからないんだ?それに屋敷の中はこんなに静かだったか?)


 ふと屋敷が静かなことに気がついた俺は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。なんだかこれは嫌な予感がする。


 (いつからだ?一体いつから…)



 ――ガサッ


「っ!だ、誰だ!」

「あれ?侯爵様?こんなところでどうしたのですか?」


 物音がした場所から現れたのは子どもだった。どうして子どもがと思ってよく見てみると使用人の服を着ている。


「…お前は使用人なのか?」

「はい、そうです。ここは使用人たちの部屋しかありませんが誰かお探しですか?もうここには僕のお母さんと庭師のダン爺さんしかいませんよ?」

「なっ!そ、それは一体どういうことだ!使用人が三人しかいないだと…!?」

「お給金がもらえなくなるから次の仕事が見つかった人から辞めていきましたよ?僕とお母さんも明日には辞めます。ダン爺さんは息子さん夫婦が三日後に街に戻ってくるのでそれまではここにいるそうですよ」

「…給金が払えない?」

「あれ?侯爵様はご存じなかったんですか?侯爵様が爵位を継いですぐもお給金がもらえなくてみんな辞めるところだったんですよ。それを奥さ、元奥様が侯爵様の代わりにお給金を払ってくれたんです。僕にはよく分かりませんけどみんなが言ってました。『奥様が代理で仕事をしている』『奥様がいるからお給金がもらえるんだ』って」

「なん、だと…?」

「でも元奥様は出ていかれたので、みんなお給金がもらえなくなるからと辞めていきました」

「そんなはず……はっ!りょ、領主の仕事は家令がしていたはずだ!」

「家令ってマークさんのことですか?マークさんなら元奥様が出ていかれた次の日には辞めましたよ?」

「なっ!」

「というか一番最初に辞めていきましたね。辞める前に使用人たちを集めて言っていました。『私はただの使用人に過ぎないのに領主の仕事なんてできるわけない。先代の時はただ補佐をしていただけ。侯爵様は何も分かっていない。奥様がいたからラシェル侯爵家が何とか持ちこたえていたというのに…。みんなも辞めるなら早いうちに辞めた方が身のためだ』って」

「っ!なん、だと…」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを愛するつもりはないと言いましたとも

春風由実
恋愛
「あなたを愛するつもりはございません」 王命による政略結婚で夫となった侯爵様は、数日前までお顔も知らない方でした。 要らぬお気遣いをされぬよう、初夜の前にとお伝えしましたところ。 どうしてこうなったのでしょうか? 侯爵様には想い人がいて、白い結婚上等、お飾りの妻となる予定だったのですが。 初夜のやり直し?急には無理です! ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 ※本編完結しました。ちょこっとおまけ話が続きます。 ※2022.07.26 その他の番外編も考えていますが、一度ここで完結とします。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~

柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。 大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。 これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。 ※他のサイトにも投稿しています

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

モラハラ王子の真実を知った時

こことっと
恋愛
私……レーネが事故で両親を亡くしたのは8歳の頃。 父母と仲良しだった国王夫婦は、私を娘として迎えると約束し、そして息子マルクル王太子殿下の妻としてくださいました。 王宮に出入りする多くの方々が愛情を与えて下さいます。 王宮に出入りする多くの幸せを与えて下さいます。 いえ……幸せでした。 王太子マルクル様はこうおっしゃったのです。 「実は、何時までも幼稚で愚かな子供のままの貴方は正室に相応しくないと、側室にするべきではないかと言う話があがっているのです。 理解……できますよね?」

離婚って、こちらからも出来るって知ってました?

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
 元商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。  私というコマを、貴族と結婚させることによって。  でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。  悪態をつく姑。  私を妻と扱わない夫。  夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。  それでも私は三年我慢した。  この復讐のため、だけに。  私をコマとしか見ない父も、私を愛さない夫も、ただ嫌がらせするだけの姑も全部いりません。  姑の介護?  そんなの愛人さんにやってもらって、下さい?  あなたの魂胆など、初めから知ってましたからーー

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

処理中です...