上 下
9 / 29

8

しおりを挟む

 そして食事を進めながら私がここに住むことについて話をされた。大体は昨日リオが言っていたとおりだ。開発に必要な材料や道具も用意してくれるし、食事の面倒も見てくれるそうだ。開発した商品も盗まれることもない。それにノーラとケビンとも一緒にいられる。
 でもこれでは得をするのは私だけだが果たしてそれでいいのだろうか。私はそのことをベルトラン様に尋ねてみた。


「とてもありがたいのですが、この条件だとグレイル公爵家には何の利益もありません。…ここまでよくしてくださる理由が母の娘だからということであれば遠慮したいと思っています」

「きっとヴァイオレットはそう言うだろうと思っていたよ。だけど大丈夫だ。我が家にもちゃんと利益がある話だからね」

「そうなんですか?」

「ああ。まぁ一言で言えばグレイル公爵家はベル商会のパトロンになりたいと思っているんだ」

「えっ!」

「リオからは詳しい話は教えてもらえなかったけど、これから本格的に新しい商品を開発していくんだろう?それも貴族向けの」

「え、ええ。その予定です」

「すでにベル商会で売り出している『ハンドクリーム』は平民の女性の間で大人気だと聞いている。それを開発したのもヴァイオレットなんだろう?そして次は貴族向けの商品の開発をしようとしている。それにきっと平民向けの商品も合わせて開発するんじゃないかい?」


 さすがグレイル公爵家の当主様だ。貴族向けの商品を開発するという情報だけでそこまで考えが及ぶとは。


「…詳しくはお話しできませんがそのような考えもしております」

「ああ、情報を聞き出そうとしているわけではないからあまり警戒はしないでくれよ。それで私はヴァイオレットの可能性に投資したいと思ったんだよ。おそらく新商品も売れると私は予想している。そうなればお互いに利益が出ると思うんだが、どうだい?」


 たしかにベルトラン様の言うとおりで、おそらくというか絶対に新商品は売れる。私が貴族向けに考えている新商品はズバリ化粧水だ。この世界にはまだ存在していないものである。それを私は前世の記憶を活かして作るつもりだ。前世の私は化粧品会社で開発をしていた社会人だった。なので材料さえ揃えばすぐに完成するだろう。しかしその材料集めが大変だなと思っていたところにこの話だ。私としてはすごく魅力的だし開発環境もいい。それにラフィーネ様やクリス姉様に宣伝してもらえればかなりの売上が期待できる。
 そしてグレイル公爵家としては人気商会のパトロンになることができる。というのも貴族にとってパトロンというのは一種のステータスになるのだ。さらにその商会の商品を優先的に手に入れることもできるので、それを利用して会話を有利に進めることもできるだろう。
 そこまで考えた私はこの話に乗れば稼げると確信し、話を受けることにした。


「分かりました。そのお話、お受けしたいと思います」

「よかった。じゃああとで契約書を交わそうか」

「はい。ありがとうございます」

「ねぇヴァイオレットちゃん。新商品は一体どんなものを作るの?」


 ベルトラン様との話が一段落ついたところでラフィーネ様が目をキラキラさせながら新商品について聞いてきた。


 (うーん、支援してもらうことになったし少しくらいならいいかな)


「えーっとですね、一言で言えば肌に潤いを与えるものを作る予定です」

「肌に潤い?」

「はい。顔を洗った後や湯浴みから出た後に肌に潤いを与えることで、肌がもちもちぷるぷるになるんです」

「なんですって!?」
「まぁ!それは本当?」


 ラフィーネ様とクリス姉様の食い付きがすごい。やはりどこの世界でも女性は美容に興味があるようで、これは当たるなと私は改めて確信した。


「はい。完成した際には発売前にお二人に使っていただきたいと思っているのですが…」

「まかせてちょうだい!」
「もちろんよ!」 

「ありがとうございます。頑張って作りますね!ふふふふ…」


 (公爵夫人と次期公爵夫人が使う化粧水…。これは売れる、売れるわ!)


「ヴィー、顔…」

「はっ!えへへ…」


 私は新商品によって手に入るであろうお金を想像して、顔がにやけるのを抑えるのに苦労するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

私と結婚したくないと言った貴方のために頑張りました! ~帝国一の頭脳を誇る姫君でも男心はわからない~

すだもみぢ
恋愛
リャルド王国の王女であるステラは、絶世の美女の姉妹に挟まれた中では残念な容姿の王女様と有名だった。 幼い頃に婚約した公爵家の息子であるスピネルにも「自分と婚約になったのは、その容姿だと貰い手がいないからだ」と初対面で言われてしまう。 「私なんかと結婚したくないのに、しなくちゃいけないなんて、この人は可哀想すぎる……!」 そう自分の婚約者を哀れんで、彼のためになんとかして婚約解消してあげようと決意をする。 苦労の末にその要件を整え、満を持して彼に婚約解消を申し込んだというのに、……なぜか婚約者は不満そうで……? 勘違いとすれ違いの恋模様のお話です。 ざまぁものではありません。 婚約破棄タグ入れてましたが、間違いです!! 申し訳ありません<(_ _)>

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》  最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。  そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...