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 屋敷の前でリオと話していると突然扉が開く。その扉から一人の女性がこちらに駆け寄り、そして私に力一杯抱きついてきた。


「く、苦し…」

「母さん!ヴィーが苦しがってるから!」

「あっ!ご、ごめんなさい。久しぶりに会えたからつい…」

「げほっ、げほっ…。お、おばさまご無沙汰しております」

「もう!そんな他人行儀な挨拶はよしてちょうだい!」

「で、でも」

「ガーネットの娘は私の娘も同然よ。なんなら私のことはお義母様って呼んでくれても…」

「母さん!」

「…もうリオったらなんなのよ」

「今はそんなこといいだろう?ヴィーは今日あの家から出てきてさっきまで働いてたんだ。きっとかなり疲れているだろうから早く休ませたいんだよ」

「…そうね。ヴァイオレットちゃんがうちに来るって聞いて今日を楽しみにしていたけど、ヴァイオレットちゃんは大変だったのよね…。私が悪かったわ。ヴァイオレットちゃん、どうか自分の家だと思ってゆっくり休んでちょうだいね」

「え、あ、ありがとうございます?」

「さぁヴィー行こうか」

「でも公爵様に挨拶しないと…」

「そういうのは全部明日にしよう。今日は一日いろいろあって疲れているはずだ。離れを用意してあるからそこでゆっくり休んでくれ」


 そう言ってリオは私の手を取り歩き始めた。その後にノーラとケビンが続く。どうやらここに住むというのは決定事項のようだ。
 グレイル公爵家の本邸から五分ほど歩いた距離に離れがあった。離れと言ってもさすが公爵家、とても立派な建物だ。


「…本当にここに住むの?」

「ああ。ここはそのために用意した場所だからな」

「えっ!?」

「ほら、ヴィーはこれからいくつも商品の開発をするんだろう?ここなら開発用の部屋もあるし道具も用意してある。必要な物があればすぐ手配できるしな。それに公爵家内なら開発した商品を盗まれる心配もないだろう?」

「うっ!たしかに…」


 リオの言うとおりここには私が求めているものが全て揃っている。居住用とは別の開発スペースにすぐに欲しいものが揃う環境、そしてセキュリティも万全。文句のつけようがなかった。


「それにケビンとノーラの部屋もある。どうだ?ここなら開発に集中できるだろう?」

「…やっぱりリオは私のことよく分かっているわね」

「当たり前だろ?…ずっとヴィーのことだけを見てきたんだからな」

「え?なにか言った?」

「いや、なんでもない。とりあえず今日はゆっくり休んでくれ。食事はこっちに持ってくるように手配するから、詳しい話は明日にでもしよう。二人ともヴィーを頼んだぞ」

「「かしこまりました」」

「じゃあまた明日迎えに来る。夜更かしせずにしっかり休むんだぞ」


 リオは私の頭の上に手を置き、わしゃわしゃと頭を撫でた。


「ちょ、ちょっと!私はもう子どもじゃないんだから!」

「ははっ、悪い悪い。つい昔を思い出してな。それじゃあまた明日」

「もう仕方ないわね…。また明日ね」


 私は乱れた髪を手で直しながらリオの後ろ姿を見送った。

 その後は荷物を片付け食事を食べ、湯浴みをするとすぐに睡魔が襲ってきた。どうやらリオの言うとおり自分で思っている以上に今日は疲れていたようだ。やりたいことはまだたくさんあるが今日はやめておこう。私はふかふかの布団に包まれあっという間に眠りに落ちたのだった。
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