5 / 29
5
しおりを挟む私たちは場所を商会長室へと移した。こうして本部に来るのは久しぶりである。商会長室はケビンが手入れしているのだろう。しっかりと整理整頓がされておりとても仕事がやりやすそうだ。
ケビンに淹れてもらったお茶を飲みながら改めて久しぶりの再会を喜んだ。
「こうして会うのは三年ぶりだな」
「そうね。手紙ではやり取りしていたけど実際に会うのは久しぶりね」
侯爵邸にいた時も会おうと思えば会えたのだが、白い結婚で確実に離婚したかったので不貞を疑われるような行動はしないように気をつけていたのだ。まぁ元旦那様なら気づかなかっただろうが。
「ヴィーもずいぶんと大人になったな」
「ふふっ、それはそうでしょう。私もう二十歳よ?それにそういうリオも見ないうちに一段と男前になったわね。それなのにまだ独身なのでしょう?一体何人の女性を泣かせてきたんだか」
「…そんなことはしてないさ。俺は一途な男なんだぞ」
「それならどうして結婚しないのよ。おばさんも心配しているんじゃない?それにリオは今人気の商会の商会長よ?一途に想い続けているお相手だってリオなら喜んで受け入れてくれるんじゃないの?」
リオの本名はリオンハルト・グレイル。グレイル公爵家の次男だ。
私の母親とリオの母親が親友で幼い頃はよく遊んでいた。私にとってリオは二つ年上の頼れる兄の様な存在だ。両親が亡くなった後は交流がなくなってしまったが、この商会を立ち上げる際に協力してもらえないかとお願いの手紙を出すと、快く引き受けてくれたのだ。
「…世の中そんなにうまくいかないんだよ」
「?まぁ私も離婚したての身だからあまり人に言えたことではないわね。でも結婚するときはちゃんと教えてね?盛大にお祝いするから」
「その時がくればな…」
「あ、それと見ない顔の従業員がいたけどもしかして新しく採用した人?」
「ああそうだ。ヴィーが前に手紙で書いてきただろう?新しく店で雇う従業員にはちゃんと教育してから店に立たせろって。あの従業員は来週から本店で勤務予定だ」
「そうなのね。それなら来週までにお客様の前では走らないようにってしっかり教えてね。これから貴族向けの商品をいくつも出していくつもりだから、貴族を相手にする想定で教育してあげて」
「分かった。ケビン頼むな」
「かしこまりました」
それからは今後のことを話し合い、終わる頃にはもう外は暗くなり始めていた。
「じゃあ今日はここまでにしましょうか」
「これでようやく本格始動だな」
「ええ。今まで以上に稼いで稼いで稼ぐわよ!」
「本当にヴィーはお金が好きだな」
「そりゃそうよ。だってお金は裏切らないもの。それにあって困るものでもないしね」
「まぁヴィーらしいな」
「でしょ?…さて、今日はどこか宿を取らないとね。それに明日からは住むところも探さないと…」
「あ、そういえば言ってなかったな。ヴィーの住むところはもう用意してあるぞ」
「えっ、本当?」
「ああ。事前に連絡をもらっていたんだからそれくらい準備してあるさ」
「さすがリオね。助かったわ。それじゃあ案内してくれる?」
「分かった。じゃあ馬車に乗ってくれ」
私は言われるがままリオの手を借りて馬車に乗った。私の後にリオ、ノーラ、ケビンも馬車に乗り込む。そして馬車に揺られること十数分…
「…ねぇ、リオ。ここってグレイル公爵家よね…?」
「ああ、覚えていたんだな」
「こんな立派なお屋敷忘れるはずないでしょ。…ってそうじゃなくて!どうしてここに連れてきたの?なにか忘れ物でも取りに?」
「ここが今日からヴィーの住むところだ」
「はい?何を言って…」
「ヴァイオレットちゃん!」
「わっ!」
2,183
お気に入りに追加
2,759
あなたにおすすめの小説
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
正当な権利ですので。
しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。
18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。
2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。
遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。
再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件
さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。
婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。
でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける
プレゼントを渡したいんだ。
それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ?
甘いものが好きらしいんだよ
それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。
王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~
葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」
男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。
ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。
それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。
とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。
あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。
力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。
そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が……
※小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる