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番外編2
しおりを挟むおそらく私が倒れた時点で医者を家に呼んでいたのだろう。シェインはすぐに医者を連れて部屋へとやって来た。私は自分の口でなんとか今の症状を伝える。すると医者には何か心当たりがあったのかシェインを部屋から出るように促していた。
「俺も一緒に…!」
「公爵様落ち着いてください!少し診察をするだけですから」
「それなら俺も」
「シェイン、大丈夫だからお願い」
「でも…!」
「ね?」
「っ、分かった…。先生、よろしくお願いします」
なんとか渋々ではあるがシェインが部屋から出ていき診察が始まった。
診察はすぐに終わり次に問診が行われた。
「今日のようなめまいや気持ち悪さはよくありますか?」
「いいえ。初めてです」
「最近寝不足だったりは?」
「それは…はい」
「うーん、寝不足は良くないですね。睡眠はとても大切なんですよ」
「…気をつけます」
「それと最後に月のものが来たのはいつですか?」
「え?最後に来たのは二月ほど前だったかと…。あ、そういえば今回はまだ来てないわね…」
「やはりそうですか。これは間違いありませんね。奥様おめでとうございます。ご懐妊です」
「えっ!?」
医者からまさかの懐妊を告げられ驚いてしまった。今回のことはきっと寝不足のせいだろうと思っていたので予想外である。
しかし驚いたのは一瞬だけで次の瞬間には嬉しさが込み上げてきた。
「…ほ、本当ですか?」
「ええ。おそらく二月目に入られた頃かと思われます。詳しくはもう少し調べてみないと分かりませんがこの頃からつわりの症状が現れてきますからね。今回はつわりと寝不足が重なって倒れてしまわれたのでしょう。これからはもうお一人の身体ではありませんから無理はしないでください」
「私のお腹に赤ちゃんが…」
私はまだなんの膨らみもないお腹を撫でた。ここに私とシェインの子がいるのだ。そう思うだけでとても幸せな気分になった。
問診も終わったのでシェインを部屋へと招き入れる。シェインはとても不安そうな表情をしているがこの事を告げたら一体どんな表情をするのだろうか。
「セレーナ大丈夫か?」
「ええ、お医者様から低級なら回復薬を飲んでもいいと言われて飲ませてもらったからもう大丈夫よ」
「よかった…。それでセレーナは一体どこが悪かったんだ?」
シェインが医者に問いかけたが私から伝えたいとお願いしていたので代わりに私が答えた。
「シェイン聞いて」
「セレーナ?」
「実はね私妊娠してたの。今は二月目ですって」
シェインは私の言葉を聞いて動きを止めた。私の言葉をすぐに理解できていなかったようで、少しずつ時間が経つと美しい黒の瞳をこれでもかと見開き口を開いた。
「ほ、本当か…?」
(私と同じ反応だわ。夫婦って似てくるって言うけどその通りね)
「ふふっ、本当よ」
「っ!ああ、セレーナ!今日はなんて素晴らしい日なんだ!」
シェインが優しく私を抱きしめてくれた。私もシェインの背中に手を回し抱きしめ返した。そしてそのままお互いの顔が近づいて…
「…コホン」
「「っ!」」
「仲が良いのはよろしいですができれば人がいないところでお願いします」
「「す、すみません」」
医者がいることを忘れて二人の世界に入ってしまっていたようだ。さすがに人前ですることではなかったと二人で反省した。
その後は今後の注意事項を医者から説明されたので二人でしっかりと聞いた。
魔法薬については低級回復薬ならつわりがひどい時には飲んでもいいそうだ。ただやはり病気ではないので魔法薬に頼りすぎるのはよくないと。本当にきつい時にだけ飲むようにして、普段は休憩したり横になったりしてつわりと上手く付き合っていくようにとのことだった。
それに当然寝不足はダメだと何度も言われてしまった。しっかり睡眠を取って食べられる時はバランスのよい食事を取るようにと言って医者は帰っていった。
部屋に二人きりとなった私たちは顔を合わせ笑いあったのだった。
◇◇◇
あの後は倒れたこともあり念のために仕事を二日お休みをしたが、三日目には体調も問題なかったので仕事に復帰した。
どうやら私はつわりが軽かったようで倒れた日以外はあまり症状がなく済んだ。あの日はやはり寝不足のせいでひどくなってしまったようだ。改めて睡眠の大切さを身をもって体験した私は、あれからは夜中に研究したりせずにしっかりと眠った。
そしてお腹の子も順調に育っていき迎えた出産の時。
前世の記憶があるので出産が痛いものだとは知ってはいたが、前世を含めて初めての出産は本当に痛かった。しかし痛みも我が子を目にした瞬間には忘れてしまっていたが。
パールグリーンの髪に水色の瞳の男の子。
とても小さくてとても愛らしい。
一日一日元気に成長している我が子はどれだけ見ていても飽きないものだ。
「可愛いわね」
「ああ、本当に可愛いな。目元はセレーナに似てるな」
「鼻と口はシェイン似かしら」
「うーん、そうか?」
「ええ。あ、そうだ。この子の名前なんだけど『ディアン』なんてどうかしら?」
「ディアン…。この子によく似合っている」
「ですってディアン」
「すーすー…」
「ふふっ」
「はははっ」
ディアンは私の腕に抱かれスヤスヤ眠っている。
こうして我が子を抱くことをどれだけ待ち望んだことか。ようやくその願いが叶ったのだ。
「セレーナ。これからは三人でもっと幸せになろうな」
「ええ、もちろんよ」
私たちは改めて幸せになることを誓い合ったのだった。
しかしそう遠くない未来、私たちの元にもう一人愛くるしい女の子がやって来ることをこの時はまだ知らないのである。
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