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しおりを挟む「…あの、もしかして取引相手はドルマン国のカリスト侯爵家ですか?」
「おお、良くご存じで」
「えっと実は」
「セレーナ」
シェインが心配そうに私に声をかけてきた。しかし私が屋敷を出ていったことでカリスト侯爵家の人間以外に迷惑がかかっていたことを知ってしまったのだ。その迷惑に対するお詫びはできないが、知ってしまった以上黙っているのは心苦しいものがある。
話せばどう思われるか不安はあるが、このまま黙って養子縁組してもらうわけにもいかないと思った私はスターリン侯爵夫妻に伝えることにした。
「シェインありがとう。私は大丈夫よ」
「…分かった」
「スターリン侯爵様。侯爵様は私がドルマン国の出身だということはご存じだと思いますが、実はドルマン国にいた時私は結婚をしておりました。そしてその相手が当時のカリスト侯爵家の嫡男だったのです。ただ結婚をしていたと言っても婚姻無効が証明されていますので実際には婚姻歴はありません」
「なんと…」
「そもそも私がカリスト侯爵家に嫁いだのは、魔法薬事業を始めるために必要な人材だったからです。魔力と知識のある私は朝から晩まで魔法薬を作り続けていましたが、二年程前に婚姻無効が証明されてすぐにカリスト侯爵家から出ていったのです。おそらく魔法薬を作っていたのは私一人でしたので、私が出ていったことで約束していた魔法薬を納めることができなくなったのでしょう。…私は自分のためだけにあの家を出ましたが、こうして目の前に私のせいで困っている方がいるということを思い知らされました。本当に申し訳ございません」
そう言って私は立ち上がり侯爵夫妻に頭を下げた。私はあの家を出たことは今でも後悔していないが、そのせいで困っている人がいるのも事実だ。
(きっと養子縁組は断られるわね…。だって今の困った状況の原因は全て私なんだもの)
素敵なお二人だっただけに残念に思うが仕方がない。そう思いながら頭を下げていると
「セレーナさん頭を上げてくれ。君が謝る必要なんてないさ」
「そうよセレーナさん。むしろ今までありがとうと言わせてちょうだい。そして辛い思いをさせてしまってごめんなさい」
「っ!」
まさか二人からこんな言葉を掛けられるとは思いもしなかった。
「でも…」
「セレーナさん。私はね患者を支えている人も健康ではなくてはならないと考えているんだ。だってそうだろう?支えてくれる人がいなければ誰も救うことはできないのだからね。私たちが取引で望んだ量の魔法薬をずっと一人で作り続けていたら間違いなくセレーナさんの健康は損なわれていただろう」
「ええ。そうなる前にセレーナさんが家を出る決断をしたことは決して悪いことではないわ。だから自分を責めないでちょうだい」
「っ…」
前世の記憶が戻り、更に時間が経って少しずつあの頃の記憶は薄れていたはずなのになぜか涙がこぼれた。自分が泣いていることに気づき急いで涙を拭おうとすると、シェインがハンカチで涙を拭いてくれた。
「大丈夫か?」
「なんだか胸に込み上げるものがあって気がついたら…」
「少し休憩するか?」
「…ううん、大丈夫。ありがとう」
「無理はするなよ」
「うん。…お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ございませんでした。そしてお二人のお言葉とても嬉しかったです。ありがとうございます」
私は侯爵夫妻に謝罪と感謝を伝えた。こんな素敵な方達に出会えたことは私にとって幸運なことだろう。
できることなら力になりたい。
でもどうすればと考えて一つ思い付いたことがある。もちろん上手くいくかは分からない。しかしやってみないことにも分からない。そう思い私は思い付いたことを話してみることにした。
「それで最初の話に戻りますが、魔法薬師としてではなく学園の教師としてなら力になれるかもしれません」
「学園の?詳しく聞いてもいいかい?」
「はい。ただこれは私が今思い付いたことなので上手くいくかは全く分かりません。それでも聞いてくださいますか?」
「ああもちろんだ。ぜひセレーナさんの考えを聞かせてくれないか」
「はい!」
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