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しおりを挟む「今日も一日終わったー」
私は自分に与えられた研究室で椅子に座って身体を伸ばした。
この仕事に就いてから一年が経過したが人に教えるというのは難しいなと日々痛感している。それでも充実しているし自分も今まで以上に成長していることが分かるこの毎日が楽しくて仕方がない。
「ふふっ、本当にラッキーだったわ」
「何がラッキーだったんだ?」
「わっ!な、何ですか!急に入ってこないでくださいよ!」
「いや、ちゃんとノックはしたぞ?」
そう言って突然部屋にやって来たのはあの時のお客さんであるシェイン先生だ。いや、正確に言えばアレス国第三王子シェイン・アレス殿下であるが。
「殿下がわざわざ私の研究室に用事でも?」
「用事がないと来てはダメなのか?それにここでは同じ教師なんだから名前で呼んでくれ」
シェイン先生とはあれから何だか関わることが多くって困ってしまう。同じ教師と言っても王子様と平民だ。どのような対応が正解なのか今でもよく分かっていない。それなのにシェイン先生はいつも私を気にかけてくれる。でも平民の私に返せるものなどなにもないし、シェイン先生にドキドキしてしまう自分にも嫌になる。
「はぁ。…シェイン先生」
「…いいな」
「どうしました?」
「ん?いいや、なんでもないさ」
「?それならいいのですが…。それで本当に何か用事でも?」
「いや、今日はもう仕事終わったんだろう?よかったら食事でもどうかと思って」
「え?私とですか?」
「当然だろう?そうじゃなきゃ俺は今ここにいないぞ?」
「…そうですよね」
まさか食事に誘われるとは考えていなかったので思わず聞き返してしまった。今までも気にかけてくれてはいたが、こうして食事に誘われるのは初めてだ。しかし一緒に食事なんてしてしまえばこのドキドキが更に悪化してしまうかもしれない。
ここは断るしかないと思い口を開いた。
「大変光栄なのですが今日は予定が…」
「肉がすごくおいしい店なんだが」
「行きます!…はっ!」
「くくく。よし、決まりな!今さらやっぱり行かないなんて言うのはなしだぞ?」
(しまった!断ろうと思ったのにお肉に釣られて…!)
これまでの食事のせいなのか記憶を思い出したせいなのか、食事に対する執着がとても強くなったように思う。特に食事の中でも肉と甘いものには目がない。まさに今回はおいしいお肉にまんまと釣られてしまったわけだ。
これは完全に私の負けである。
「…分かりました」
「じゃあまた後で迎えに来るから準備しておいてくれよな」
そう言ってシェイン先生は部屋から出ていき、一人残された私は深く息を吐いた。
「はぁ…。決まっちゃったものは仕方がないけどこれ以上ドキドキしないようにしなくちゃ」
そう言いつつもつい髪の毛を気にしてしまう自分がいる。今はただプラチナブロンドの髪を一つに束ねているだけなので髪型を変えようか迷ってしまう。
ちなみに私の本当の髪色はプラチナブロンドだ。茶色には魔法薬で変えていたし、以前の私はくすんだ金髪であったがこれも髪を染めていたのだ。本来はこのプラチナブロンドである。
教師としてここに来るにあたり茶色の髪では実力を疑われることもあるだろうし、住むところも教師用の宿舎が完備されていたので安心できることもあり髪色を戻すことに決めたのだ。
(そういえば髪色を戻した時シェイン先生すごく驚いてたっけ)
そんなことを思い出しながら結局私は髪型を変えるのであった。
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