【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20

文字の大きさ
上 下
8 / 37

サイラス視点

しおりを挟む

 私はセレーナからの手紙を読み終わった後、いつの間にか屋敷内の自室に戻っていた。自分で歩いて戻ったのか家令に連れてこられたのかすら思い出せない。

 それだけの衝撃をあの手紙から受けたのだ。


「私のせいだ…」


 あの手紙に書かれていることが本当であれば全て私のせいだ。私の心の準備などというくだらない理由で彼女を傷つけていたのだ。

 それを勘違いした使用人達からの嫌がらせも私がちゃんと彼女と向き合っていればすぐに気づけたはずなのに、私は時間の流れに身を任せるだけで向き合うことをしなかった。

 魔法薬の事業のことも実際には父が担っていることから確認を怠り、全ての作業を彼女一人でこなしていたことなど知らなかった。

 それに毎晩私を待ち続けていてくれていたことも…。

 その結果がこれだ。

 信じたくはないがつい先ほど教会から婚姻無効の通知が届いたことで信じなければならなくなった。先ほど通知が私の手元に届いたということは、セレーナが屋敷を出てから既に数日が経過していると考えられる。

 あの手紙の内容からアルレイ伯爵家に戻っている可能性はなさそうだ。そうすると彼女は一体どこへ行ってしまったのだろうか。今から追いかけようにも時間が経ちすぎている。動かない頭でなんとかしなければと考えるも何も思い浮かばない。

 そんな時に家令から声をかけられた。


「侯爵様、大奥様がいらっしゃっていますがいかがされますか…?」

「…この部屋に通してくれ」


 どうすればいいか分からない私は母に助けを求めることにした。ただ助けを求めるためには己の愚かな所業を母に伝えなければならないのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「あら、あなたがこの時間に屋敷に居るなんてめずらしいわね」


 母と会うのは久しぶりだ。たまに屋敷に顔を出しているのは知っていたが、私は仕事で城に居ることが多かったので直接会って話すのはいつぶりだろうか。


「…ご無沙汰してします」

「どうかしたの?何だか顔色が悪いようだけど…」

「その…」

「それにいつもならセレーナが出迎えに出てきてくれるのに…。今日はどうしたのかしら?」

「っ!」


 まさか母の口からすぐにセレーナの話が出るとは思ってもいなかった。どうやら母はセレーナのことを気にかけているようだ。しかし母の反応から見るに母が屋敷に来た時だけは使用人がうまく誤魔化していたのだろう。そうでなければいくらおっとりしている母でも気がつくはずだ。


「もしかして体調でも悪いのかしら…?」

「いえ、実は…」


 私はセレーナからの手紙を母に差し出した。母は突然差し出された手紙に首をかしげながらも目を通し始めるが、次第に表情が険しくなっていった。

 そして全て読み終えた母の顔にははっきりと怒りが窺えた。


「サイラス」

「っ、はい…」

「あなたはセレーナのことが好きだと思っていたのだけど私の勘違いだったのかしら?」

「いえ…、セレーナのことを愛しています」

「愛しているという割にはこの状況になるまで気がつかなかったなんて言わないわよね?」

「…申し訳ございません」

「謝る相手は私ではないわ。…それにあなたを叱りたいところだけどセレーナと顔を合わせていたのに気がつくことができなかった私にも責任があるわ」

「母上…」

「それなのに私は気づかないばかりかセレーナにプレッシャーをかけ続けていたなんて…。辛い思いをさせてしまったわ」

「…全ての原因は私です。私が情けないばかりに」

「今さら反省しても遅いわ」


 母の言う通りもう遅いことは頭では分かっている。教会で白い結婚の証明がされた今、もう二度とセレーナとやり直すことはできないのだ。

 しかし直接彼女に会って話がしたい。


「やり直せないことは分かっています。でもセレーナに直接謝らなければっ…!」

「そんなことセレーナは望んでいないはずよ。手紙に"もうお会いすることはない"って書いてあるんですもの。あなたの顔なんて見たくないはずよ」

「っ、でも!」

「それよりもあなたにはやらなくてはいけないことがあるでしょう?屋敷の管理くらいしっかりやりなさい。…それに魔法薬事業はあの人の管轄だわ。もしかしたらセレーナの状況を知っていたかもしれないわね…。私もやるべきことがあるから急いで戻ることにするわ。くれぐれも余計なことはしないように」 


 そう言って母は帰っていった。母の言うあの人とは父のことだ。父はこのことを知っていたのだろうか。

 それならばなぜ…。


 (っ!今はそんなこと考えている場合ではないな…。できることなら今すぐセレーナを探しだして謝りたいが今は屋敷内の確認をしなければ。そして必要であれば罰を与えなくてはいけないな) 


 おそらく屋敷の人間のほとんどが関与しているだろう。そうでなければ私の耳に全く届かないなんてあり得ない。果たしてどれだけの人数を処罰しなければならないのだろうか。

 それに私の愚かさの代償はそれだけでは済まない、そんな予感がした。


 (それでもいつか必ずセレーナに謝りに行かなければっ…!)


 私は密かにそう決意し、今はやるべきことをやらねばと動き始めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

契約婚なのだから契約を守るべきでしたわ、旦那様。

よもぎ
恋愛
白い結婚を三年間。その他いくつかの決まり事。アンネリーナはその条件を呑み、三年を過ごした。そうして結婚が終わるその日になって三年振りに会った戸籍上の夫に離縁を切り出されたアンネリーナは言う。追加の慰謝料を頂きます――

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

処理中です...