上 下
3 / 37

3

しおりを挟む

 魔法で光を灯し暗い道をひたすら歩き続ける。

 つい数時間前に前世の記憶を思い出してからすぐに屋敷を出てきて、色々と落ち着いて考える時間がなかったので今はちょうどいい。どうせ歩いてるだけなので考えてみようと思う。


 私の名前はセレーナ・カリスト。

 結婚前はセレーナ・アルレイでアルレイ伯爵家の娘であったが、三年前にカリスト侯爵家に嫁ぎ今の名前になった。

 旦那様の名前はサイラス・カリスト。

 私と旦那様はこの国ではめずらしくもない政略結婚だった。魔力のアルレイ伯爵家と財力のカリスト侯爵家。

 アルレイ伯爵家は魔力はあるがお金がなく、カリスト侯爵家は魔力を使った事業を新たに始めたく多くの魔力を持つ人材が欲しかった。そこで利害が一致した両家は豊富な魔力を持つ私をカリスト侯爵家に嫁に出し、アルレイ伯爵家は資金援助を受けることになったのだ。

 アルレイ伯爵家には娘が二人いるのだが、長女である私が嫁に出された。確かに私と妹では私の方が魔力が多いのだがそれが理由で嫁に出されたわけではない。

 私が両親と妹から疎まれていたからだ。

 本来なら家の繁栄のために魔力量が多い私が伯爵家を継ぐべきなのだが、それを両親が嫌がったのだ。どうやら私は父方の祖母に顔立ちが似ているようで、父も母も祖母のことが嫌いだったことから疎まれるようになってしまった。

 そして二年後に生まれた妹は母にそっくりだったこともあり、両親の愛は妹だけに注がれるようになった。そんな親の姿を見て育った妹は当然姉は疎んでもいい存在なのだと思っている。


 十二歳で学園に入学したが、私は両親に疎まれていたのでまともな教育を受けさせてもらえていない状態だった。

 それでも私には勉学の才能があったようでなんでもすぐに吸収していき、気づけば学年で一番を取るほどまでになっていた。

 友人もそれなりにでき楽しい学園生活を送っていたのだがそれも二年で終わってしまった。

 なぜかといえば妹が学園に入学してきたからだ。

 妹は勉学が苦手でその苦手を補うための努力も嫌だったようであまり成績が良くなかった。

 学年一位の姉と下から数えた方が早い成績の妹。妹は自分より成績のいい私を許せなかった。

『私よりお姉さまが目立つなんて許せない』

 そう両親に訴えれば私は妹よりいい成績を取ることを禁じられた。

 それからの学園生活は辛いものだった。

 理解しているものを理解していないふりをしなければならず、突然様子のおかしくなった私を友人達が敬遠しだし私は独りぼっちになった。しかし学びたい欲は無くなることはなく、その欲求を満たすために休み時間や放課後は図書室で過ごすようになった。


 そういえばその頃から図書室でよく誰かに見られていた気がしたがあれは一体誰だったのだろうか。ただもう学園を卒業してから三年が経った今、知る術などないので気にしても無駄だと思い直した。


 そして学園の最終学年になってすぐに婚約が決まり、卒業と同時に結婚式を挙げた。

 婚約期間は短いながらも存在したのだが、その間に旦那様に会うことも手紙や贈り物を貰うこともなかった。おそらく旦那様にとって私との婚約は不本意なものだったのだろう。しかし家同士の契約なので旦那様はどうすることもできず結婚するしかなかったのだと思う。

 初めて旦那様に会ったのは結婚式の時だった。バージンロードを歩いた先に旦那様がタキシード姿で立っていたのだ。

 黒い髪に黒い瞳が印象的な整った顔に長身だがしっかり鍛えているのが分かる体型、さぞかし女性にモテるだろう容姿をしていた。

 それに引き換え私はくすんだ金髪に女性としては高めの身長と残念な容姿だ。唯一の取り柄は水色の瞳くらいだろうか。

 魔力量が多いと髪と瞳の色が淡くなる傾向にあり、黒い髪に黒い瞳の旦那様はあまり魔力は多くないということが分かる。

 そして結婚式を無事に挙げ終わり、迎えた初夜で旦那様に言われたのだ。

『今は君を抱くことはできない』と。

 それからは与えられた新事業の仕事をこなし旦那様を待ち続ける日々。そうして三年が経ち十七歳で結婚した私は現在二十歳になっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

婚約者の姉から誰も守ってくれないなら、自分の身は自分で守るまでですが……

もるだ
恋愛
婚約者の姉から酷い暴言暴力を受けたのに「大目に見てやってよ」と笑って流されたので、自分の身は自分で守ることにします。公爵家の名に傷がついても知りません。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ
恋愛
 王太子を婚約者に持つ公爵令嬢レベッカ・ドルセーヌは学園の裏庭に呼び出されていた。呼び出したのは地味令嬢と言われている侯爵令嬢クロエ。ビクビクと体を震わせながらクロエは大声で言った。 「こ、婚約者様なら、ア、アラン様にもっと親切にしてあげてください!アラン様は繊細なお方なんですぅ。それが出来ないのなら、アラン様とは別れてくださいっ」 「分かりました、別れます」  だって王太子も「この子は義母義姉に虐められているから優しくしてあげて」の一点張りだ。だったらいっそのこと、王太子が彼女を幸せにしてあげれば良いのだ。  王太子はその後レベッカを失いながらもクロエを守ろうと尽力する。しかし私なんかと言って努力しないクロエに、次第に違和感を覚え始めて…… ※の時は視点が変わります。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした

朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。 わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

処理中です...