【完結】空気にされた青の令嬢は、自由を志す

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 学園入学からおよそ一年。とうとうこの日がやって来た。乙女ゲーム『ハナキミ』の悪役令嬢であるダリアローズが断罪される卒業パーティーの日だ。

 卒業パーティーは卒業式が終わった後に催される卒業生を祝うパーティーだ。卒業生を祝う為なので基本的に参加者は卒業生だけなのだが、ただ例外はあるもので卒業生の婚約者、王族とその婚約者、生徒会に所属する生徒は参加することができるのだ。だからゲームのダリアローズは王太子の婚約者としてパーティーに参加していた。ただ王太子のエスコートは無く一人での参加だったが。王太子は王族、フィンメルは生徒会、ダミアンは卒業生なのだが、ランドルフとマティアス、それにアナベルはパーティーの参加資格が無いにも関わらず参加していたのだ。おそらくゲームのアナベルはパーティーの時点で王太子の婚約者(仮)という立場にいたのだろう。このパーティーで王太子は王族として挨拶を述べるのだが、その挨拶の時にダリアローズへの断罪を始める。そしてその断罪によって絶望したダリアローズがラスボス化するも、ヒーローとヒロインに倒されゲームはハッピーエンドで終わりを迎えるのだ。なんてダリアローズが可哀想なんだと思った。アナベルにしたことは許されることではないけれど、誰かがダリアローズに寄り添ってくれていればこんな悲しい結末にはならなかっただろう。

 だから私(ダリアローズ)がダリアローズを救うのだ。

 無我夢中で進んできた九年、いやもう十年か。婚約の白紙とブルー家からの除籍、それにアナベルとは本当の友達になれた。もう断罪されることを心配する必要はないはずなのだが、今日が無事に終わらないと本当の意味での自由は手に入らないだろう。私は今日が無事に終わることを願った。


 卒業式はつつがなく終わり、まもなく卒業パーティーが始まる。今の私はただのダリアローズ。王太子の婚約者ではない私は卒業パーティーには参加できないししたくない。実は王太子から一緒に行かないかと誘われたのだが全力で断らせてもらった。絶対参加したくないし、そもそも私は婚約者ではないのだ。王太子は残念そうな顔をしながらも『分かった』 と引き下がってくれたから良かった。なぜ私を誘ったのかは謎だが。


 そして今、私は寮の自室にいる。アナベルも一緒だ。今頃パーティーが始まった頃だろう。私達はパーティーに参加することなく部屋で過ごすことに決めたのだ。これで断罪は絶対起きないだろう。私も安心できるし、卒業生達も自分達を祝う為のパーティーで断罪なんて事態になったら嫌な思い出になってしまっていただろう。 みんなにとって良い日になりそうで安心した。

「…十年か。長かったな」

「ダリア様どうかしましたか?」

「っ!ふふっ、何でもないわ」

「そうですか?それにしても一年ってあっという間でしたね!」

「そうね。あと一週間で終業式だなんて本当に早かったわ」

「…できることならダリア様と一緒に卒業したかったです」

「あっ…。ベル…ごめんなさいね」

「っ!わ、私こそすみません!寂しくてわがままを言ってしまいました…」

「わがままではないわよ。それにそう思ってくれて嬉しいわ。私もベルと一緒に学園に通うことができなくて寂しいけど自分で決めたことだから頑張りたいと思っているの」

「ダリア様ならパレット帝国の学園に行っても絶対大丈夫です!私が保証しますっ!」

 そう、私はこの一年が終わったら帝国に行くことに決めた。期間は二年。なので終業式をもって学園を退学することにしたのだ。学園の先生方には引き留めてもらったが、今の私にはこの学園で学べることは少ない。それなら大国である帝国に行って見聞を広げたいと思ったのだ。もちろんお祖父様に協力してもらう予定だ。ただアナベルと一緒に学園に通えないことは残念だが休暇にはこちらに帰ってきたいと思っている。

「ふふっ、それなら心強いわね。帝国に行ってもこちらには休暇になれば戻ってくるつもりよ。もしベルの予定が合えば会ってくれるかしら?」

「もちろんです!できることなら私から会いに行きたいくらいなんですからね!でもダリア様が新しい場所で頑張るのですから私も学園やローズ商会でたくさんのことを学んできます!」

「ベルなら素敵な治癒士になれるわ。お互いに頑張りましょうね」

「はいっ!」


 会話をしているとあっという間に時間が過ぎていて、気付いた頃には今日は終わりを迎えていたのだった。









 ――二年後



「マグダリア先生!」

「はい、どうかしましたか?」

 私はあれから帝国に渡りお祖父様の協力を得て帝国有数の学園であるトルキア学園に通っている。ただ通っているとは言っても生徒としてではなく教師としてなのだが。お祖父様に手配してもらって入学試験を受けたのだが結果は満点。満点はトルキア学園始まって以来の快挙だそうだ。その結果を聞いたお祖父様が

「ふむ。これだと学園に通う必要は無さそうだな…。…わしが孫娘に会いたいがために留学を勧めた手前どうしたものか」

「お祖父様?」

「うーむ……むっ!そうだ!ダリアが教師になって生徒に教えるというのはどうだ?ダリアの実力なら問題ないだろうし、人に教えるというのは良い経験になると思うのだが」

 確かに今まで人に何かを教えたのは、ジークに魔法を教えた時くらいだ。教えられる側と教える側では学べることも違ってくるだろう。せっかくなら色々経験してみたいと思い私はその提案を受け入れたのだ。

 そして私はこの二年間を教師として過ごしてきた。さすがにダリアローズの姿のままではどうかと思い姿と名前は変えてある。マグダリアというのが教師としての私の名前だ。


 歩いているところを生徒に呼び止められたので立ち止まって返事をする。

「先生、噂で聞いたのですが学園を辞めるというのは本当ですか?」

「あら、そんな噂が流れているのね。別に隠してた訳ではないのだけど、辞めるのは本当よ」

「そうなんですか…。先生の授業好きだったので残念です」

「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいわ。ありがとう。あと少しだけどよろしくね」

「はいっ!」

 帝国に来てまもなく二年になる。この二年はとても有意義な時間だったが二年が経てば私はまた王国に戻るつもりだ。
 そういえば帝国に来て一年が経つ頃、王太子とメルリルが婚約したと発表された。上級貴族であるイエロー家の令嬢だ。王太子の婚約者として適任だし、病気も治ったので健康面でも問題ないだろう。メルリルの学園卒業に合わせて結婚するそうだ。王太子がメルリルを大切にしてくれることを願うばかりである。

 メルリルの兄であるフィンメルは次期宰相を目指し頑張っているそうだ。それに最近医学を学びはじめたそうなのだが、理由は私に感化されたからなのだそう。なぜこんなことを知っているのかというと、私とメルリルが手紙のやり取りをしているからだ。フィンメルとは相変わらず兄妹仲がよく、将来は宰相と王妃としてカラフリア王国を支えていってくれるであろう。

 ランドルフとマティアスは最終学年で臨んだ大会で、ランドルフは剣術大会、マティアスは魔法大会で優勝したそうだ。そしてその後に行われる優勝者による試合は今までにないほどに白熱した試合だったとアナベルが興奮しながら言っていた。ランドルフは以前から魔法を使う訓練をしていたが、マティアスも接近戦闘の訓練を秘密裏にしていたようだ。二人はこれからも成長を続け、いずれは目標にたどり着けることだろう。

 元兄であるダミアンは学園卒業後、父親の補佐をしながら領地経営を学んでいるそうだ。あまり興味がないので私が知っていることはほとんどないが、あと私が知っていることと言えばお祖父様の許しはまだ得られていないということだけだ。果たして彼らは許される日がくるのだろうか。

 アナベルとは今でも頻繁に連絡を取っている。前世の電話をイメージした魔道具を作りアナベルにプレゼントしておいたのだ。普段は魔道具で連絡を取り合い、長期休暇の時には一時的に王国に戻って会っていた。最後にあった時に気付いたのだが、アナベルの瞳の色が青くなっていたのだ。青というと一瞬ダミアンが頭を過ったが二人の接点はほとんどないはず。そうすると青色の人物は私だけになる。私とアナベルは親友だがまさかの友情エンドなのかもしれない。そんなアナベルは学園で優秀な成績をキープしつつ、ローズ商会が運営する診療所で治癒士としての経験を積んできた。卒業後は正式にローズ商会で働くことが決まっている。いつか話した『一緒に働く』ことができて嬉しい限りだ。






 今日の授業も終わり家路に着く。食事をしてお風呂に入りあとは寝るだけの状態になると、部屋に置いてあった魔道具を手に取り起動する。これが毎日の日課になってからそろそろ一年が経つだろうか。私は魔道具に向かって話しかけた。

「まだ起きてる?」

『…あぁ起きてるぞ。今日もお疲れ』

「ジークも今日は依頼を受けてたんでしょう?お疲れ様」

 そう、実は私とジークは付き合い始めたのだ。あの告白からジークに口説かれるようになり、断ることしか考えていなかった私だが最終的には口説き落とされてしまったのだ。告白されてから一年後に付き合いだし、交際してからもうすぐ一年が経つ。

 毎日その日にあったことや他愛ない会話をしているのだが今日はいつもと違うようだ。

『…なぁ、リア』

「うん?なあに?」

『そろそろこっちに戻ってくるだろう?』

「ええ、そのつもりだけどそれがどうしたの?」

『あ、ああ。その…戻ってきたら大切な話があるからリアに聞いてほしいんだ』

「大切な話…」

 私だって鈍くはない。ジークの言う大切な話とは恐らく二人の将来の話だろう。前世のことで全く不安が無いと言えば嘘になるが、ジークはいつも私を大切にしてくれた。日に日にジークを想う気持ちが大きくなっていく。私はそんなジークを信じて共に未来を歩んでいきたいと思っている。

『聞いてくれるか…?』

「ええ、もちろんよ。私も戻ったらジークに伝えたいことがあるの。聞いてくれる?」

『っ!もちろんだ。早くリアに会いたい』

「ふふっ、私もよ。…そろそろ寝ましょうか」

『そうだな。明日も頑張ろうな。体には気をつけて。おやすみ、良い夢を』

「おやすみなさい。ジークも良い夢を」


 そして私はベッドに潜り込み眠る。

 その日見た夢はとても素敵な夢だった。




【完】
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