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(ここは実力の差を見せつけてあげましょう!)
と、ついさっきまで思っていたのに試合直前になってどうしようかと悩むはめになった。今私の目の前にはフィンメルがいるのだが彼のために悩んでいるのではない。私の視界に入る見学席にとてつもない美少女がいるのだが黄色の髪に黄色の瞳、どう見てもフィンメルの妹なのだ。あれ?病弱じゃないんだっけ?と一瞬思ったが、こそっと視力を強化してよく見ると顔色があまり良くない。こんな設定はなかったはずなのに私が作った魔道具のお陰で安全が確保されるようになり、大好きな兄を応援するために無理して来たのであろう。それなのに家族が会場に来られるようになった原因の魔道具を作った私があっという間に勝負を決めてしまうのはなんだが可哀想に思えてきて直前になって悩んでいるところだ。
(うーん、ここは互角を演じて試合終了前に勝つパターンに変更かな。さすがに一瞬で終わらせちゃうのは妹さんに申し訳ないし。ついでにフィンメルの実力を確かめてみますか)
私は負けるつもりはないのでフィンメルの一回戦敗退は変わらないが、一瞬で負けるのと接戦で負けるのとでは同じ負けでも全然違うので妹さんにはそれで勘弁してもらいたいところだ。改めて目の前にいるフィンメルを見る。するとフィンメルが私に話しかけてきた。
「まさかブルー嬢が大会に出るなんて思ってませんでしたよ。いや、今はただのダリアローズ嬢でしたね」
「あら、さすが宰相様のご子息様。よくご存じですね。もしかして私のこと調べてます?」
「一体何を仰っているのやら、私はただ事実を述べただけですよ。それとも何か調べられるとまずいことでも?」
やはり私のことを調べていたようだが真っ先に除籍の件を言ってくるあたり、王太子は私との約束を守って婚約のことについては詳しく教えなかったのだろう。
「いいえ?疚しいことはありませんから思う存分調べてくださいな。王太子殿下は私との約束を守らなければならないので婚約の顔合わせでのお話は教えられないでしょうから」
「なに?」
「さぁ試合が始まるのでおしゃべりはここまでで。お互いにいい試合をしましょうね」
「…そうですね。どんな魔法でランドルフに勝ったのかは知りませんが今日は魔法は使えないですからね。この試合は私が勝ちますがご了承ください、ダリアローズ嬢」
「分かりました。ではお手並み拝見させてもらいますね」
「それでは、始めっ!」
「はっ!」
審判による試合開始の合図と同時にフィンメルが攻撃をしてきたので剣で受け止める。
(勝つと言うだけあってそこそこ実力はありそうね)
そこから打ち合いが始まり、この打ち合いでフィンメルの実力は大体分かった。パワーはランドルフに劣るものの、その代わりスピードがある。スピードを活かして私に休む暇を与えず打ち込んでくるが、本人に疲れた様子は見受けられない。スタミナもあるのだろう、さすが攻略対象者と言ったところか。ただわずかに左からの攻撃には反応が遅れるようなので左を重点的に狙っていく。やはり左からの攻撃が苦手なようで表情が険しくなってきた。
「っつ!貴女っ…!」
私がわざと左から攻撃していることに気付いたのだろう、フィンメルが悔しそうに呟いた。観客から見れば互角の闘いのように見えているだろうが実際は少しずつフィンメルが押され始めている。
「さすがイエロー家のご子息様、お強いですね」
「チッ…!」
そんなことを言っていると突然見学席から大きな声が聞こえてきた。
「お兄様ー、頑張ってー!っ!ゴホッゴホッ」
「っ!メルリルっ!?」
フィンメルの妹、メルリルの声のようだが大きな声を出したからか激しく咳き込んでいた。
(あの美少女はメルリルっていうのね。フィンメルに勝ってしまったらメルリルに嫌われちゃいそうだな。…それにしても体調が悪そうだし大丈夫かしら?)
妹のことを本当に大切にしているのだろう。激しく咳き込んだところでフィンメルの注意が一瞬私から逸れた。申し訳ないけど試合時間もそろそろ終わりなのでここで決着をつけてしまおうと苦手な左から剣を振り上げフィンメルの首に突き付けた。
「なっ!?」
「試合終了!ダリアローズ嬢の勝ちっ!」
この結果に会場がざわめいた。誰もが女である私が勝つなんて予想してなかっただろうし、相手は宰相の息子であり王太子の側近であるフィンメルだ。当然フィンメルが勝つと思ってたし実際にフィンメルの方が優勢に見えていた。彼が劣勢だったというのに気付いたのはおそらく本人だけだろう。
「素晴らしい剣を見せていただきありがとうございました。では私はこれで」
嫌みに聞こえるだろうが一応お礼を言ってから退場しようとしたら
「…なぜ、本気を出さなかったんです。始めから私を馬鹿にしていたんですか?」
「馬鹿になんてしてませんよ。まぁ強いて言うのであれば私が可愛い妖精さんに惑わされてしまったから、ですかね」
そう言ってチラリとメルリルの方に視線を向けるとフィンメルの表情が歪んだ。
「妹に何かしたら許さないからな」
「はぁ、失礼な人ですね。妹さんにもあなたにも関わりませんから安心してください。それでは」
どうやら妹のことになると性格が変わるようだ。相手にするのも馬鹿らしいのでさっさと控え室に戻ろうと通路を歩いていると、反対側の通路からメルリルと従者が現れた。おそらくフィンメルの控え室に向かうのであろう。すれ違いざまに会釈をしたら向こうも私に気付き会釈を返してくれた。
(近くで見るとさらに美少女っぷりが半端ない!でもやっぱり顔色は良くなさそうだしさっきもずいぶんと咳き込んでたけど大丈夫かしら)
「お兄様っ!」
私の後ろからやって来たフィンメルに嬉しそうな声で呼び掛けていた。
(この兄妹は本当に仲がいいのね)
「メルリル!応援に来てくれるのは嬉しいけど体調は大丈夫かい?顔色が良くないようだが無理はしてないか?」
「もう子ども扱いしないでください!お薬だってちゃんと飲んできたわ!それよりお兄様!一回戦で負けちゃうなんて…もっと応援したかったのに」
「私にとってお前はいつまで経っても可愛い子どもだよ。負けてしまってすまなかったが応援嬉しかったよ、ありがとな」
微笑みながらメルリルの頭を撫でるフィンメルは本当に妹のことを大切にしているようだ。
「もう仕方ないですね!許してあげますから来年はもっとがんば、!っ、うっ!く、くるし…」
「メルリルっ!」
そっと二人の様子を見ていたが次の試合があることを思い出し、その場を離れようとしたその時メルリルが急に苦しみだした。
「メルリル大丈夫だ、薬を飲めばすぐに落ち着くからな。おい!早く薬を!」
「も、申し訳ございません!実は今日すでに一度発作があって薬を飲んでいるのです」
「なんだと!?発作の薬は効果が強すぎるから一日一度しか服用できないのに…なぜ発作があったのに外出させたんだ!」
「っ!お、お嬢様がどうしてもフィンメル様の応援に行きたいと…申し訳ございません!」
「私が大会のことなど話さなければ…くそっ、ここでは回復魔法が使えない!急いで治癒士のところに行くぞ!」
「お、おに、い…さま、ご、めん、な…」
「メルリル!大丈夫だからしゃべるな!…(薬も使えず、魔法も大会会場であるここは魔道具が使われていて使えない。頼みは大会のために待機している治癒士に治療をしてもらうことだがこの場所から少し距離がある…、今にも意識を失いそうなメルリルが耐えられるかどうかっ…)、くそっ!」
これはかなりまずい状況だと私にも分かった。
(フィンメルも相当焦っているし何よりメルリルの意識が途切れそう!治癒士の所に行こうとしてるんでしょうが少し距離がありすぎる…。人の命には変えられない!私がやるしかなさそうね)
すぐにフィンメルに声をかける。
「何をボサッとしてるんですか!早くあなたの控え室に運んでっ!」
「っ!何を言ってるんだ!この状況が分かるなら邪魔をするな!」
「うるさいっ!妹さんを助けたいなら言うことを聞きなさい!」
「なっ!?」
「私ならこの場所でも回復魔法が使えるわ。でもさすがに通路では人目につくからあなたの控え室に行くの!ここから近いんでしょ!?」
「ほ、本当か!?」
「この状況で嘘をつくわけないでしょ!さっさとして!」
「っ、分かった!お前は父に連絡を!行くぞ!」
従者に指示を出し、メルリルを抱き抱え急いでフィンメルの控え室に向かった。控え室に着き、メルリルをソファの上に寝かせ今の状態を確認する。
(呼吸が浅いわね…胸を押さえているってことは心臓辺りが悪いのかしら?)
「妹さんは何のご病気なんですか?」
「…魔力通路狭窄症だ」
「!たしかその病気は先天的なものですね…小さい頃から辛かったわね」
魔力通路狭窄症は名前の通り魔力が通る管が狭くなっている病気だ。この病気は生まれつきのもので今の医学では治すことが出来ないが、薬を服用するか回復魔法を使うことで症状を軽くすることはできる。ただその効果は本当に一時的なものでこの病気で亡くなる人が多いのが現実だ。さらにメルリルは上級貴族であるので恐らく魔力が多い。この病気は魔力が多ければ多いほど管に魔力が集中するので相当辛いはずだ。
(それでも応援に駆けつける程兄のことが大好きなのね。素敵な兄妹で羨ましいわ)
「じゃあ回復魔法をかけるわよ」
「頼む…」
通常の回復魔法は一時的な効果しかないが回復魔法をかけるのはこの私だ。メルリルの胸の前に手をかざして私は想像する。
(魔力の管を広げる…前世の世界であったカテーテル治療をイメージしてっと。…よし、『回復』)
するとメルリルの体が一瞬光に包まれた。
「なっ!?」
フィンメルが驚いているのを見ると今までの回復魔法ではこのようなことがなかったのだろう。光がおさまるとメルリルは穏やかな表情で眠っていた。
(ふぅ、これでもう大丈夫でしょう。さすがに魔力を結構使ったわね。でも今日は魔法は使わないしいいか…ってまだ大会中だった!今の時間は…ぎゃっ!もうすぐ二回戦始まっちゃう!)
気づけば結構な時間が経っておりまもなく二回戦が始まる時間になっていた。不戦敗で負けるなんて絶対に嫌なのですぐに会場に向かわなければとこの場を後にする。
「妹さんはもう大丈夫ですが念のためお医者様に診てもらってくださいね。ではこの後試合があるので失礼します!」
「ま、待ってくれ!」
「あっ!約束通り妹さんにもあなたにも今後関わりませんから今日だけは許してくださいね!あと魔法のことは秘密でお願いします!ではっ!」
「待ってくれっ…、」
フィンメルがまだ何か言っていたがもう関わるつもりもないし今は試合に間に合わせることの方が重要なので無視して控え室から出ていった。結果として無事試合に間に合い、二回戦も勝利したのだった。
と、ついさっきまで思っていたのに試合直前になってどうしようかと悩むはめになった。今私の目の前にはフィンメルがいるのだが彼のために悩んでいるのではない。私の視界に入る見学席にとてつもない美少女がいるのだが黄色の髪に黄色の瞳、どう見てもフィンメルの妹なのだ。あれ?病弱じゃないんだっけ?と一瞬思ったが、こそっと視力を強化してよく見ると顔色があまり良くない。こんな設定はなかったはずなのに私が作った魔道具のお陰で安全が確保されるようになり、大好きな兄を応援するために無理して来たのであろう。それなのに家族が会場に来られるようになった原因の魔道具を作った私があっという間に勝負を決めてしまうのはなんだが可哀想に思えてきて直前になって悩んでいるところだ。
(うーん、ここは互角を演じて試合終了前に勝つパターンに変更かな。さすがに一瞬で終わらせちゃうのは妹さんに申し訳ないし。ついでにフィンメルの実力を確かめてみますか)
私は負けるつもりはないのでフィンメルの一回戦敗退は変わらないが、一瞬で負けるのと接戦で負けるのとでは同じ負けでも全然違うので妹さんにはそれで勘弁してもらいたいところだ。改めて目の前にいるフィンメルを見る。するとフィンメルが私に話しかけてきた。
「まさかブルー嬢が大会に出るなんて思ってませんでしたよ。いや、今はただのダリアローズ嬢でしたね」
「あら、さすが宰相様のご子息様。よくご存じですね。もしかして私のこと調べてます?」
「一体何を仰っているのやら、私はただ事実を述べただけですよ。それとも何か調べられるとまずいことでも?」
やはり私のことを調べていたようだが真っ先に除籍の件を言ってくるあたり、王太子は私との約束を守って婚約のことについては詳しく教えなかったのだろう。
「いいえ?疚しいことはありませんから思う存分調べてくださいな。王太子殿下は私との約束を守らなければならないので婚約の顔合わせでのお話は教えられないでしょうから」
「なに?」
「さぁ試合が始まるのでおしゃべりはここまでで。お互いにいい試合をしましょうね」
「…そうですね。どんな魔法でランドルフに勝ったのかは知りませんが今日は魔法は使えないですからね。この試合は私が勝ちますがご了承ください、ダリアローズ嬢」
「分かりました。ではお手並み拝見させてもらいますね」
「それでは、始めっ!」
「はっ!」
審判による試合開始の合図と同時にフィンメルが攻撃をしてきたので剣で受け止める。
(勝つと言うだけあってそこそこ実力はありそうね)
そこから打ち合いが始まり、この打ち合いでフィンメルの実力は大体分かった。パワーはランドルフに劣るものの、その代わりスピードがある。スピードを活かして私に休む暇を与えず打ち込んでくるが、本人に疲れた様子は見受けられない。スタミナもあるのだろう、さすが攻略対象者と言ったところか。ただわずかに左からの攻撃には反応が遅れるようなので左を重点的に狙っていく。やはり左からの攻撃が苦手なようで表情が険しくなってきた。
「っつ!貴女っ…!」
私がわざと左から攻撃していることに気付いたのだろう、フィンメルが悔しそうに呟いた。観客から見れば互角の闘いのように見えているだろうが実際は少しずつフィンメルが押され始めている。
「さすがイエロー家のご子息様、お強いですね」
「チッ…!」
そんなことを言っていると突然見学席から大きな声が聞こえてきた。
「お兄様ー、頑張ってー!っ!ゴホッゴホッ」
「っ!メルリルっ!?」
フィンメルの妹、メルリルの声のようだが大きな声を出したからか激しく咳き込んでいた。
(あの美少女はメルリルっていうのね。フィンメルに勝ってしまったらメルリルに嫌われちゃいそうだな。…それにしても体調が悪そうだし大丈夫かしら?)
妹のことを本当に大切にしているのだろう。激しく咳き込んだところでフィンメルの注意が一瞬私から逸れた。申し訳ないけど試合時間もそろそろ終わりなのでここで決着をつけてしまおうと苦手な左から剣を振り上げフィンメルの首に突き付けた。
「なっ!?」
「試合終了!ダリアローズ嬢の勝ちっ!」
この結果に会場がざわめいた。誰もが女である私が勝つなんて予想してなかっただろうし、相手は宰相の息子であり王太子の側近であるフィンメルだ。当然フィンメルが勝つと思ってたし実際にフィンメルの方が優勢に見えていた。彼が劣勢だったというのに気付いたのはおそらく本人だけだろう。
「素晴らしい剣を見せていただきありがとうございました。では私はこれで」
嫌みに聞こえるだろうが一応お礼を言ってから退場しようとしたら
「…なぜ、本気を出さなかったんです。始めから私を馬鹿にしていたんですか?」
「馬鹿になんてしてませんよ。まぁ強いて言うのであれば私が可愛い妖精さんに惑わされてしまったから、ですかね」
そう言ってチラリとメルリルの方に視線を向けるとフィンメルの表情が歪んだ。
「妹に何かしたら許さないからな」
「はぁ、失礼な人ですね。妹さんにもあなたにも関わりませんから安心してください。それでは」
どうやら妹のことになると性格が変わるようだ。相手にするのも馬鹿らしいのでさっさと控え室に戻ろうと通路を歩いていると、反対側の通路からメルリルと従者が現れた。おそらくフィンメルの控え室に向かうのであろう。すれ違いざまに会釈をしたら向こうも私に気付き会釈を返してくれた。
(近くで見るとさらに美少女っぷりが半端ない!でもやっぱり顔色は良くなさそうだしさっきもずいぶんと咳き込んでたけど大丈夫かしら)
「お兄様っ!」
私の後ろからやって来たフィンメルに嬉しそうな声で呼び掛けていた。
(この兄妹は本当に仲がいいのね)
「メルリル!応援に来てくれるのは嬉しいけど体調は大丈夫かい?顔色が良くないようだが無理はしてないか?」
「もう子ども扱いしないでください!お薬だってちゃんと飲んできたわ!それよりお兄様!一回戦で負けちゃうなんて…もっと応援したかったのに」
「私にとってお前はいつまで経っても可愛い子どもだよ。負けてしまってすまなかったが応援嬉しかったよ、ありがとな」
微笑みながらメルリルの頭を撫でるフィンメルは本当に妹のことを大切にしているようだ。
「もう仕方ないですね!許してあげますから来年はもっとがんば、!っ、うっ!く、くるし…」
「メルリルっ!」
そっと二人の様子を見ていたが次の試合があることを思い出し、その場を離れようとしたその時メルリルが急に苦しみだした。
「メルリル大丈夫だ、薬を飲めばすぐに落ち着くからな。おい!早く薬を!」
「も、申し訳ございません!実は今日すでに一度発作があって薬を飲んでいるのです」
「なんだと!?発作の薬は効果が強すぎるから一日一度しか服用できないのに…なぜ発作があったのに外出させたんだ!」
「っ!お、お嬢様がどうしてもフィンメル様の応援に行きたいと…申し訳ございません!」
「私が大会のことなど話さなければ…くそっ、ここでは回復魔法が使えない!急いで治癒士のところに行くぞ!」
「お、おに、い…さま、ご、めん、な…」
「メルリル!大丈夫だからしゃべるな!…(薬も使えず、魔法も大会会場であるここは魔道具が使われていて使えない。頼みは大会のために待機している治癒士に治療をしてもらうことだがこの場所から少し距離がある…、今にも意識を失いそうなメルリルが耐えられるかどうかっ…)、くそっ!」
これはかなりまずい状況だと私にも分かった。
(フィンメルも相当焦っているし何よりメルリルの意識が途切れそう!治癒士の所に行こうとしてるんでしょうが少し距離がありすぎる…。人の命には変えられない!私がやるしかなさそうね)
すぐにフィンメルに声をかける。
「何をボサッとしてるんですか!早くあなたの控え室に運んでっ!」
「っ!何を言ってるんだ!この状況が分かるなら邪魔をするな!」
「うるさいっ!妹さんを助けたいなら言うことを聞きなさい!」
「なっ!?」
「私ならこの場所でも回復魔法が使えるわ。でもさすがに通路では人目につくからあなたの控え室に行くの!ここから近いんでしょ!?」
「ほ、本当か!?」
「この状況で嘘をつくわけないでしょ!さっさとして!」
「っ、分かった!お前は父に連絡を!行くぞ!」
従者に指示を出し、メルリルを抱き抱え急いでフィンメルの控え室に向かった。控え室に着き、メルリルをソファの上に寝かせ今の状態を確認する。
(呼吸が浅いわね…胸を押さえているってことは心臓辺りが悪いのかしら?)
「妹さんは何のご病気なんですか?」
「…魔力通路狭窄症だ」
「!たしかその病気は先天的なものですね…小さい頃から辛かったわね」
魔力通路狭窄症は名前の通り魔力が通る管が狭くなっている病気だ。この病気は生まれつきのもので今の医学では治すことが出来ないが、薬を服用するか回復魔法を使うことで症状を軽くすることはできる。ただその効果は本当に一時的なものでこの病気で亡くなる人が多いのが現実だ。さらにメルリルは上級貴族であるので恐らく魔力が多い。この病気は魔力が多ければ多いほど管に魔力が集中するので相当辛いはずだ。
(それでも応援に駆けつける程兄のことが大好きなのね。素敵な兄妹で羨ましいわ)
「じゃあ回復魔法をかけるわよ」
「頼む…」
通常の回復魔法は一時的な効果しかないが回復魔法をかけるのはこの私だ。メルリルの胸の前に手をかざして私は想像する。
(魔力の管を広げる…前世の世界であったカテーテル治療をイメージしてっと。…よし、『回復』)
するとメルリルの体が一瞬光に包まれた。
「なっ!?」
フィンメルが驚いているのを見ると今までの回復魔法ではこのようなことがなかったのだろう。光がおさまるとメルリルは穏やかな表情で眠っていた。
(ふぅ、これでもう大丈夫でしょう。さすがに魔力を結構使ったわね。でも今日は魔法は使わないしいいか…ってまだ大会中だった!今の時間は…ぎゃっ!もうすぐ二回戦始まっちゃう!)
気づけば結構な時間が経っておりまもなく二回戦が始まる時間になっていた。不戦敗で負けるなんて絶対に嫌なのですぐに会場に向かわなければとこの場を後にする。
「妹さんはもう大丈夫ですが念のためお医者様に診てもらってくださいね。ではこの後試合があるので失礼します!」
「ま、待ってくれ!」
「あっ!約束通り妹さんにもあなたにも今後関わりませんから今日だけは許してくださいね!あと魔法のことは秘密でお願いします!ではっ!」
「待ってくれっ…、」
フィンメルがまだ何か言っていたがもう関わるつもりもないし今は試合に間に合わせることの方が重要なので無視して控え室から出ていった。結果として無事試合に間に合い、二回戦も勝利したのだった。
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