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ランドルフ・レッド

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 俺はランドルフ・レッド。上級貴族レッド家の長男だ。家族は父と母、それと歳の離れた弟がいる。父はレッド家の当主であり王宮騎士団の団長でもある。俺も将来父のようになりたくて父に剣を習いたいとお願いをしたが、忙しい父には直接指導してもらうことは出来なかった。代わりに父が剣の教師を連れてきてくれて剣を学ぶようになった。
 王宮騎士団団長は世襲ではなく完全に実力で選ばれるので父親が団長であろうと俺が団長になれる保証は全くない。レッド家の後継者でもあるので勉学もほどほどには頑張ってきたが、空いてる時間があれば剣を振り続けた。

 俺が十歳になり同年代では自分に勝てるものがいなくなった頃、俺は王太子であるクラウス様の側近に選ばれた。父も陛下が王太子だった時に側近に選ばれていたこともあり、騎士団団長の夢が一気に近づいたように感じた。それにクラウス様とは気が合った。たまにクラウス様と手合わせをしたが俺が負けることはなかった。

「私もそれなりに訓練はしてきたんだがほんとにドルは強いな。これなら将来の王宮騎士団も安泰だ」

「クラウス様を守るのが俺の役目ですから。これからも精進して必ず騎士団長になってみせます!」

「あぁ、期待してるよ」

 それからも剣を振り続けていたが、学園に入学する前あたりから伸び悩み始めていた。最初は体の成長による一時的なものかと思っていたがそうではないようだ。何か物足りなさを感じるようになりそれを父に相談すると

「なぜ魔法を使わないんだ?」

 そう言われた。
 なぜって言われたって今まで誰にもそんなこと言われてこなかった。今まで剣を教えてくれた人は『剣が一番だ』としか言っていなかった。いや、魔法のことも言ってはいたがそれは『魔法は弱いやつが使うもの』だと。そう父に伝えると、

「人選を誤ったな…。ただ今よりも強くなりたいのなら魔法は使わなくてはならない。ちょうどもうすぐ学園に行くのだ。学園でしっかり学んできなさい」

 魔法を使えば今より強くなれる、そうは言われてもどうしても受け入れられなかった。上級貴族である俺は魔力が多い方なので今すぐにでも剣に魔法を取り入れようと思えばできる。でも今までの人生で『魔法は弱いやつが使うもの』という固定概念が出来上がってしまい、魔法を使ったら逆に弱くなってしまうのではと思ってしまっていた。

 そうして葛藤しているうちに学園入学直前になった。最近は悩みすぎて気分が優れなかったが、クラウス様に呼ばれたので会いに行ったらもう一人の側近であるフィンメルも呼ばれていた。呼ばれたもののクラウス様もどこか調子が悪そうに見えた。そういえばブルー家の令嬢と婚約するんだったなと、今になって思い出した。ブルー家の令嬢と言えば表舞台に全く顔を出したことのない謎の令嬢だ。誰もその姿を見たことがないからと色々噂をされており、病弱令嬢や我儘令嬢、不細工令嬢なんて言われているのを聞いたことがある。そのように噂される令嬢と婚約したから様子がおかしいのだろうか?フィンメルも同じように思ったのであろう。

「クラウス様、どうかされたのですか?」

「あぁ、フィンメルにランドルフ。来てくれたんだな。いや、学園に入学する前に二人には伝えておくことがあって呼んだんだ」

「あまり調子がよろしくないように見えますが…」

「別に体調が悪いわけではないから心配するな。少し思うところがあって眠れなかっただけだ」

「眠れなくなるようなことがあったのですか?」

「あぁ、それがお前達を呼んだ理由だ。詳しく話すことは出来ないが、今回のブルー家との婚約は白紙になった」

「えっ!?」
「な、何故ですか!?」

「…理由を教えることはできない。それでもお前達に伝えたのは令嬢も学園に入学するからだ。私、いや王家は彼女と婚約することを諦めた。学園で彼女に威圧的に接してほしくないから事前に伝えておく。ただはっきりと言えることは彼女を敵にまわしてはいけないということだ」

 王家が婚約を諦めざるを得ない何かがあったんだろうと俺とフィンメルは理解した。その何かは分からないがクラウス様がそうしろというならそれに従うだけだ。ただフィンメルは理解はしたが納得はしていないようだったが。それにしてもブルー家の令嬢はどんな人物なんだろうかとその時は思っていたが、家に帰ってからは剣のことで頭がいっぱいになり忘れてしまっていた。


 それからすぐに学園に入学し学園生活を送っているが未だに答えはでない。むしろ他の騎士科の生徒も『剣が最強』という考えの者ばかりで、そんな奴らが周りにいれば当然のごとくさらに魔法を受け入れられなくなっていた。

 そんな時にあったのがあの合同授業だ。俺はこの日を忘れることはないだろう。

 あの日授業を受けに訓練場に行くと顔見知りのやつがいた。マティアス・グリーン。マティアスとはお互いに上級貴族であるので昔からの顔見知りだ。ただ俺は剣、あいつは魔法、仲良くなれるはずはなく、顔を合わせるといつも言い争ってしまう。この日もまた言い争ってしまった。

「なぜこんな軟弱な奴らと一緒に授業なんかしないといけないんだ!」

「はっ、それはこっちのセリフだ。こんな筋肉だけが取り柄の奴らと一緒だなんて信じられない」

「このメガネが!」

「この脳筋が!」

 王太子の側近がするべき行動ではないと頭では分かっていたが、最近の悩みのこともあってイライラしていたので、ちょうどこの後することになった委員長同士の試合で憂さ晴らしをしようと決めた。魔法科の委員長はマティアスだろうから、剣と魔法どちらが強いか決めるのにちょうどいいと思っていたのだ。しかし代表者として現れたのは青い髪に青い瞳の女だった。

 (こいつが委員長なのか!?)

 女が相手じゃ剣と魔法関係なく男の俺が絶対に勝ってしまう。それじゃ全く意味がない。

「ふん、相手が女だからって手加減しないぞ」

 この状況がさらに俺をイライラさせ、言わなくていいことを言ってしまった。すると相手の女とその隣にいた女が嫌悪感を露にした表情になった。そこでまずいと思ったがもう止めることができなかった。その後教師から試合の説明があった。

「基本試合は何を使ってもいいです。ただ大怪我に繋がるような行為は禁止です。危険だと判断したら試合を止めますし、危険行為をした方が負けになります。では正々堂々勝負するように」

 もうやけくそになっていた俺は勝つことだけに集中することにした。

「魔法より剣が最強だって証明してやるよ」

「そう、じゃあ私も剣だけで攻撃してあげるわ」

「なっ!?」

「でも魔法科の私が勝っちゃったらごめんなさいね?」

 (魔法科のやつが剣で俺に勝てるわけないのにこいつは何を言ってるんだ!そうか、俺を挑発させるつもりなんだな。その手には乗らないぞ!)

「ふん!俺を挑発しようとしたって無駄だ!後悔したって知らないからな」

「そっちこそ後悔しないでね。では先生始めましょう」

「…それでは、始めっ!」

 こんな結果の分かりきった試合などさっさと終わらせてやる。

「はぁぁぁあっ!」

 俺は一撃で終わらせるつもりで力一杯剣を振りかぶった。どうせ受け止めきれなくて終わるだろうとたかをくくっていたが、まさか避けられるとは思ってもみなかった。一撃で決められなかったのは悔しいがそのまま続けて剣を打ち込んでいく。俺の攻撃に相手は防戦一方だ。

「あれだけ言っていたのにこの程度かよ。弱すぎてつまらねぇ、なっ!」

「あら、ちょうど私もつまらないと思ってたところよ。じゃあ終わりにしましょう」

「はっ?」

 何言ってんだこいつ、と思った次の瞬間相手が剣を振ってきた。とっさに剣で受け止めたが受け止めた衝撃で俺の剣が折れてしまった。

「なっ!?剣がっ!」

「はい、終わりよ」

 剣が折れて動揺した一瞬の隙に相手が俺の首に剣を突き付けてきた。突然過ぎて状況を理解するのに時間が掛かったが俺の剣は常日頃から使っている剣だ。手入れも欠かしたことがないしそもそも一級品の剣である。その剣がただの訓練用の剣に折られてしまった。

「っ終了!魔法科の勝ち!」

 試合終了の合図で相手の女が剣をおろした。俺が負けただと…?

「剣が折れてしまうなんて、あなたって弱いのね?」

「なんだと!?これはまぐれだ!」

「私の実力が信じられないの?信じられないならよく周りを見てみなさい」

「周りがなんだって…っ、お前!?」

 そう言われ周りを見てみると女の立っている位置が試合開始前と変わらないことに気づいた。

「気づいてもらえて良かったわ。そう、私は試合が始まってから一歩も動かずにあなたの剣を折って勝ったって訳。これでもまぐれだなんて言うのかしら?」

 一歩も動かずにだと?相手が素人ならともかくこの俺が相手だったのにこんなことがあり得るのか!?

「っつ…!だ、だが最後急に力が強くなった!何かしたんだろ!?」

「そりゃもちろん魔法を使いましたよ?剣と自分の体にね」

 やっぱり何かしたと思ったが魔法を使っていただなんて!

「剣しか使わないって言ってただろう!」

「剣だけで攻撃すると言ったんです。嘘は言ってませんよ?魔法で攻撃してませんからね」

「そ、そんなっ…」

 確かに魔法で攻撃はされていない。剣でしか攻撃されてないはずなのに何故騎士科の俺が負けたんだ!そう自分の中で自問自答をしていると

「魔法か剣かどちらかだけが強いと決めつけるのはどうかと思うわよ。現に私はどちらも使ってあなたに勝ったんですからね。要は使い方です。それを理解できない限り、あなたは私に勝てないですよ。さぁ先生、試合も終わりましたし授業にしましょう。学園は学ぶための場所なんですからね、しっかり学んでいかないと」

 そう言われてハッとした。これが父が言っていた『魔法を使えば強くなれる』ということではないのか?今まであれだけ悩んで受け入れられなかったのに、身をもって体験してみるとすんなりと受け入れることができた。

「くそっ…今の俺じゃあんたに勝てる気がしない…」

「そりゃそうよ。剣とか魔法とかってこだわっているうちはね。もう少し視野を広げてみることをお勧めするわ。さぁとりあえず今は授業を受けましょう」

「…分かった」

 すると女は何かが可笑しかったのか笑ったのだ。

「ふふっ、素直でよろしい」

 その笑顔になぜか胸が高鳴り顔が熱くなってきた。

 (これは一体なんなんだ!?…ただ彼女のことをもっと知りたい)

「っ!…今さらなんだが名前を聞いても良いだろうか?」

「私の名前ですか?私って結構有名人らしいのでご存知なのかと思ってました。まぁ悪い意味での有名人ですけどね。では改めて、私はダリアローズ・ブルーと申します。これからも授業が一緒になると思いますのでよろしくお願いしますね」

 まさか彼女がブルー家の謎の令嬢だったとは。クラウス様が敵にするなと言った相手…不思議な令嬢だ。

「ブルー家の…。失礼な態度で申し訳なかった。こちらこそよろしく頼む」

「反省してくださるならそれで結構ですよ。では失礼します」

 そう言ってあっという間に俺の前から去っていったが俺の胸の高鳴りは止まなかった。果たしてこの胸の高鳴りは悩みが解決したことによるものなのか、彼女の笑顔からもたらされたものなのかは今は考えないでおこう。今はこの合同授業をしっかり受けよう。

 考えるのはその後だ。
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