19 / 22
王子
しおりを挟むあの時はこの花がゲームに出てくるダイヤモンドスノウだということを知らなかったので、彼の言葉の意味がわからなかったが、今ならわかる。
(ロストさんは、私のことが好きってこと?)
そんなことはないと否定したくても、輝くダイヤモンドスノウが目の前に存在する。
薬の材料として受け取ったわけではなかったので鑑定魔法を使わずにいたが、あの場で使っていればと思ったものの、使ったところでどんな返事ができただろうか。
(…私はロストさんのこと、どう思っているんだろう?)
常連のお客さん?
プラチナ級の冒険者?
セドルの先生?
どれも正しいはずなのに正しいと思えない自分もいて。
そんなことを一人考えていると、セドルと兄の会話が聞こえてきた。
「このおはなはね、せんせいがくれたんだよ!」
「先生?セドルの魔法の先生かい?」
「そうだよ!せんせいはすごくつよくてやさしいんだ!」
「魔法の先生と言えば、たしかプラチナ級の冒険者だと報告は受けていたが…。プラチナ級の冒険者なら信用に足ると思って油断した」
「あ、あのお兄様!私と彼はそんな関係ではなくてですね」
「その男がルルーシュに恋心を抱いていることが問題なんだ!」
「いや、でも勘違いの可能性も…」
「そんなわけあるか!ダイヤモンドスノウだぞ?これを何の意味もなく渡すバカはいない」
「ぼくもせんせいはママのことすきだとおもうけどな」
「セドル!?」
「だってせんせい、いつもママをうれしそうにみてるよ?」
「な…」
セドルの発言に驚くしかない。
「本当か?」
「うん!ほんとうだよ!」
「その先生とやらに会っていかなければな」
「ちょ、ちょっとお兄様!」
「…私と父は後悔しているんだ。私たちの考えが甘かったばかりにルルーシュに辛い思いをさせてしまったからな。ルルーシュに想い人ができるのは寂しいが、ダメだとは言わない。だが私たちが認める男でなければ、お前に嫌われようとも諦めさせるつもりだ」
「お兄様…」
以前の結婚はルルーシュのわがままだったのだから父と兄のせいではない。それなのに彼らは悪いの自分たちだと言う。それを聞いてルルーシュは家族から深く愛されているんだなと改めて感じた。
(私もその想いを返していけるといいな)
―――コンコンコン
「っ!」
そんなことを考えていると突然扉が叩かれた。こんな時間に誰だろうと思っていると、聞きなれた今話題の彼の声が聞こえてきた。
『ルル殿。店が閉まっていたがなにかあったのか?』
どうやら店が閉まっていたのを心配して来てくれたようだ。だがタイミングが悪い。
「あ!せんせいだ!」
そしてセドルの無邪気な一言でバレた。
「ほう。噂をすればだな。よし、私が出よう」
「お兄様!?」
兄はフードを被っていただけで髪色は銀色のままだ。銀色の髪はファンダル皇室の証。突然目の前に皇族、しかも皇太子が現れたら驚いてしまうだろう。だから兄を止めなければと思ったが一歩遅かった。
―――ガチャ
「ルルど」
「やぁ。君が私の妹にダイヤモンドスノウを贈った男かい?」
「…銀の髪」
「ん?ああ。私はカイラス・ド・ファンダル。この国の皇太子さ。それで君は……ってロストニア王子?」
「…皇太子殿下が、ルル殿の兄君?」
「あー、まさかルルーシュの相手がロストニア王子だったなんてな…」
「お兄様、待ってって…え?ロストニア、王子…?えっ?」
兄の言うロストニア王子とは目の前にいる彼のことなのか。私は自分が皇女だと彼にバレたことにも気がつかず、激しく戸惑うのだった。
484
お気に入りに追加
759
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる
kae
恋愛
魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。
これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。
ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。
しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。
「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」
追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」
ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
太陽の王は月の乙女に希う ~運命から逃げ出したら、王太子の溺愛が待っていました~
天月リリィ
恋愛
「月の乙女になんてなりたくない!」
約250年に一度、神の加護を受けた太陽の王と月の乙女が誕生するアストロイド王国で、奇しくも月の乙女に選ばれてしまった占星術師を志す平民のステラは、自分の夢を実現させるために月の乙女を探す王家から逃れようと奔走していたが、ある日潜入した夜会で王太子のアルバートと遭遇してしまったことで止まっていた運命の歯車が動き始める。
一方で太陽の王として生まれたアルバートも初めは義務感から月の乙女を探していたが、なかなか尻尾を掴ませない月の乙女に次第に興味が湧いていく。
やがてステラとアルバートの人生が交差し始めた時、夢を追い続けるステラの選択が他国を巻き込んだ大騒動へと発展する。
――これは出会うはずのなかった恋を知らない2人が出会い、多くのすれ違いを乗り越えて互いを想い合うようになるまでの物語。
【同時掲載】小説家になろう様
【1部完結】【ご令嬢はいつでも笑みを心に太陽を】成り代わりなんてありえなくない?泣く泣く送り出した親友じゃなくて真正のご令嬢は私のほうでした
丹斗大巴
恋愛
【お嬢様はいつでもシリーズ】令嬢物語オムニバス
【連載中】第2部。孤児院で暮す二人の少女の前に、貴族の使者が現れた。どちらかがリーズン家のご令嬢で、ウィズダム伯爵と結婚するために迎えに来たのだという。選ばれたのは大人しく聡明なジューン。自分が選ばれると思っていたエミルは大ショック! ある時、本当の令嬢の足には三つの大きさの違うホクロがあるということがわかって……?
***
【完結】第1部「婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて幸せです。亡国に瀕したダメ皇子が今更取り戻しにいらしたけれど、出来のいい第二皇子に抹殺されるようです」
国防の秘密を宿す令嬢ミラ。婚約破棄&処刑され、孤児に転生するも、家族と再会し、新たな仲間や恋とも出会い、幸せな日々を手に入れる。一方、亡国に瀕したダメ皇子が過ちに気づき、彼女を奪おうと画策するも、出来のいい第二皇子に抹殺される物語。転生令嬢が第二の人生で幸せを手に入れる、ざまぁのちハッピーエンドの恋愛ファンタジー。R指定の描写はありませんが、万が一気になる方は目次※マークをさけてご覧ください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】見ず知らずの騎士様と結婚したけど、多分人違い。愛する令嬢とやっと結婚できたのに信じてもらえなくて距離感微妙
buchi
恋愛
男性恐怖症をこじらせ、社交界とも無縁のシャーロットは、そろそろ行き遅れのお年頃。そこへ、あの時の天使と結婚したいと現れた騎士様。あの時って、いつ? お心当たりがないまま、娘を片付けたい家族の大賛成で、無理矢理、めでたく結婚成立。毎晩口説かれ心の底から恐怖する日々。旦那様の騎士様は、それとなくドレスを贈り、観劇に誘い、ふんわりシャーロットをとろかそうと努力中。なのに旦那様が親戚から伯爵位を相続することになった途端に、自称旦那様の元恋人やら自称シャーロットの愛人やらが出現。頑張れシャーロット!
全体的に、ふんわりのほほん主義。
最凶の悪役令嬢になりますわ 〜処刑される未来を回避するために、敵国に逃げました〜
鬱沢色素
恋愛
伯爵家の令嬢であるエルナは、第一王子のレナルドの婚約者だ。
しかしレナルドはエルナを軽んじ、平民のアイリスと仲睦まじくしていた。
さらにあらぬ疑いをかけられ、エルナは『悪役令嬢』として処刑されてしまう。
だが、エルナが目を覚ますと、レナルドに婚約の一時停止を告げられた翌日に死に戻っていた。
破滅は一年後。
いずれ滅ぶ祖国を見捨て、エルナは敵国の王子殿下の元へ向かうが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる