17 / 22
花の名前
しおりを挟む兄と最後に会ったのは辺境伯領に旅立つ前。当時セドルは二歳にもなっていなかったので覚えていなくて当然だ。それに兄は髪を隠すためにフードを被っていたので、怪しい人だと思ったのだろう。
あの後セドルに説明をすると、叩いてしまったことをしっかりと謝っていた。本当にできた息子である。
いつまでも玄関にいるわけにもいかないので、ひとまず家の中に入ってもらった。兄を置いて店に行くわけにはいかないので、今日は店を休むしかない。私はケビンに店の入り口に貼り紙をしてもらうように頼んだ。
「それでお兄様?突然来るなんて本当に驚いたのよ?」
「いやぁ、ちょうどこっちに用事があってね。ここまで来たのだから、可愛い妹と甥っ子に会わないわけにはいかないだろう?」
「護衛もつけずに?」
「あいつらを連れてくると遅くなるから置いてきたんだ」
「…護衛の皆さんが不憫でならないわ」
「それに私は強いから護衛がいなくても問題ないさ」
「それはそうですけど…」
兄の実力は帝国でも指折りだ。けれど皇太子が一人でうろついていい理由にはならないが、今さら言っても仕方がないだろう。私は小さくため息を吐いた。
「はぁ、仕方ありませんね。お茶を淹れますので座って待っていてください」
「ああ!愛しい妹が手ずからお茶を淹れてくれるなんて!」
「…わかりましたから、こちらで座っていてください」
「ありが……ん?」
私は先ほどまでセドルと朝食を食べていた場所に兄を案内し椅子をすすめた。兄は嬉しそうに座ろうとした瞬間、ある一点を見つめながら突然表情が険しくなった。
「お兄様?」
「…これはどういうことだ?」
「え?」
(え、なに?なんで怒ってるの?)
普段、温和な兄が怒ることなど滅多にない。それに私相手に怒ったことなど今まで一度もないのに、急にどうしてしまったのだろうか。
(…いや違う。怒ってるというより、不愉快って感じ?それに視線が…)
兄の視線はある一点を見つめたままだ。
「…この花がどうかしたの?」
そう、兄が見つめていたのはロストさんからもらったあの花だった。
「っ、ルルーシュ!一体いつの間にそんな関係に…!報告は聞いていないぞ!」
「へっ?そんな関係って…」
「結婚を約束した男ができたなんて…!」
「け、結婚!?そ、そんな相手はいません!」
「じゃあこのダイヤモンドスノウはどう説明するんだ?」
「ダイヤモンドスノウ?……あ」
ここで私はこの花をどこで見たのかようやく思い出した。
(そうだ。この花は“セドル”がヒロインにプロポーズする時に渡していた……え、プロポーズ?)
まさかの事実に私の思考は停止したのだった。
682
お気に入りに追加
771
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。
よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる