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「お兄様、ありがとうございました」


 私は改めて兄にお礼を言った。こうしてすんなり事が運んだのは兄のお陰だ。


「いや、兄として当然のことをしたまでさ。むしろ遅くなってしまってすまなかったな」

「ちょっと、お兄様!頭を上げてください!」

「だが…。私はルルーシュに嫌われたら生きていけない」

「…なに言ってるんですか」


 頭を下げて謝る兄に驚きつつも、理由を聞いて呆れるしかない。本当にこのイケメン皇太子である兄はシスコンだ。私は兄に気づかれないようにこっそり魔法を使った。



 名前:カイラス・ド・ファンダル
 年齢:25
 職業:ファンダル帝国皇太子
 感情:妹が可愛すぎる



 兄の頭の上に現れたウィンドウ。どうやらこれは転生した際に使えるようになった鑑定魔法のようだ。名前、年齢、職業、それに感情の項目があり、何度か使ってみた結果、感情は私に対する感情が写し出されるようである。


 (妹が可愛すぎる、って。表情からはまったくわからないんだけど)


 とてもそんなことを考えているとは思わない美しい顔は、私と目が合うとふにゃりとはにかんだ。


「なにって、ルルーシュが可愛すぎるから仕方ないだろう?」

「ちょっと!」

「照れてるルルーシュも可愛いな」

「お兄様!」

「ははは、すまんすまん」

「もう…」


 話が一段落したところで兄が先ほどのことについて疑問を投げ掛けてきた。


「ところであの男には本当にこれ以上何もしなくていいのか?資金援助と皇室との繋がりがなくなるのは離婚すれば当然のことだが、愛人との再婚を認める必要はあったのか?むしろ絶対に認めない方があの男には罰になったのではないか?」

「それはそうなんですが、今回のことは私の見る目がなかったことが一番の原因ですから…」

「ルルーシュ…」

「私はセドルと一緒にいられるだけで幸せなんです」

「私の妹は心も女神のように美しいのだな…」


 (ごめんなさい。本当はあんな男なんて天罰が下ればいいのにと思ってます)


 ただ私はあの二人が再婚しても、すべてが丸く収まるわけではないことを知っているから再婚を認めたのだ。
 再婚すれば愛人が正式に妻となるが、すでに生まれているリカルドは嫡男にはなれない。なぜならリカルドは母が愛人だった時に生まれた子だからだ。離婚しても再婚できるのは早くても半年後なので、その頃にはリカルドは生後六ヶ月。そこまで大きくなってしまえばリカルドは再婚する前に生まれた子であることは誰の目から見ても明らかだ。それで嫡男にしようものならそれこそ法を犯すことになる。再婚してからの妊娠・出産であれば何の問題もなかったが、あの二人は私さえどうにかすればリカルドを嫡男にできると思っていたようなので、まだ愛人の立場であるにも関わらず愚かにも子を作ったのだ。


 (さすがに子どもは不憫だけど、こればっかりは法律があるからどうにもならないもんな)


 それに私はゲームでセドルに異母妹が二人いたことを知っている。ゲームの状況とは変わってしまったが、今後公爵と愛人の間に子どもが二人生まれる可能性が高い。しかしこの国では家を継げるのは男児のみと決まっているので、子どもが三人いても誰一人家を継ぐことができないことになる。
 婿養子をとったり遠縁から後継者を選ぶことはできるが、自分たちの血を引く子が家を継ぐことができないことは、あの二人には十分な罰になるはずだ。だから私はあの二人の再婚を認めるように兄にお願いしたのだ。
 ゲームのルルーシュは殺されたが、今の私は危害を加えられたわけではないので、過激な罰は必要ないと思っていた。だからこれくらいが丁度いいだろう。この後どうするかはあの人たち次第だ。



 それから馬車に揺られること五日。ヴィスト王国とファンダル帝国の国境にたどり着いた。大人だけであれば三日程でたどり着くのだが、今回はまだ一歳になったばかりのセドルがいるので、途中途中休憩を取りながらの移動になり時間がかかったが、体調を崩すことなく無事にたどり着くことができた。

 そしてそこからさらに五日後、ようやく皇城にたどり着いたのだった。
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