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これから
しおりを挟むこの世界には魔法が存在する。
魔法を使えるのは貴族の血筋のみだが、稀に平民から魔法を使える者が現れることがある。それがヒロインだ。
ヒロインは平民でありながら膨大な魔力を持ち、数十年に一人しか現れないという非常にめずらしい治癒魔法を使うことができた。その希少性から、ヒロインは平民ながらも貴族子女が通う学園に入学を果たし、そこで攻略対象たちと出会う、とたしかゲームのプロローグにこのような説明があった。
しかし学園に入学するのは十六歳。ということは物語が始まるのは十六年後で、今はまだ物語が始まる前なのだ。
◇◇◇
(まさか私が『公爵子息』の母親に転生しちゃうなんて…)
前世の記憶を思い出した私は自分が事故で死に、そしてゲームの攻略対象であるセドルの母親、ルルーシュに転生してしまったことを理解した。
(でもこのままじゃまた死んじゃう…。それは絶対に嫌)
ゲームのルルーシュは、セドルが七歳の時に自害に見せかけて毒を盛られ殺されてしまう。このままここに居続けるのは危険だ。それならばセドルを連れ、さっさと離婚して国に戻った方が安全だ。ストーリーが変わってしまう可能性はあるが自分の命の方が大切だし、攻略対象は何人もいるのだから一人くらいいなくなっても大差ないだろう。
(だけどアクレシア公爵は簡単に離婚に応じないよね…)
ルルーシュと離婚してしまえば資金援助も権力もなくなってしまうので、それは避けたいはずだ。
どうしたものかと眠っているセドルを眺めながら考えていると、ふとあることを思い出した。
(そういえばゲームの選択肢で『母が遺した魔道具で皇帝陛下と密かに連絡を取る』っていうのがあったな)
ということはその魔道具を今私は持っているはずだ。
記憶の中のルルーシュは家族に愛されていた。皇帝陛下と連絡が取れる魔道具など、おそらく娘を案じた皇帝陛下が嫁入りの際に持たせ、何かあればいつでも頼るようにとのことだったのだと思う。
だけどゲームのルルーシュはその魔道具を使って現状を伝えなかった、いや伝えられなかった。ルルーシュは家族に惜しみ無い愛を注がれ育ったが、我が儘や傲慢に育ったわけではない。ただ初めての恋に浮かれ上がり、滅多に言わないわがままでアクレシア公爵と結婚させてもらったのだ。
わがままを言って結婚させてもらった手前、簡単に助けを求めるなどルルーシュのプライドが許さなかったのだと思う。それかいつかまた振り向いてくれると信じていたのかもしれないが。
(でも、私には関係ない)
私は自分の命とセドルの心を守るために行動する。ただそれだけだ。
(アクレシア公爵がどうなろうと知ったこっちゃないわ)
まずは例の魔道具を探さなければ。まだ身体が本調子ではないのでレミアに手伝ってもらおう。
すやすや眠るセドルの頬に触れてみる。すべすべで柔らかい。
「ほんとに可愛い」
ゲームの攻略対象のはずなのに、セドルがとても愛おしい。母性本能というやつなのだろうか、どんなことをしてでも守ってあげたいと思うのだ。
「私たちが幸せになるには、まず離婚ね」
その後のことは追々考えることにして、私は離婚に向けて動き始めるのだった。
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