攻略対象≪公爵子息≫の母に転生しました

Na20

文字の大きさ
上 下
5 / 22

これから

しおりを挟む

 この世界には魔法が存在する。
 魔法を使えるのは貴族の血筋のみだが、稀に平民から魔法を使える者が現れることがある。それがヒロインだ。
 ヒロインは平民でありながら膨大な魔力を持ち、数十年に一人しか現れないという非常にめずらしい治癒魔法を使うことができた。その希少性から、ヒロインは平民ながらも貴族子女が通う学園に入学を果たし、そこで攻略対象たちと出会う、とたしかゲームのプロローグにこのような説明があった。
 しかし学園に入学するのは十六歳。ということは物語が始まるのは十六年後で、今はまだ物語が始まる前なのだ。



 ◇◇◇



 (まさか私が『公爵子息』の母親に転生しちゃうなんて…)


 前世の記憶を思い出した私は自分が事故で死に、そしてゲームの攻略対象であるセドルの母親、ルルーシュに転生してしまったことを理解した。


 (でもこのままじゃまた死んじゃう…。それは絶対に嫌)


 ゲームのルルーシュは、セドルが七歳の時に自害に見せかけて毒を盛られ殺されてしまう。このままここに居続けるのは危険だ。それならばセドルを連れ、さっさと離婚して国に戻った方が安全だ。ストーリーが変わってしまう可能性はあるが自分の命の方が大切だし、攻略対象は何人もいるのだから一人くらいいなくなっても大差ないだろう。


 (だけどアクレシア公爵は簡単に離婚に応じないよね…)


 ルルーシュと離婚してしまえば資金援助も権力もなくなってしまうので、それは避けたいはずだ。

 どうしたものかと眠っているセドルを眺めながら考えていると、ふとあることを思い出した。


 (そういえばゲームの選択肢で『母が遺した魔道具で皇帝陛下と密かに連絡を取る』っていうのがあったな)  


 ということはその魔道具を今私は持っているはずだ。
 記憶の中のルルーシュは家族に愛されていた。皇帝陛下と連絡が取れる魔道具など、おそらく娘を案じた皇帝陛下が嫁入りの際に持たせ、何かあればいつでも頼るようにとのことだったのだと思う。
 だけどゲームのルルーシュはその魔道具を使って現状を伝えなかった、いや伝えられなかった。ルルーシュは家族に惜しみ無い愛を注がれ育ったが、我が儘や傲慢に育ったわけではない。ただ初めての恋に浮かれ上がり、滅多に言わないわがままでアクレシア公爵と結婚させてもらったのだ。
 わがままを言って結婚させてもらった手前、簡単に助けを求めるなどルルーシュのプライドが許さなかったのだと思う。それかいつかまた振り向いてくれると信じていたのかもしれないが。


 (でも、私には関係ない)


 私は自分の命とセドルの心を守るために行動する。ただそれだけだ。


 (アクレシア公爵がどうなろうと知ったこっちゃないわ)


 まずは例の魔道具を探さなければ。まだ身体が本調子ではないのでレミアに手伝ってもらおう。

 すやすや眠るセドルの頬に触れてみる。すべすべで柔らかい。


「ほんとに可愛い」


 ゲームの攻略対象のはずなのに、セドルがとても愛おしい。母性本能というやつなのだろうか、どんなことをしてでも守ってあげたいと思うのだ。


「私たちが幸せになるには、まず離婚ね」


 その後のことは追々考えることにして、私は離婚に向けて動き始めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

処理中です...