【完結】平民娘に転生した私、聖魔力に目覚めたので学園に行くことになりました

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 あの日から少しの時が流れた。

 私たちはまもなく卒業を迎える。

 あれから色々なことがあった。



 まずは国の名前が変わった。

 カルディナ王家が無くなった今、国の名前としてふさわしくないとのことから変えることになったのだ。

 新しい国の名前は『フェルーガ王国』。

 とても恥ずかしいのだがフェニ様と私の名前を合わせた国名だ。

 もちろん最初は拒否したのだが、あの日を忘れないようにとの想いが込められていると言われてしまえば、私には嫌だと言うことはできなかった。

 私が渋々了承してからは正式にフェルーガ王国と名乗っている。

 国名が変わったと同時に新たな王が即位した。

 新たに王になったのはなんとロカルド様だ。

 三大公爵家で話し合いがなされ、三大公爵家の中でも筆頭公爵家であるバーマイヤ家が新たに王家となったのだ。

 バーマイヤ家当主のロカルド様が国王となりルシウスが王太子となった。

 また前王妃の生家であるロドリー侯爵家が公爵家へと陞爵となり三大公爵家も新しくなった。

 実は前王妃があの日あの場にいなかったのは、数日前にすでに城から出ていたからだった。

 前王妃は婚姻前から蔑ろにされていて、輿入れした時にはすでに元側妃が子を身籠っており、城の離れに追いやられ、そこで仕事だけ押し付けられて過ごしていたようだ。

 加護のことがあり今までずっと耐えてきたそうだ。

 数年前からは前王妃の兄であるロドリー侯爵が宰相になり妹を支えていた。

 衣食住にかかる全てはロドリー侯爵家から出ていたそうで前王妃に国のお金は使われることはなく、またロドリー侯爵は国庫をあの人達から守ったこと、城の人間をまとめてきた功績での陞爵となった。

 前王妃はあの後すぐに離縁が成立し、今は領地に戻り穏やかに過ごしているそうだ。

 エリザは前王妃から王太子妃教育を受けていてその時から親しくしていたようで、今は手紙のやり取りをしているのだとか。

 いつか領地に遊びに行くと約束をしているのだと笑って教えてくれた。


 それから元国王と元王太子、元側妃は使い込んだ国庫を返済するために辺境の地で強制労働をしている。

 元側妃の生家である男爵家も元側妃から金銭を受け取っていた。

 男爵家はその金銭が国のお金だということを知っていて受け取っていたそうだ。

 結果男爵家は取り潰しになり同じく強制労働となった。

 国庫は国民の大切なお金だ。

 しっかり返してほしいと思う。



 学園はあのパーティーから数日だけ休みになったが、休みが明けて学園の名前が変わったことを除けばあまり影響は無かったように感じた。

 ただ私を見る生徒達の視線には変化があったようで、私に対して憧れや尊敬といった好意的な視線を向けてくるようになった。

 嫌な気分ではないがなんだか慣れなくてくすぐったく、「もう気にしない」という気持ちになるまでには少し時間がかかった。

 学園では相変わらずカイラントが護衛してくれている。

 今までは自主的にしてた護衛だったが今ではルシウスから任命されて学園内での正式な護衛になった。

 ただ学園以外での護衛は騎士団に入って実績を積まないと任命することができないそうだ。

 それを知ったカイラントはどうしても私の護衛になりたいと父親であるリスター伯爵と話し合い、最終的にはカイラントの弟が後を継ぐことで落ち着いた。

 カイラントは騎士団の入団テストに合格し、学園卒業後は騎士団で実績を積んでいくことになる。

 聖女の護衛になることが夢だと言っていたカイラントはその夢への第一歩を踏み出そうとしている。



 それと嬉しいことにエリザとリュシアンの婚約が発表された。

 元王太子との婚約はあちらの有責による婚約破棄となった。

 慰謝料をもらうべきなのだろうが国庫の返済さえいつ終わるのか分からない状況なので慰謝料は不要ということで決着した。

 エリザの今までの苦労を考えれば悔しいが、一番悔しいのは汗水流して一生懸命働いてお金を納めた国民だ、とエリザ自身が拒否したそうだ。

 今やエリザは国民から大人気だ。

 いずれはリュシアンと結婚しレイコールド公爵夫人になる。

 以前エリザが言っていた「本当に愛する人と幸せになりたい」という願いが叶うことになるだろう。

 リュシアンには今までの分までもエリザを幸せにして欲しいと思う。



 それに分かったこともある。

 ロカルド様が王家の秘薬について調べたところ、おそらく秘薬のレシピが書かれているであろう紙が発見されたのだ。

 なぜおそらくなのかというと、その紙に書かれている文字を誰も読むことが出来なかったからだ。

 その紙に文字とあわせて絵が描かれており、その絵から秘薬のレシピなのでは?となったそうだ。

 城の医局に確認したところ絵に描かれている素材で秘薬を作っていたのだが、文字が読めないのでそれを秘薬と呼んでいいものかはわからないと言っていた。

 そんなものをアゼリア様が飲んでいたなんて今思うと恐ろしすぎる。

 何もなくて良かったとしか言いようがない。

 私は怒りから自分もこの目で見てみたいと思いレシピを見せてもらったのだが、これがびっくり。

 なんと誰も読めないと言っていた文字が読めるのだ。

 それもそのはず、紙に書かれていたのは前世の言語であったからだ。

 紙を隅々まで確認すると裏側に"ユウナ"と書かれていた。

 その事実から考えられるのはユウナは私と同じ転生者だったということだ。

 さらに聖魔力だけだなく薬師としても才能があったのだろう。

 今となっては誰にも知ることが出来ないが、この世界に私の他に転生した人がいたと知れたことは嬉しかった。

 ただ他の人には自分の前世の話をするつもりはないので、レシピが読めたのは聖魔力のおかげということにしておいた。

 そしてその後、正しいレシピは王家の意向により公開され沢山の国民を救うことになる。

 ちなみに聖水についての発表はもう少し国が安定してきたらということになった。

 確かにこれ以上の急激な変化は負担になるだろう。

 その時が来るまでは私とバーマイヤ家の秘密にすることにした。




 そして私自身にも変化があった。

 もちろん聖女になったことも大きな変化だが、私に婚約者ができたこともかなり大きな変化だろう。

 元王太子との婚約、結婚騒動は私が望んだことではなく勝手に決められたことだったが、今回のことは自分で納得して受け入れた。

 穏やかな暮らしを長年望んでいたので悩みもしたが、


「穏やかな暮らしを約束することは難しいけど、できることなら私はオルガと一緒にみんなが穏やかに暮らせる国を作っていきたい。私と結婚して欲しい」


 なんて言われてしまえば「はい」としか言えなかった。

 確かに私は穏やかな暮らしを望んでいたが、フェニ様から加護を受けると決めた時に自分だけでなくこの国の人達の平和や幸せを願ったのだ。

 その願いを一緒に叶えようと言ってくれた彼と幸せになりたいと心から思った。




「…ガ、…ルガ、オルガ!」

「へっ!?」

「どうしたんだい?ボーッとしてたようだけど…」

「えっと、ちょっと今までのことを思い出してたんだ」

「確かについ最近まで色々あったからね」

「うん。でもようやく落ち着いてきてよかった。それに今日もこうして一緒に付いてきてくれてありがとう」

「当たり前のことさ。それに私の可愛いお姫様とお出掛けできるなんてご褒美だよ」

「っ!もう、ルシウス!そんな恥ずかしいこと言わないでよ」

「あはは。照れるオルガも可愛いな」

「ルシウスっ!」


 そう、私はルシウスと婚約をした。

 ルシウスからのアプローチを受け、私は受け入れることに決めた。

 それにルシウスにはアゼリア様とエリザという強力な援護がついており、あっという間に陥落させられてしまった感は否めない。


 そして今日は私が以前暮らしていたミストリア孤児院に向かう。

 私は聖女となってから学園の休みなど時間があれば色んな場所に行き治療を行ってきた。

 どの場所でも聖女である私を歓迎してくれて嬉しかったのだが、一番行きたいと思っていた場所にはなかなか行くことができずにいた。

 場所が元バーマイヤ公爵領、今は王家直轄地なので優先して行ってしまうと王家は身内びいきだと言われる可能性がある。

 そんな余計な火種は作らないに越したことはないので元公爵領に行くことは控えていたのだ。


「我慢させてしまってすまなかった」

「ルシウスが謝る必要なんてないよ?」

「だが…」

「確かにこの場所は私にとって大切な場所だけど、今はルシウスと一緒に護っていくって決めたこの国だって大切なんだよ。だから謝らないで?」

「…ありがとうオルガ」

「えへへっ、どういたしまして。でも楽しみ!みんな元気かなぁ?それにルディはもうずいぶん大きくなったんだろうな」

「ルディというとあの時の赤ん坊かい?」

「あ、そうだったね。ルシウスはルディを知ってるんだっけ」

「あれからずいぶん経ったからね。きっと元気に走り回っているんじゃないかな?」

「うわぁー、すごく可愛いんだろうな!でも私のことは覚えてないだろうから泣かれちゃうかも」


 そんなことを話していると馬車が止まった。

 どうやら着いたようだ。

 馬車の扉が開きルシウスにエスコートされ馬車から降りた。

 目の前には懐かしい建物があの時と変わらず建っていた。

 そして建物の前には孤児院の先生が私達を出迎えてくれた。


「先生っ!」


 私は先生に駆け寄った。


「先生、会いたかった!」

「っオルガ!私も会いたかったわ!」


 私と先生はお互いの手を握りしばらくの間再会を喜びあった。


「あっ!」


 少し時間が経った頃ルシウスを待たせていることを思い出した。


「ごめんなさい!」

「お、王太子殿下!大変失礼いたしました!」

「いや、気にしないでくれ。久しぶりの再会だろうからゆっくりしていこう」

「!いいの?」

「あぁもちろんさ。その為に時間を作ってきたから心配しないで」

「ありがとうルシウス!」

「さぁ、中へお入りください」


 そして私達は孤児院の中へと足を進めた。

 子ども達は食堂で私達が到着するのを待っていてくれているそうだ。

 歩きながら周りを見回すとあの頃と全然変わっていなくてなんだがホッとした。

 そして食堂の扉の前に着いたがずいぶんと静かだ。


「先生、ずいぶん静かだけどここに子ども達がいるの?」

「ええ。ぜひ開けてください」

「?分かった」


 私は先生に言われるがままに扉を開けた。


「「「オルガ、お帰りなさい!!!」」」


 扉を開けると子ども達の元気な声が聞こえてきた。

 そして私の元に駆け寄ってきてくれた。

 その事に私は嬉しくて泣いてしまいそうだった。

 もしかしたら当時赤ちゃんだったルディだけでなく他の子ども達も私のことなんて忘れてしまっているんじゃないかという不安があった。

 でもそんな不安は一瞬で消えていった。


「オルガはみんなから愛されているんだね」

「!…えへへ、そっか。なんだかくすぐったいけど嬉しい」

「ほら、あの小さな紳士も君のことが大好きみたいだよ」

「小さな紳士?…あっ!」


 ルシウスの視線を追うとそこには小さな男の子が立っていた。みんなより幼いその男の子は恥ずかしそうにしながらも私のことを見ていた。


「もしかして…」


 私は小さな男の子の元へと向かった。


「こんにちは」

「…こーちは」

「上手に挨拶できて偉いね。あなたのお名前はなんていうの?」

「…るでぇ」

「ルディっていうの?いい名前だね。私はねオル「ねぇね!」え?」


 自己紹介の途中で急にルディが私に抱きついてきた。それに「ねぇね」とは私のことを言っているのだろうか。


「ねぇね、ぴかぴか、あーと!」

「!」

「あら、もしかしたらルディはあの日のことを覚えているのかもしれないわね。実はしゃべれるようになってから「ねぇね、いない?」ってよく言うようになったのだけど誰のことを言っているのか分からなかったの。まさかあの日のことを覚えててオルガを探しているとは思わなかったわ」

「ねぇね、ねぇね!」

「っ…」


 私の目から涙が次から次へと溢れてくる。あの時赤ちゃんだったルディには忘れられて当然だと思っていたのに、こうして私のことを覚えててくれたことがとても嬉しい。

 一緒に過ごした時間は短かったが孤児院の大切な仲間だ。

 これから成長していくなかで私だけがルディの記憶に存在しないのは仕方ないと分かっていても寂しく思っていた。

 でもそんなことはなかった。

 ちゃんとルディの記憶の中に私がいたのだ。


「よかったね」

「…うん。嬉しい」

「いたい、いたい?」

「えへへ、痛くないよ。ありがとね」

「きゃははは!」


 頭を撫でてあげるとルディは喜んで笑ったのだった。


 あの日自分の居場所だった孤児院から去るのは辛く悲しかったが、小さな命を助けることができたのだ。

 だから私は聖魔力が目覚めたことに感謝している。

 いいことばかりではなかったけど後悔はしていない。

 それに孤児院だけが世界の全てだった私に広い世界を教えてくれた。

 そしてたくさんの大切な人達もできた。

 この世界には私が愛し、私を愛してくれる人がたくさんいる。

 これからもきっと楽しいこと嬉しいことだけではなく、悲しいこと大変なこともたくさんあるだろう。

 でも私はこの国を大切な人と共に護ると決めたのだ。


「…ルシウス。私この国が大好き」

「うん」

「この国を笑顔溢れる国にしたい」

「うん」

「でも私一人じゃ無理かな?」

「オルガは一人じゃないだろう?私もいるしエリーもいる、父上や母上もいる。それにこんなにたくさんの味方がいるだろう?」


「!」

 いつの間にか私の周りに子ども達が集まっていた。


「僕はオルガの味方だよ!」
「私だって味方だもん!」
「ねぇね!」

「みんな…ありがとう!」


 今この場所はたくさんの笑顔で溢れていた。







 それから数十年後。

 フェルーガ王国を訪れた人達は口を揃えてこう言うのだ。




『あの国は笑顔が溢れる国だった』と。
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