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しおりを挟む「暇だな…」
あれから一週間が経った。キースさんから言われていたとおり次の日から業務の一環として座学などの教育が始まったのだが、一日中教育を受けているわけではない。キースさんとマチルダさんが指導してくれるのだが、二人は執事長と侍女長としての業務もある。教育自体はとてもためになることばかりだし、新しいことを学ぶのは楽しいので苦ではない。
業務以外は好きに過ごしてもいいと言われているが、あまり出歩くのもどうかなと思い部屋にいる。だけどさすがにすることがなくて辛くなってきていた。
「今日の分はもう終わりだし、このあと何しようかなぁ。暇って辛いのね。知らなかったわ…」
貧乏暇なしと言うように、今までは暇な時間などなかったなとこの状況になって気がついた。領地経営の手伝いをしたり、妹たちに服を作ってあげたり、食事の用意をしたり、結婚相手を探したりと。よくよく思い返してみれば「暇」という言葉を生まれて初めて使ったかもしれない。
「それにずっと座っていたから身体を動かしたいな。なにか運動でもする?うーん…」
どうしたものかと考えながら窓の外を見ると、ちょうどメイドの姿が見えた。どうやら洗濯物を運んでいるようだ。
「今日は天気がいいから洗濯物がよく乾きそう……あ、そうだ!」
私はふとあることを思いついた。キースさんとマチルダさんからの許可をもらえれば暇な時間を潰すことができるかもしれない。そう考えた私は明日までに二人からの許可をもらおうと決めた。
そして翌日。無事に二人からの許可をもらい、今日の分の教育が終わったあとから早速行動に移した。
「今日からお世話になるレイです!よろしくお願いします!」
私は支給されたメイド服に身を包んでいる。
そう、私が考えついたのは空いてる時間はメイドとして働くということ。一応婚約者(仮)ということで名前はレイと偽名を名乗り伊達眼鏡をかけている。メイドの仕事なら実家での経験があるから問題なくこなせる。それに一年後はここで使用人として雇ってもらうかもしれないので少しずつ慣れておいて損はないだろう。
「じゃあレイは洗濯物をお願いね」
「わかりました」
先輩メイドに指示されて私は洗濯かごを抱え歩いている。洗濯が終わったので今から干しに行くところだ。今日も天気がいいから洗濯物もすぐに乾くだろう。干場に到着し洗濯かごを置いて一度身体を伸ばす。
「うーん!いい天気!さてと、洗濯物を早く干さなくちゃね!」
暖かな日差しのなか、洗ったばかりのシーツを干していく。
「よし、終わり!やっぱり私にはこういう仕事が向いてるわね」
洗濯物を干し終わり達成感でいっぱいになる。それにほどほどに身体を動かすのは気持ちいい。最近は部屋で過ごしていたので余計にそう感じた。
空になった洗濯かごを持って戻ろうとした時、ふと少し離れた場所にある一際大きな木が目に入った。私はなんだかその木が気になり戻る道から外れて木の方へと向かう。
「うわぁ、すごい立派な木!」
私は木の幹に手を触れた。何の木かは分からないがとても長い年月をかけてここまで大きくなったということは分かる。木の幹は私が両腕を回しても手が届かないほどに太い。今日は天気がいいので動くと暑いくらいだが、青々と茂る葉の下は涼しそうだ。
「この木に寄りかかって本を読んだら気持ち良さそう…って、あれ?」
この木の下でする読書を想像しながら木の周りをぐるりと歩くと、私がやってきた方向とは逆側に寄りかかっている人がいた。
「あのぉ…?」
「…」
「…寝てる?」
私は木に寄りかかっている人に声をかけてみたが、どうやら膝の上に本を開いたまま眠っているようだ。
「ここで本を読むと気持ちよすぎて寝てしまうのは難点ね。…それにしてもこの男性は誰かしら?」
寝顔を見ても随分と整った顔立ちだということがうかがえる。年齢は二十代前半と若そうだ。それに鍛えていることがわかる引き締まった身体に印象的な黒い髪。
「黒い髪なんてめずらしいわね……って、黒!?」
「ん…」
「っ!」
私は急いで口に手を当てた。
(まさかこの人がキルシュタイン公爵様!?)
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