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8章 獣操と招集そして神獣

8.4 獣操師の事を聞いた話

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「なんだこれ」
「大きいですね」
「でっかいです!」
「人間の建築技術だけは我も認めるところだ」
「どうやって作ったのか分からないよ!」

 目の前に現れた神殿とも言うべき建物。
 この見た目ってどっかで見たような。確か世界史の教科書に載っていた、石造りで・・・ヨーロッパの方にあったやつ。

 あれだ! パルテノン神殿だ! あれの中身がある状態だ。

 まさか異世界で見れるとはな。同じものではないだろうが・・・。

「とりあえず、ここで間違いなさそうだ」

「人の出入りは、ほとんど無いですね」

「今回はあたしも着いて行くです!」

 サラーは発明士の心をくすぐられたのか、目を輝かせて俺のローブを掴んでいる。

「我も、今回は共に行く」

 ガルムはもう残されるのが嫌なようだ。

「僕は眠いから残るよ!」

 ルルは自分の欲に忠実のようだ。

「ルルも来るのだ!」

「何でだよ!」

 またルルが甘噛みされて引きずられていく。



 階段を上り、解き放たれている大きな門をくぐるが、でか過ぎる・・・。どう考えても不必要な大きさに見えるが。

 門を潜ろうとした時、丁度横を獣操師と思われる人とすれ違う。
 後ろにはディパーグが追従していて、一瞬驚いて身構えてしまうが、こちらを気にすることもなく通り過ぎていく。

 恐らくは今の人も獣操師であり、ディパーグはその人が操る獣なのだろう。

 言葉を喋れるのは魔獣と神獣だけと聞いているので、どうやって契約したのかが不思議に思うところだ。

 まあそれももうじき分かる事。今必死に考えてもしょうがないだろう。

 建物の内部は、昔勉強の合間に読んだ小説の中に出てくるような、中世の兵士がいる訓練所に似ているが、神殿に似た外観とあった内装が広がっている。
 大きい割には人は少なく、数人の職員のような人たちが往来している程度だ。
 入り口で出会った以外に、獣を引き連れている人も見当たらない。
 獣操師が魔術師よりも希少な存在、と聞いていたのを思い出し、それを実感している。

 どこに行けばいいのか分からず、内部を歩き回っていると、職員と思わしき男に声をかけられる。

「本日はどのようなご用件で?」

「こいつが獣操師なのか確かめに来たんだが」

「既に獣を引き連れているようですが・・・これは!? 魔獣うさぎ!」

 職員がルルに気づき、驚きの声を上げてあたりに響き渡らせた。

 それに反応し、周りにいた人々も集まってくる。

「まさか・・・魔獣を獣操していると!? あれ? もしやこちらは・・・神狼族では?」

「我を判別した人間は貴様が初めてだ。その洞察に免じ、先程の失態は見逃してやるとしようか」

 失態って・・・ああ、あの大声か。また人が集まって来て嫌だったんだろうな。

「ちょ!ちょ!ちょ! ちょっとお待ちください!」

 職員の男はどこかに走り去ってしまい、俺達は置いてきぼりをくらってしまう。

「失礼いたします。神狼族の方とお見受けしますが、同行されているみなさんと一緒に、応接室へご案内させて頂きます」

 先程の群衆と違い、今回集まってきた人達は礼儀正しく接してくる。

「申し出はありがたいが、我がこちらの主に従っているのだ。主を丁重にもてなすといい」

「そ! それは失礼いたしました! 神獣が・・・まさか、人に従うなどと考えが及ばず」

 ガルムが荒く息を吐き、催促をしたため早急に応接室とやらに案内される。

 動き回って分かったが、ここは獣操師の為の施設だけあって、全てが大きく作られている。その為に扉も通路も大型の獣が通れるようになっているようだ。
 応接室も広く、全員が入っても窮屈に感じることはなかった。
 俺とオリービアとサラーはソファーに座り、ルルとガルムは獣用と思われるクッションに伏していた。



 しばらく待っていると、扉を豪快に開けて男が1人入ってくる。
 金髪オールバックの長身で、体の半分ほどを灰色の甲冑で覆っている。見たところリトグラフで出来ているようだが。
 見た目は三十代後半と言ったところだが、立ち方と表情からはなんとなく高貴な雰囲気を感じる。
 リトグラフで出来た甲冑を身に着けている事からも、それなりの地位か財を持っている人なのだろう。

「お待たせしたな」

 前に出ながら男が挨拶してくる。

「あんたは?」

「エルシドという。ここで訓練教官の長をしている」

 なるほど、こいつを呼びに行っていたという事か。

 エルシドは軽く会釈した後、ガルムの前に出て膝をつく。

「神狼族と伺っています。敬意を持ってご挨拶させて頂きます」

「こちらこそ貴殿の礼節に感謝しよう。だがここに来た目的は、我が主が獣操師について調べに来たからだ。我の事は気にせず、主と話をするがいい」

「承知いたしました」

 エルシドは立ち上がり、向かいのソファーに座って何も言わずに俺達を見てくる。

「なるほど、獣操師はそちらのお嬢さんのようだね」

 見ただけで分かるのか。

「だけど、神狼族の御方が」

「ガルムだ」

 ガルムが名乗り、それに対してエルシドは敬意を持ってお辞儀する。

「失礼しました。ガルム様が主と呼ばれているのは、マスクを付けた君なのだろう?」

「そうだが」

「異例のことばかりだ」

「そろそろ本題なのだが、獣操師について教えて欲しい」

「いいでしょう。というよりも、そちらのお嬢さんは既に契約を終えているようだが?」

「こいつはオリービアだ。俺も詳しくは分からないのだが、本人達も良く分からず契約したらしくてな」

「なるほど」

 エルシドはしばらく考え込み、やがて口を開く。

「通常この訓練所では、まず適性を確認する。適性があった者が段階的に獣操師の基礎知識を学び、実施訓練を経て獣操師となる。だが今回は異例中の異例、なので通常の工程で説明していれば時間がかかる。なのでまずは君達の問いに、簡潔に答えていこうと思うのだが、どうだろうか?」

「それで構わない」

「助かるよ」

 エルシドは朗らかに笑う。

「まずは獣操師とはどんな存在だ?」

「獣と契約という名の、命の繋がりを持つことが出来る存在で、命力と呼ばれる力を循環させることで、互いの力を高めることが出来る。例えば身体能力が向上したり、自然治癒力が上がって大怪我も一晩で治ったりもする」

 そういえば、ウリエルに攻撃されて動けなくなったオリービアとガルムは、短時間で歩けるようになっていたな。

「それと非常に稀ではあるが、魔獣には特殊な能力を持っている者がいて、それと契約出来ると自らもその能力を行使できるようになる」

「私もガルムさんの力が使えるようになりました!」

「神獣と契約した前例はないが、同じことが起こったのだろうな」

「あの・・・ガルムさんと契約した時、私に神狼族の耳と尻尾が生えて、しばらくしたら消えたんですけど」

「それは、契約した獣の力を行使する際に起こる変化だ。異常ではないから安心していい」

「ルルさんの耳と尻尾は生えなかったのですが」

「魔獣うさぎは特殊な力を持たないからな。行使する物が存在しない」

「なるほど」

 オリービアは自分に起こった体への変化が、何かしらの異常ではなかったと知り安心したようだ。

「契約というのは?」

「契約というのは、命力を循環させる為に屈服させた獣と、血を混じり合わせる事だ。猛獣に関しては戦って瀕死に追い込み、人間側が血を交じり合わせて契約を成立させる。猛獣の場合は自意識を抑え込み、完全に操ることが可能で、意のままに動かせる」

「魔獣と神獣は?」

「魔獣に関しても基本的には同じだが、主人と認めたあかしとして、契約の言葉を口にしてもらう必要がある。つまり契約の言葉を口にしてもらう為、認めてもらう必要があるという事だ。神獣に関しては・・・逆にこちらが聞きたいくらいだが」

「ガルムさん、どうやって私と契約を?」

「契約の言葉を口にしたのだ。奥方に救われた時、我の中に契約の言葉が入ってきたのだ」

「なるほど・・・。通常であれば、獣操師の訓練を終えたものが、魔獣と契約する時に伝えるものですが、神獣はそういった枠にとどまらない存在ということですか。前例が無いので分かりませんが」

「契約については大体分かったが、契約時に怪我が治ったりはするのか?」

「その通りだよ。発光現象とともに、命力の循環が一気に始まって、病気や怪我が一気に治癒する現象が起きる。まあ契約の副作用のようなものだね」

「そうか・・・大体分かった。最後の質問だが、訓練とやらはこいつに必要か?」

「必要はないね。ここでの訓練は契約に至るまでの、普通の兵士がやる訓練と相違ないからな」

「獣操師としての訓練はないのか?」

「基本的にはないし、オリービア君は一度力を行使したのだろう?」

「はい。戦闘で使いましたけど、今となってはどうやってやっていたのか」

「それで問題ないよ」

「どういうことだ?」

「実際に試すのがいいだろう。論より証拠、模擬戦を行う闘技場に来てくれるかい?」

 エルシドは立ち上がり、扉を開いて手招きをした。
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