上 下
40 / 107
5章 発明士との出会いそして旅へ

5.9 発明士の決断と出発前夜の話

しおりを挟む
「サラーちゃんが私達の子供みたいですね! ルシファー様!」

「金も手に入ったんだ。もうお前を縛るものはない以上、バビロアで食料や洋服、馬車、必要な物は何でも買うといい」

「無視はひどいです! ルシファー様!」

 オリービアの事は気にせず、食事をする為にマスクを外す。

「わあ! おにいちゃん、想像より格好良かったです!」

「そうですよね! 強くて格好良いんですよ!」

「なんでお前が答えてるんだよ」

 やれやれと、初のオートミールを口にする。牛乳で煮たような甘みだな。スパイスの効いた燻製肉と、以外に良く合う。

 サラーも冷めないうちにと、せっせと口に運んでいる。

 家族の食事か。これはその疑似体験なのかもしれないな。
 団欒というものを知らない俺には、何か分からない感情が湧き上がってくる。少し心地がいいと感じてしまう。
 人との出会いが、俺の一部を変えていっている気がする。神との賭けに負けてしまう程では・・・ないと思うが。
 俺は根本的に人を信頼したわけではないし、こいつらに心を許したわけではないからな。

「あたしも、おにいちゃんに連れて行って貰ってもいいです?」

「どうした?」

 サラーが食べるのを止め、唐突に願い出てきた。

「お金もあるです。買い物もできるです。でも発明は出来ないです。あたしは発明の楽しさを知ったです。でも今のあたしはおにいちゃんがいないと、発明が出来ないです」

「どこかの工房に、弟子入りすればいいじゃないか」

「師匠はスランプだったのかもしれないです。でも師匠に匹敵する、発明士を探すのは容易ではないです」

「なるほど」

 あの金庫は元いた世界でも、充分通用する物に見える。それを発明したレオハルドの腕は、素人の俺でも想像できるものだ。

「それに・・・あたしはもう、この街にいる事は出来ないです」

 サラーが言っている事は分かる。正直言って、俺のせいでもあるわけだからな。
 コジモは、サラーを明らめないと言っていた。あれほど啖呵を切ったという事は、腐敗したこの国の司法、憲兵との太いパイプがあると考えるべきだろうな。
 となると、あれこれ理由をつけて、現実になる可能性が高いと考えるのが自然か。

「すまないな。穏便に済ませられなくて」

「巻き込んだのはあたしです。だからおにいちゃんのせいじゃないです」

「そうか・・・」

「コジモに制裁をするおにいちゃんは、正直怖かったです。だけど、おにいちゃんはあたしのような弱い立場の人間には、まるで救世主です」

 その言葉の後、オリービアが俺の手に、自分の手を重ねてくる。その行為が言いたい事は分かる。だが・・・それは違う。

「俺に向けられた敵意を排除する為の、私的な行動だ。お前の為では無い」

「分かっているつもりです。それでも、おにいちゃんは矢の雨から、あたしを守ってくれたです。それに武器を作る道具に、ならないようにしてくれたです」

 俺のゲネシキネシス<創造力>は万能じゃない。

 この子を連れていくメリットがあるのが現状だ。

 サラーが街に居られなくなった原因も、俺が作ってしまった。正直その事には、罪悪感がある。

「こうしないか? パーティーに入ってもらい、主に後方支援と役に立つ発明をしてもらう。旅の途中で、お前が師事出来る存在が見つかったら、パーティーを離れる」

「はいです! それでいいです!」

「ルシファー様、私の時より納得するのが早いです・・・」

「今回はサラーが、この街に居られなくなる原因を、俺が作ったという事実があるからな。お前の時とは、大分状況が違う」

「それは・・・そうかもしれませんが」

「未来の夫の言う事が、聞けないのか?」

「!? 未来の妻としては! 納得するしかありませんね!」

 なんだか引くほどオリービアの扱い方が、上手くなっていっている気がする。しばらくはこのあしらい方でいけそうだな。

 話が決まってからは、明日の出発に備えて寝る事にした。
 サラーは籠っていた工房の、自分のベッドで就寝し、オリービアと俺はレオハルドの工房に移動する。
 ベッドの前で鎧ドレスを脱ぎ、ワンピースに近い肌着だけになったオリービアが、先にベッドへ入り掛け布団を半分だけめくって、期待するような目で見てくる。
 それを見計らってロフト部分全体に、サイコキネシス<念動力>で見えない壁を作り、オリービアが出れないようにしてから工房を後にする。

「何でですか! ルシファー様~」

 オリービアの声は・・・聞こえない振りをした。

 外に出てルルを探す。このわずかの間に帰ってきていたのか、ガルムと共に工房の前で惰眠を貪っている。
 ルルのお尻を蹴りあげ、乱暴に起こす。

「痛いよ・・・ご主人は僕の扱いが雑だよ」

「仰向けになれ」

「お腹を見せるって、僕らにとっては危ない行動・・・」

「早く」

「分かったよ」

 ルルは服従のポーズにも似た、綺麗なへそ天状態になり、脇から腹によじ登ってベッド変りとして横になる。
 なかなかの寝心地だな。温かみもあるし、ふわふわの毛は睡魔を呼び寄せる。

「主よ、次は我にお任せを」

 寝ていたと思ったが、ガルムがそう一言だけ呟く。馬車は引きたくないと言ったくせに、これはいいのか。

 明日はいよいよ出発だ。次の街には何が待っているのだろうな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...