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5章 発明士との出会いそして旅へ
5.9 発明士の決断と出発前夜の話
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「サラーちゃんが私達の子供みたいですね! ルシファー様!」
「金も手に入ったんだ。もうお前を縛るものはない以上、バビロアで食料や洋服、馬車、必要な物は何でも買うといい」
「無視はひどいです! ルシファー様!」
オリービアの事は気にせず、食事をする為にマスクを外す。
「わあ! おにいちゃん、想像より格好良かったです!」
「そうですよね! 強くて格好良いんですよ!」
「なんでお前が答えてるんだよ」
やれやれと、初のオートミールを口にする。牛乳で煮たような甘みだな。スパイスの効いた燻製肉と、以外に良く合う。
サラーも冷めないうちにと、せっせと口に運んでいる。
家族の食事か。これはその疑似体験なのかもしれないな。
団欒というものを知らない俺には、何か分からない感情が湧き上がってくる。少し心地がいいと感じてしまう。
人との出会いが、俺の一部を変えていっている気がする。神との賭けに負けてしまう程では・・・ないと思うが。
俺は根本的に人を信頼したわけではないし、こいつらに心を許したわけではないからな。
「あたしも、おにいちゃんに連れて行って貰ってもいいです?」
「どうした?」
サラーが食べるのを止め、唐突に願い出てきた。
「お金もあるです。買い物もできるです。でも発明は出来ないです。あたしは発明の楽しさを知ったです。でも今のあたしはおにいちゃんがいないと、発明が出来ないです」
「どこかの工房に、弟子入りすればいいじゃないか」
「師匠はスランプだったのかもしれないです。でも師匠に匹敵する、発明士を探すのは容易ではないです」
「なるほど」
あの金庫は元いた世界でも、充分通用する物に見える。それを発明したレオハルドの腕は、素人の俺でも想像できるものだ。
「それに・・・あたしはもう、この街にいる事は出来ないです」
サラーが言っている事は分かる。正直言って、俺のせいでもあるわけだからな。
コジモは、サラーを明らめないと言っていた。あれほど啖呵を切ったという事は、腐敗したこの国の司法、憲兵との太いパイプがあると考えるべきだろうな。
となると、あれこれ理由をつけて、現実になる可能性が高いと考えるのが自然か。
「すまないな。穏便に済ませられなくて」
「巻き込んだのはあたしです。だからおにいちゃんのせいじゃないです」
「そうか・・・」
「コジモに制裁をするおにいちゃんは、正直怖かったです。だけど、おにいちゃんはあたしのような弱い立場の人間には、まるで救世主です」
その言葉の後、オリービアが俺の手に、自分の手を重ねてくる。その行為が言いたい事は分かる。だが・・・それは違う。
「俺に向けられた敵意を排除する為の、私的な行動だ。お前の為では無い」
「分かっているつもりです。それでも、おにいちゃんは矢の雨から、あたしを守ってくれたです。それに武器を作る道具に、ならないようにしてくれたです」
俺のゲネシキネシスは万能じゃない。
この子を連れていくメリットがあるのが現状だ。
サラーが街に居られなくなった原因も、俺が作ってしまった。正直その事には、罪悪感がある。
「こうしないか? パーティーに入ってもらい、主に後方支援と役に立つ発明をしてもらう。旅の途中で、お前が師事出来る存在が見つかったら、パーティーを離れる」
「はいです! それでいいです!」
「ルシファー様、私の時より納得するのが早いです・・・」
「今回はサラーが、この街に居られなくなる原因を、俺が作ったという事実があるからな。お前の時とは、大分状況が違う」
「それは・・・そうかもしれませんが」
「未来の夫の言う事が、聞けないのか?」
「!? 未来の妻としては! 納得するしかありませんね!」
なんだか引くほどオリービアの扱い方が、上手くなっていっている気がする。しばらくはこのあしらい方でいけそうだな。
話が決まってからは、明日の出発に備えて寝る事にした。
サラーは籠っていた工房の、自分のベッドで就寝し、オリービアと俺はレオハルドの工房に移動する。
ベッドの前で鎧ドレスを脱ぎ、ワンピースに近い肌着だけになったオリービアが、先にベッドへ入り掛け布団を半分だけめくって、期待するような目で見てくる。
それを見計らってロフト部分全体に、サイコキネシスで見えない壁を作り、オリービアが出れないようにしてから工房を後にする。
「何でですか! ルシファー様~」
オリービアの声は・・・聞こえない振りをした。
外に出てルルを探す。このわずかの間に帰ってきていたのか、ガルムと共に工房の前で惰眠を貪っている。
ルルのお尻を蹴りあげ、乱暴に起こす。
「痛いよ・・・ご主人は僕の扱いが雑だよ」
「仰向けになれ」
「お腹を見せるって、僕らにとっては危ない行動・・・」
「早く」
「分かったよ」
ルルは服従のポーズにも似た、綺麗なへそ天状態になり、脇から腹によじ登ってベッド変りとして横になる。
なかなかの寝心地だな。温かみもあるし、ふわふわの毛は睡魔を呼び寄せる。
「主よ、次は我にお任せを」
寝ていたと思ったが、ガルムがそう一言だけ呟く。馬車は引きたくないと言ったくせに、これはいいのか。
明日はいよいよ出発だ。次の街には何が待っているのだろうな。
「金も手に入ったんだ。もうお前を縛るものはない以上、バビロアで食料や洋服、馬車、必要な物は何でも買うといい」
「無視はひどいです! ルシファー様!」
オリービアの事は気にせず、食事をする為にマスクを外す。
「わあ! おにいちゃん、想像より格好良かったです!」
「そうですよね! 強くて格好良いんですよ!」
「なんでお前が答えてるんだよ」
やれやれと、初のオートミールを口にする。牛乳で煮たような甘みだな。スパイスの効いた燻製肉と、以外に良く合う。
サラーも冷めないうちにと、せっせと口に運んでいる。
家族の食事か。これはその疑似体験なのかもしれないな。
団欒というものを知らない俺には、何か分からない感情が湧き上がってくる。少し心地がいいと感じてしまう。
人との出会いが、俺の一部を変えていっている気がする。神との賭けに負けてしまう程では・・・ないと思うが。
俺は根本的に人を信頼したわけではないし、こいつらに心を許したわけではないからな。
「あたしも、おにいちゃんに連れて行って貰ってもいいです?」
「どうした?」
サラーが食べるのを止め、唐突に願い出てきた。
「お金もあるです。買い物もできるです。でも発明は出来ないです。あたしは発明の楽しさを知ったです。でも今のあたしはおにいちゃんがいないと、発明が出来ないです」
「どこかの工房に、弟子入りすればいいじゃないか」
「師匠はスランプだったのかもしれないです。でも師匠に匹敵する、発明士を探すのは容易ではないです」
「なるほど」
あの金庫は元いた世界でも、充分通用する物に見える。それを発明したレオハルドの腕は、素人の俺でも想像できるものだ。
「それに・・・あたしはもう、この街にいる事は出来ないです」
サラーが言っている事は分かる。正直言って、俺のせいでもあるわけだからな。
コジモは、サラーを明らめないと言っていた。あれほど啖呵を切ったという事は、腐敗したこの国の司法、憲兵との太いパイプがあると考えるべきだろうな。
となると、あれこれ理由をつけて、現実になる可能性が高いと考えるのが自然か。
「すまないな。穏便に済ませられなくて」
「巻き込んだのはあたしです。だからおにいちゃんのせいじゃないです」
「そうか・・・」
「コジモに制裁をするおにいちゃんは、正直怖かったです。だけど、おにいちゃんはあたしのような弱い立場の人間には、まるで救世主です」
その言葉の後、オリービアが俺の手に、自分の手を重ねてくる。その行為が言いたい事は分かる。だが・・・それは違う。
「俺に向けられた敵意を排除する為の、私的な行動だ。お前の為では無い」
「分かっているつもりです。それでも、おにいちゃんは矢の雨から、あたしを守ってくれたです。それに武器を作る道具に、ならないようにしてくれたです」
俺のゲネシキネシスは万能じゃない。
この子を連れていくメリットがあるのが現状だ。
サラーが街に居られなくなった原因も、俺が作ってしまった。正直その事には、罪悪感がある。
「こうしないか? パーティーに入ってもらい、主に後方支援と役に立つ発明をしてもらう。旅の途中で、お前が師事出来る存在が見つかったら、パーティーを離れる」
「はいです! それでいいです!」
「ルシファー様、私の時より納得するのが早いです・・・」
「今回はサラーが、この街に居られなくなる原因を、俺が作ったという事実があるからな。お前の時とは、大分状況が違う」
「それは・・・そうかもしれませんが」
「未来の夫の言う事が、聞けないのか?」
「!? 未来の妻としては! 納得するしかありませんね!」
なんだか引くほどオリービアの扱い方が、上手くなっていっている気がする。しばらくはこのあしらい方でいけそうだな。
話が決まってからは、明日の出発に備えて寝る事にした。
サラーは籠っていた工房の、自分のベッドで就寝し、オリービアと俺はレオハルドの工房に移動する。
ベッドの前で鎧ドレスを脱ぎ、ワンピースに近い肌着だけになったオリービアが、先にベッドへ入り掛け布団を半分だけめくって、期待するような目で見てくる。
それを見計らってロフト部分全体に、サイコキネシスで見えない壁を作り、オリービアが出れないようにしてから工房を後にする。
「何でですか! ルシファー様~」
オリービアの声は・・・聞こえない振りをした。
外に出てルルを探す。このわずかの間に帰ってきていたのか、ガルムと共に工房の前で惰眠を貪っている。
ルルのお尻を蹴りあげ、乱暴に起こす。
「痛いよ・・・ご主人は僕の扱いが雑だよ」
「仰向けになれ」
「お腹を見せるって、僕らにとっては危ない行動・・・」
「早く」
「分かったよ」
ルルは服従のポーズにも似た、綺麗なへそ天状態になり、脇から腹によじ登ってベッド変りとして横になる。
なかなかの寝心地だな。温かみもあるし、ふわふわの毛は睡魔を呼び寄せる。
「主よ、次は我にお任せを」
寝ていたと思ったが、ガルムがそう一言だけ呟く。馬車は引きたくないと言ったくせに、これはいいのか。
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