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007.少女と屋敷

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「ここで住む場所を斡旋するのか・・・」

「不動産屋です。兎に角部屋を・・・」

「そこの人間、我に相応しき居住場所を寄こすのだ!」

「いきなり横暴な~!」

 小娘が騒がしいが、これ以上人間共の目にさらされているのには耐えられぬ。

 我には1人になる場所が必要なのだ。

「にいちゃん・・・その一国一城の主を求める気持ち、悪くないぜ! 久々に骨のある奴がきやがった! いいだろう! 腕が鳴らぁ!」

「その心意気やよし、人の身でありながらその気迫、期待しておるぞ!」

「うわ~・・・何この人達~。奇跡的に噛みあってるし・・・もう何が何やら」

「ところでにいちゃん、予算はあるのか?」

「金か・・・貴様等の使う金は持っておらぬが・・・」

「おいおい! 金を持ってねえのかよ!? もしかしてそっちの嬢ちゃんもか?」

「私は持っていますが・・・月に銅貨3~4枚くらいの所があれば・・・」

「それじゃあ雑魚寝の大部屋位しかねえが・・・。日雇いの荒い男連中の溜まり場だから、嬢ちゃんには危ねえと思うが」

「構いません。覚悟の上です」

「そうかい・・・」

 今の会話から察するに、小娘も裕福という訳ではないのだろう。

 問題は小娘は我が人間を屠る所を見た事である。
 それは情報として価値があり、利用する事が出来るだろう。
 そういった行為に走られては、我の今後の活動にとって不利にしかならぬ。

 それに小娘は我の事を”恐らく私と目的を同じくしている人”と呼んだ。その件については、我も興味が湧いている。
 小娘のこれまでの言動、我にも利用価値がある人間だと感じる以上、余計な人間共に荒らされる環境に送るよりは、側に置いておいた方が良いか。

 元より合格とやらを得た暁には、我に小娘の全てを話す約束をさせておる。

 それを違える事など許すはずもない。

 だが金がない・・・。どうしたものであろう。

 脅して無理やり家を奪うにも、殺して家を奪うにも、人間共は騒ぎにするであろう。


 ・・・そうであった。この手があったか。


「貴様、金の変りに貴金属ではどうか?」

「うちは質屋じゃないんだが・・・。だけどにんちゃんの頼みなら、それでもいいぜ」

「何でこの数分で、そんなに信頼関係が築けているんですか・・・」

「”ディフェント・エスパケス・デ・ストケージ”」

 金のインゴットを5つほど、異空間収納の魔術を発動し取り出す。

「えええええ!? にいちゃんどういう事だ!?」

「またとんでもない事が~! 常識が仕事をしてない~!」

「これで良い居住場所をみつくろえるか?」

「この街1番の、屋敷が買えらぁ!」

「ほう・・・街1番屋敷であるか。それならば良かろう」

 頭を抱える小娘と不動産の人間を引き連れ、我は街1番の屋敷とやらに案内される。

「10年前の戦火で死んだ貴族の屋敷だが、今更だがにいちゃん1人には広すぎるよな・・」

 当然魔王城には遠く及ばないが、3階建ての白き屋敷は、そこいらの人間の家屋に住むよりは良いだろう。
 魔王の我が住むには、少々清楚な面持ちだが気に入った。

「ここを貰おう。掃除や身の回りの世話は眷族を創り、其の者等にやらせれば良い」

「眷族?」

「おっと! 何でもありません! 不動産屋さん! 私の部屋に案内してください!」

「若い嬢ちゃんを、あの部屋に住まわすのには・・・やっぱり抵抗があるんだがな・・・」

「何を言っておる? 小娘もここに住まわす」

「ルキさん!?」

「にいちゃん! 良く言ったぜ!」

 小娘は驚き、不動産の人間は喜んでいるようだが。なるほど、我の考えを伝えておらなかったからか。

 人間の事など考えていないのでな。これは当然の結果ではあるか・・・。

「これは決定である。拒否する事は叶わぬと知れ」

「ルキさん・・・」

「にいちゃん・・・男だぜ!」

 不動産の人間から門戸の鍵を受け取り、さっそく屋敷に入る。

「我が居城としては、随分と質素になったものだが、人間の価値基準にすれば上等であろうな」

「ルキさん」

 小娘が俯きながら我に声をかけるが、よもやこの屋敷では不満だと申すか?

 所詮は人間、我の用意した物に不満を零すのであれば、利用できようともここで灰にしてくれよう。

「本当に私も・・・一緒に住んでいいのですか?」

「良い悪いではない。我がそう決めたのだ」

「じゃあ・・・お言葉に甘えて。でも理由を教えてください」

「良かろう。貴様は我にとって、利用価値があると判断した。それと我を庇い、助力する理由を聞いておらぬ。貴様が理性の無い男に壊されては、利用も出来ぬし理由も聞けぬからな」

「正直・・・ここに住んで良いって言われて、安心したんです。私も・・・覚悟はしても、耐えられるとは思っていませんでしたから」

「本心を吐露した貴様を、少しは評価してやろう。だがここに住む以上、身の回りの世話はしてもらう」

「それはもちろんなのですが、その・・・夜の方もですか?」

「夜? なるほど・・・夜警であるか。それはしばらく必要なかろう。するにしても後に眷属を創り、其の者達に任せる方が好ましい」

「え~っと・・・そういう意味じゃないのですが、必要とされていない事は分かりました」

 我は未だ人間の感情の揺らぎに疎いが、小娘が明らかに怒っている気がするな。
 人間というのは全く、複雑な生物であるな。

「日も暮れてきたな。貴様の寝室を選ぶが良い」

「ルキさんは?」

「我は・・・恐らくこの体になっても、眠る必要がない」

「分かりました」

 不動産の人間が言っておったが、この屋敷には以前の住人が使用していた物がそのまま残っている。
 あの小娘も使える、人間の寝具が残っておるだろう。

 屋敷を歩き回ると、長いテーブルが置かれた大広間を見つける。
 調理場らしき物が隣にある所を見ると、どうやら人間が食事を取る部屋であるようだ。

「ルキさんここに居たんですか」

 小娘が戻ってきたようだ。

「良い部屋は見つかったのか?」

「はい。大きなベッドがある部屋を見つけました」

「そうであるか・・・」

 記憶の彼方、睡眠が必要な魔族に就寝部屋を用意した際、同じような会話をした。
 我の栄光の時代、そして世界を手中に出来ると疑わなかった時代。

「どうしたんですか? ずいぶん落ち込んだ顔をしていましたが」

「ん? 我は落ち込んでいたか?」

「そういう感じに見えましたけど」

「そう見えたのであれば、我とて思い出に浸る時もあると、心得ておけ」

「分かりました。ところで、お腹すきませんか?」

「我は・・・食事も必要としない」

「そうですか」

 小娘は椅子に座り、懐から固めたパンを取り出し、口に運びだす。

 それを見て、我も向かいに座り小娘を見据えた。

「すいません・・・失礼でしたか?」

「そうではない。話をする良い機会と判断したまで。食べながらで構わん」

「ありがとうございます」

「話すが良い。我を庇い助力する理由を」

「そうですね・・・」

 口の中に残る物を飲み込み、小娘は口を開いた。

「私と同じ、勇者を討とうとする方だと思ったからです」
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みんなの感想(1件)

阿伊宇慧雄
2020.12.11 阿伊宇慧雄

続きを書くつもりはあるのだろうか?

さめ
2021.01.02 さめ

ご記載有難うございます、現在アウトロー側の小説の執筆とリアルの仕事に忙殺されており、こちらの更新の目途は立っておりません。しかしながら、続きを書こうとは思っておりますので、気長に待って頂けると助かります。

解除

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