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出撃No.008 単機戦闘

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「こちらアンティカル皇帝国所属、第0327飛行隊だ。レッドアロンに警告する! 我々の誘導に従いただちに進路を変更せよ」

 敵のリーダーらしき人物からの声が操縦席を包み込む。声から察するに昨日の外人に間違いないだろう。

『アンティカル皇帝国、小国だけど強大な軍事力を持つ軍事国家じゃない。あの血の気と野心の多い皇帝ならレッドアロンを欲しがるのは当然だけど……』
『どうした?』
『何故あの国がレッドアロンを知ってるのか気になってね……。でも、この子を狙っているのがアンティカルと分かっただけでも良しとするわ』

 取り巻きをつれて戻ってきたことで、今回の攻撃が今までと違って本気なのが伺えると望愛が分析する。数が多く今回は勝てそうにないと不安がる僕に、望愛は励ましの言葉をかけてくれる。
 数が増えただけでやることは昨日と変わらない、まずは向こうがV字編隊を組んでいる間に正面から確実に1機ずつ落としていけばいいと支持を出してくれた。

 戦闘の心配をしている僕に対し、望愛はアンティカルにレッドアロンという兵器を絶対に渡してはいけないと危惧している。好戦的な軍事国家に、レッドアロンのようなオーバーテクノロジーを渡したらどんな事になるかが分かっているのだろう。
 他の国への侵略に戦争の拡大。加えてレッドアロンを開発した日本の蹂躙。

『この子は、そうこの子達は唯一無二だから価値がある。だからこそこれ以上同様の物を造られる可能性を断つでしょうね』
『この子達って事は他にもレッドアロンみたいな戦闘機があるのか?』
『ええ、この子の活動を察知して助けに来てくれるといいんだけど。

 まさかレッドアロンに兄弟機があるとは想像していなかった。こんなのが後何機あるというのだろう。

『あと、あたし達は勝つ必要が無い。逃げ切れればいい』
『それ位なら僕にもできそうだけど君の言う助けが来るならうれしいな』
『それは難しいでしょうね』

 やはり助けは見込めないようだ。

『何故だろう? もう撃墜することに、人の命を奪う事に、恐怖も辛さも感じなくなっていってる。たった1回で慣れてしまったのかな。僕は狂った人間なのだろうか?』
『そういう事は自分で結論を出すしかないけど、ひとつだけ言う事があるのならあなたは狂った人間なんかじゃない。あなたは本当の人間よ。正真正銘の人間』
『……それはどういう?』
『さあ、お喋りは終わり!来る!』

エアスクリーンに、昨日と同じターゲットサイトが表示される。



「レッドアロンからの応答はありませんね、ベアトリス隊長」
「当然だが、やすやすと渡してはくれないようだ。だがそれでこそ面白い」
「私が落として見せますよ!見ていて下さい!」
「まて、前に出るな!」



 僕から見て 左側の戦闘機が頭1つ飛び出してくる。

『あれを!』
『了解!』

 照準を合わせロックが完了した瞬間に操縦桿のトリガーを引く。
 雷が落ちる様な音と共に眩い電光を放ちグングニールから弾が発射され、一瞬で戦闘機は破壊され破片を撒き散らしながら青い海に落ちていく。



「だから言ったのだ! 他の者はうろたえるな。死にたくない奴は勝手な行動をするな!」
「「了解」」

 その時のベアトリスは口元だけが微かに笑っており、まるで楽しいおもちゃを見つけた子供が無邪気に遊ぶように、戦いを楽しんでいるようだった。



『次弾装填完了。いいわよ、どんどん撃って』

 レッドアロンを別の戦闘機に向けて照準が合うとロックされ、意を決して再びトリガーを引くと弾丸が発射され今度は右端の戦闘機を貫く。
 直ぐに方向を変え今度は先頭の奴に照準を合わせるが、発射直前に敵機は急上昇を初めロックが解除されたので、行き場を失った照準はただの空を狙って弾を打ち出した。


「先に堕とされた2機には悪いが、何回か発射を見なければ回避方が分からなかったのでね。発射されてから避けるのが困難ならば、射線軸に入らなければ良いだけの事。全機! 速度を上げろ! 近づいてもレッドアロンの前方には出るな。銃口が光り始めたら回避運動だ!」
「「了解!」」


 敵機が一斉に散開し、レーダー上の敵機が速くなっているのに気がつく。

『加速している!』
『敵は数とスピードでこっちを混乱させるつもりよ! こちらも出力の上限を引き上げる!』

 ゲームでやったように後ろをとられないようペダルを踏み込みスピードを上げ、速度が上がるにつれてレッドアロンから出る線光の量が増大していく。

『600・700・800、ちょっと! 速度の上げ方が早すぎる! もう少し緩やかにしないとあなたの体が持たない!」
『僕なら大丈夫だ、少し息苦しい感じはするけどな。そういえば昨日よりは良いよ! 少しは慣れたのかな?』

(重力耐性が異常に高すぎる。今思うと昨日の空戦だって普通は気絶してもおかしく無かったのに。予測以上に覚醒が進んでいる?)

『おい、どうしたんだ望愛!』
『ご、ごめんなさい! 1000・1100・1200! 音速突破!』

 機体を振るわせるほどの低い轟音と共に機体をドーム状の雲が包み込み、速度を上げると共に、獲物を見つけた隼のように後方へ折れた翼は小さくなり、更にスマートになっていく。

「大分距離が縮まった、もう直ぐ敵のミサイル射程内に入る』
『まずはミサイルを避けることか』
『交わした後は、旋回して敵の後ろに……、ミサイルアラート!? そんな!』

 望愛の予想より早く、敵機からミサイルが飛んでくる。

『長距離空対空ミサイル! あのサイズで!?』
『こんちくしょう!』

 とっさに操縦桿を横に倒し機体を縦にした後、速度を上げミサイルを機体の両脇で通過させる。背筋が凍りつく思いがし、機体を水平に戻した時冷や汗がどっと額から噴出す。


 その光景を見てベアトリスは喜びに身を震わしている。

「今のを交わすかレッドアロン! 尊敬に値するぞ。その機動性、素晴らしい。あの機動・反応速度・肉体の耐久力、それでいいのだ流れ星の子。そうでなくては困る!」

 ベアトリスはスピードを上げ、レッドアロンに急速接近を開始する。


『交差する! ぶつからないように!』
『了解!』

 互いの機体が交差し背中を向けた。
 その瞬間操縦桿を思いっきり引き倒すと、機体は空中にレールがひかれているかの様に後方へと上昇しながらスムーズに旋回を始める。多分だが空気抵抗だけではここまでできないはずで、前に見たスラスターの様なものが使われているのだろう。

(なんて無茶な軌道……だけど流星なら!)
『望愛!、あいつの後ろにつける!』

 レッドアロンは旋回を終え、減速し、やっと旋回を開始していた敵機の後方に付いた。

「隊長! 後ろを!」
「馬鹿な! あの速度での急旋回だぞ!。流れ星の子は昨日の今日でそれをやってのけたのか? こうも簡単に私の予想を超えていくとは、何と腹立たしい!」

 僕はスピードを上げて、敵の後方に迫る。

『追いついたけど随分と遅いな』
『あたし達が速いのよ!』

 その時レッドアロンにとって予想外の好運が訪れる。
 部隊は常識の枠に収まる筈の無いレッドアロンの軌道を目の当たりにし混乱したのか、蜘蛛の子を散らすようにバラバラに飛び出した。

『チャンスよ! 近い奴から片っ端に撃ち落として!』

 逃げた敵機の後方に捻り込み照準を合わせトリガーを引くと、空中放電したグングニールは弾を射出し相手の機体のど真ん中を貫いた。
 その直後後ろから機関砲で撃たれたが、僅かに弾がかすった程度で、直ぐに機体をひるがえし、上空へ円を描いてその機体の後ろに回り込み、グングニールで撃ち落とす。

『凄い、正確に空間を把握して軌道を描いている』
『ゲームの時もだけどイメージできるんだ。大雑把にだけどね』
『そのゲームって……あ!』
『よし、現実でのコツを掴んできたぞ。空が身近に感じるし周りの状況も分かる!』
『えっと……悪いニュースがあるわ』
『どうした? うわ!』

 再びミサイルを撃たれ、急旋回し難を逃れた。

『また後ろに!』

 高速かつ急旋回を繰り返し相手の後方に回り込みトリガーを引いたが、グングニールは発射の兆候を見せただけで弾は飛んで行かなかった。

『なんだ!?』
『実は弾切れで……』
『マジかよ! こんちくしょう!』
『だから教えようとしたのに!』

 僕は照準から敵機を外しスピードを上げて距離をとる。


「どうした? なぜ攻撃しない」
「ベアトリス隊長、好機です!」
「ああ、全機フォーメーション再構築、連携攻撃を仕掛ける」

 バラバラに飛んでいた戦闘機が集結を始めるのが見える。

『こうなったら振り切るしかないわ』
『できるのか?』
『また出力の上限を引き上げる。この子の力の片鱗を見せてあげるわ。少し操作がシビアになるけどサポートするから』
『ごめん、毎回助けてもらって』
『いいの、それがあたしの望んだことで役割なんだから。TD出力上昇、今よ! 全力で離脱! 行く先はエアスクリーンに表示する』

 表示にしたがってレッドアロンを180度後方へ旋回させ、ペダルを徐々に踏み込む。軽く踏み込んだだけなのに機体は際限なくスピードを上げていく。スピードの上がる率が明らかに上がっていて僅か数秒で音速を超えることができた。


「隊長、レッドアロンが逃げます」
「追え! 全機最大出力!」

 ベアトリス達の乗る機体のエンジンからは火柱が噴きだす。


『敵も音速を突破した。もっとスピードを上げて』
『分かった』

 さらにペダルを踏み込むと、エンジン音がないのでまるで見えない何かに引っ張られるように機体はスピードを上げていく。それに比例して機体から溢れ出す赤い線光の量が増えていき、速度を確認すると時速2400を超えた所だった。

『マッハ2に突入』
『嘘だろ、聞いた事無いよ。こんな速度…』

 このレッドアロンは、加速力・機動性・武装・推進力・動力、何もかもが他の戦闘機とは明らかに違う。たまに望愛が言うTDという聞きなれない単語が関係しているのだろうか。
 現に、後方から追ってきていた敵機達はもう見えなくなり始めている。



「隊長、無理です。追いつけません」
「測定によると間もなくマッハ3か。化け物が……」
「どうしますか?」
「まだ食いつく方法はある。レーダーを見てみろ、戦闘中もそうだったがレッドアロンは音速を超えるとレーダーに映る」
「ではこのまま追跡を?」
「そうだ。ロストするまでは追跡する。それにしても全体のフォルムといい、翼の展開・格納・可動は、聞いていたよりも遥かに美しい。まさに、赤鳥の名が相応しいな」

 ベアトリスは、自信のレッドアロンへの執着が強まっているのを感じていた。
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