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出撃No.004 レッドアロンの力と少女の頼み
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レッドアロン操縦席で、ベアトリスを撃墜した張本人は思考を巡らしていた。
レッドアロン、それがこの機体の名前らしい。というか全然赤く無い。機体から出ているこの線光のような物は赤いが。
察するに埋まってい事、この赤い線光、鳥のフォルムといい、あの夜の赤い閃光を放つ巨鳥も、隕石騒動も、正体はこいつで間違いないだろう。
周りを見渡すと空戦を続けていたからか、大分僕の街から離れて海の上にいたらしい。
ゆっくり飛んでいるからか引き返し始めて数分程たった頃、やっと見慣れた街に帰ってきた。
『安全な所に着いたらあなたを降ろすわ』
「……君はいったい、誰?」
『あたしは……』
『君は僕にやっと会えたと言った』
『今説明するのはとても難しいのよ……』
少女は落ち込み気味に声をおとす。
『助けてとも』
僕は気にしつつも構わず言葉を投げかけ続ける。
『そう、あたしはあなたを探していた。あなたしか頼る人が』
その時、再び耳を貫く警告音が聞こえエアスクリーンに簡易的な映像が映し出される。真ん中にレッドアロンの形をした表示があり、レッドアロン後方部に赤い点が5つ点滅している。
『援軍? いくらなんでも早すぎる!』
援軍、つまりこの点は敵の戦闘機の事で間違いないだろう。
少女の慌て方と不安そうな声は、がむしゃらに戦っていた時に感じさせなかった、堕とされれば死ぬという空戦の恐怖を与えるのには充分過ぎる程であった。
『国際救難回線で通信? 増援からのようね』
少女がそう言った後、野太く明らかにゴツイ男が喋っているような声が操縦席に響き渡る。
「レッドアロンのパイロットよ! 大人しく降伏しその機体を我々に明け渡せ」
何だかもう勝った気でいるような、勝ち誇っているような感じが伝わってくる。少女は返事をする必要なんか無いとこちらの声は届かないようにしているようだ。
降伏はできないと少女は言い、レッドアロンの力を見せると宣言する。また空戦をする予感がし、自然と体が震え始め心に恐怖が広がり続ける。
『大丈夫。あたしが守ってあげる。さっきみたいな戦闘にはならないわ』
僕の様子を察してか少女が励ましてくれる。この少女の声を聞くとなぜか安心感が生まれ、なにか懐かしいものが思い出されそうな気がしてくる。
『了解、君を信じるよ』
『敵機判明。F-45よ。前大戦の後期に生産されていた機体ね』
父さんのゲームに出てきた機体だ。確かゲーム内のアーカイブによると、F-45は前大戦で使用されていた高軌道ステルス戦闘機だ。F-22以降の最高傑作とされ、バランスのとれた性能から大戦では大量に作られたが、大戦終結後に使われなかった機体が大量に余ってしまったという。それらは途上国や軍事国家に安価で売り払われたとか。少女も知っていたようで説明してくれようとしたが、知っている事を伝えたら驚いていた。
『凄いじゃない! どうして知っているの?』
『父さんのゲーム、なかなかリアルでね』
『それで、操縦も?』
『まあね。現実は全然違かったけどね』
会話をしていてある意味では確信した事がある。僕はこの少女を知っている。
レッドアロンに降伏を要求した編隊は返事がない事に憤り、隊長機のパイロットは苛立ちを露にする。
「レーダーに映らないとはいっても目に見えないわけではないからな。見つけられたのは運が良い。しかし針路も変えず応答も無いとは。なめているのか! レッドアロン」
「よろしかったのですか?」
2番機のパイロットは隊長機へ問いかける。
「何がだ?」
「ニスカ大佐の指示通りに動かなくてです。大佐はベアトリスと合流しろと」
「あんな得体のしれない傭兵信用できるか! いくらなんでも相手はたったの1機だ! この好機をものにし、我々だけでレッドアロンを鹵獲すれば、一気に出世する事も可能だ。いいか! 交戦したらフォーメーションを崩すなよ」
エンジンから火が噴き出し、追手はレッドアロンに向かって急速接近を始める。
少女が敵機の接近を感知し、スピードを上げるように指示を出す。
その指示を合図にペダルを踏み込んだ瞬間、機体から出る線光の量は増え続け、機体は音もなく空気を切り裂きながら翼を最適な形に変形させ加速していく。その加速力で内臓が圧迫され、体を起こす事など不可能な程の重力が体に襲いかかった。
『もう少しがんばって! ……これ位離れれば十分よ! 反転して敵機と向かい合って!』
頭の中に声が響き渡り、不思議と頑張れる気がした。それにやはりとても懐かしい感じも。
操縦桿を引き、宙返りする形で反対方向に機首を向ける。敵機とは真正面で向き合う形になり機体の姿勢が安定した所で、機体の下部で何かが動き始める。
『起動完了』
エアスクリーンに再びターゲットサイトが表示されるが、それは機関砲の時とは違う照準に見え、エアスクリーン越しに見える敵機を僅かに追いかけている。
『先頭の隊長機にターゲットロック完了・給電開始・発射準備完了。チャンスは今しかない! 撃って!』
言われるがまま操縦桿に付いているトリガーを引く。
すると、操縦席の下から振動が伝わり、何かが赤い光を纏いながらミサイルよりも圧倒的に早い速度で飛んでいく。目で見たのは一瞬の事で、落雷のような音を立てていた。
飛んで行った物は先頭にいた敵機に直撃し、紙屑のように簡単に破砕され、空中で粉々にされた機体は爆炎を纏いながら地上に落ちていき、爆発に巻き込まれた両サイドの2機も、機体の一部が破損しているようだ。
『今のは?』
『レッドアロンの標準兵装、グングニールよ』
少女はそれをグングニール、貫通式電磁投射砲という一種のレールガンだと説明した。ただのレールガンではなく、レッドアロンにしか出来ない強力な電力供給で初めて発射できるというものらしい。あまりの電化により空中放電がおこるので、発射した時に落雷のような音がするのだという。
『見て、後続機が引き返していく』
『助かったのか』
隊長機を失った編隊は慌てて海の方へ帰っていく。あんなものを見せつけられては流石に戦おうとは思わなかったのだろう。
高度を保ったまま進路に従って進むように少女は僕に支持をだす。
この子はどこにいるのか、この子は誰なのだろうか、そしてこの戦闘機はなんなのだろか。多くの疑問が渦巻いている。
数分程たっただろうか、空戦を終えて帰ってきた街。朱ヶ山は夕日に照らされて、紅に染まっている。
エアスクリーンに表示されていたのは朱ヶ山の頂上付近で、レッドアロンの静かな動力音は人目を引く事無く山に降りるのには丁度良かった。崖側で人が寄り付かない所に大きな洞窟を見つけ、少女はレッドアロンをその中に隠す事にし、歩いて帰れる道も見つけてくれた。
車輪が機体下部から飛び出し、レッドアロンはゆっくりと岩でできた洞窟の地面へと、スプリングを効かせながら降り立つ。かなり荒っぽい着陸だったので、僕の体は着陸と同時に跳ねてしまい見えない壁に頭をぶつけてしまった。抗議しようとも思ったが、少女が慌てたように直ぐ上部をスライドさせタイミングを逃してしまった。流れ込んでくる新鮮な空気からは、植物と湿った地面の匂いが混ざっているのを感じる。
『お疲れ様』
元気の無い声がした。僅数時間に多くの事がありすぎて何も聞けていなかったが、この時を逃す必要はないと思う。とりあえず純粋な疑問を投げかける。
『君は誰だ?』
『あたしは……まだ言えない』
なぜ言えないのか。追及はせずに次の質問に移る。
『なぜ僕に会いたがってたんだ?』
『あなたに助けて欲しかったから……』
要領を得ない回答。少し苛立ちを覚えてしまう。
『君を助ける? だから君は誰なんだ? 君はさっきから僕の質問に本質的には解答してないじゃないか!』
『こんなこと言いたくないけど、あなたが知りたい事はあたしを助ける過程である程度知る事ができるわ』
意外な言葉だ。ついていけばある程度知る事ができると言っている。まるで誘いをかけているみたいじゃないか。正直好奇心を刺激されている。今まさに、僕は好奇心と早く日常に戻りたいという相反する欲求の狭間に立っている。
……それよりも気になったのは、少女の声が泣きそうに聞こえることだろうか。
『……了解だ、君を助けよう』
どうやら今回は、好奇心が勝ってしまったらしい。少しの後悔があったが。
『ありがとう、流星』
『僕の……名前…』
レッドアロン、それがこの機体の名前らしい。というか全然赤く無い。機体から出ているこの線光のような物は赤いが。
察するに埋まってい事、この赤い線光、鳥のフォルムといい、あの夜の赤い閃光を放つ巨鳥も、隕石騒動も、正体はこいつで間違いないだろう。
周りを見渡すと空戦を続けていたからか、大分僕の街から離れて海の上にいたらしい。
ゆっくり飛んでいるからか引き返し始めて数分程たった頃、やっと見慣れた街に帰ってきた。
『安全な所に着いたらあなたを降ろすわ』
「……君はいったい、誰?」
『あたしは……』
『君は僕にやっと会えたと言った』
『今説明するのはとても難しいのよ……』
少女は落ち込み気味に声をおとす。
『助けてとも』
僕は気にしつつも構わず言葉を投げかけ続ける。
『そう、あたしはあなたを探していた。あなたしか頼る人が』
その時、再び耳を貫く警告音が聞こえエアスクリーンに簡易的な映像が映し出される。真ん中にレッドアロンの形をした表示があり、レッドアロン後方部に赤い点が5つ点滅している。
『援軍? いくらなんでも早すぎる!』
援軍、つまりこの点は敵の戦闘機の事で間違いないだろう。
少女の慌て方と不安そうな声は、がむしゃらに戦っていた時に感じさせなかった、堕とされれば死ぬという空戦の恐怖を与えるのには充分過ぎる程であった。
『国際救難回線で通信? 増援からのようね』
少女がそう言った後、野太く明らかにゴツイ男が喋っているような声が操縦席に響き渡る。
「レッドアロンのパイロットよ! 大人しく降伏しその機体を我々に明け渡せ」
何だかもう勝った気でいるような、勝ち誇っているような感じが伝わってくる。少女は返事をする必要なんか無いとこちらの声は届かないようにしているようだ。
降伏はできないと少女は言い、レッドアロンの力を見せると宣言する。また空戦をする予感がし、自然と体が震え始め心に恐怖が広がり続ける。
『大丈夫。あたしが守ってあげる。さっきみたいな戦闘にはならないわ』
僕の様子を察してか少女が励ましてくれる。この少女の声を聞くとなぜか安心感が生まれ、なにか懐かしいものが思い出されそうな気がしてくる。
『了解、君を信じるよ』
『敵機判明。F-45よ。前大戦の後期に生産されていた機体ね』
父さんのゲームに出てきた機体だ。確かゲーム内のアーカイブによると、F-45は前大戦で使用されていた高軌道ステルス戦闘機だ。F-22以降の最高傑作とされ、バランスのとれた性能から大戦では大量に作られたが、大戦終結後に使われなかった機体が大量に余ってしまったという。それらは途上国や軍事国家に安価で売り払われたとか。少女も知っていたようで説明してくれようとしたが、知っている事を伝えたら驚いていた。
『凄いじゃない! どうして知っているの?』
『父さんのゲーム、なかなかリアルでね』
『それで、操縦も?』
『まあね。現実は全然違かったけどね』
会話をしていてある意味では確信した事がある。僕はこの少女を知っている。
レッドアロンに降伏を要求した編隊は返事がない事に憤り、隊長機のパイロットは苛立ちを露にする。
「レーダーに映らないとはいっても目に見えないわけではないからな。見つけられたのは運が良い。しかし針路も変えず応答も無いとは。なめているのか! レッドアロン」
「よろしかったのですか?」
2番機のパイロットは隊長機へ問いかける。
「何がだ?」
「ニスカ大佐の指示通りに動かなくてです。大佐はベアトリスと合流しろと」
「あんな得体のしれない傭兵信用できるか! いくらなんでも相手はたったの1機だ! この好機をものにし、我々だけでレッドアロンを鹵獲すれば、一気に出世する事も可能だ。いいか! 交戦したらフォーメーションを崩すなよ」
エンジンから火が噴き出し、追手はレッドアロンに向かって急速接近を始める。
少女が敵機の接近を感知し、スピードを上げるように指示を出す。
その指示を合図にペダルを踏み込んだ瞬間、機体から出る線光の量は増え続け、機体は音もなく空気を切り裂きながら翼を最適な形に変形させ加速していく。その加速力で内臓が圧迫され、体を起こす事など不可能な程の重力が体に襲いかかった。
『もう少しがんばって! ……これ位離れれば十分よ! 反転して敵機と向かい合って!』
頭の中に声が響き渡り、不思議と頑張れる気がした。それにやはりとても懐かしい感じも。
操縦桿を引き、宙返りする形で反対方向に機首を向ける。敵機とは真正面で向き合う形になり機体の姿勢が安定した所で、機体の下部で何かが動き始める。
『起動完了』
エアスクリーンに再びターゲットサイトが表示されるが、それは機関砲の時とは違う照準に見え、エアスクリーン越しに見える敵機を僅かに追いかけている。
『先頭の隊長機にターゲットロック完了・給電開始・発射準備完了。チャンスは今しかない! 撃って!』
言われるがまま操縦桿に付いているトリガーを引く。
すると、操縦席の下から振動が伝わり、何かが赤い光を纏いながらミサイルよりも圧倒的に早い速度で飛んでいく。目で見たのは一瞬の事で、落雷のような音を立てていた。
飛んで行った物は先頭にいた敵機に直撃し、紙屑のように簡単に破砕され、空中で粉々にされた機体は爆炎を纏いながら地上に落ちていき、爆発に巻き込まれた両サイドの2機も、機体の一部が破損しているようだ。
『今のは?』
『レッドアロンの標準兵装、グングニールよ』
少女はそれをグングニール、貫通式電磁投射砲という一種のレールガンだと説明した。ただのレールガンではなく、レッドアロンにしか出来ない強力な電力供給で初めて発射できるというものらしい。あまりの電化により空中放電がおこるので、発射した時に落雷のような音がするのだという。
『見て、後続機が引き返していく』
『助かったのか』
隊長機を失った編隊は慌てて海の方へ帰っていく。あんなものを見せつけられては流石に戦おうとは思わなかったのだろう。
高度を保ったまま進路に従って進むように少女は僕に支持をだす。
この子はどこにいるのか、この子は誰なのだろうか、そしてこの戦闘機はなんなのだろか。多くの疑問が渦巻いている。
数分程たっただろうか、空戦を終えて帰ってきた街。朱ヶ山は夕日に照らされて、紅に染まっている。
エアスクリーンに表示されていたのは朱ヶ山の頂上付近で、レッドアロンの静かな動力音は人目を引く事無く山に降りるのには丁度良かった。崖側で人が寄り付かない所に大きな洞窟を見つけ、少女はレッドアロンをその中に隠す事にし、歩いて帰れる道も見つけてくれた。
車輪が機体下部から飛び出し、レッドアロンはゆっくりと岩でできた洞窟の地面へと、スプリングを効かせながら降り立つ。かなり荒っぽい着陸だったので、僕の体は着陸と同時に跳ねてしまい見えない壁に頭をぶつけてしまった。抗議しようとも思ったが、少女が慌てたように直ぐ上部をスライドさせタイミングを逃してしまった。流れ込んでくる新鮮な空気からは、植物と湿った地面の匂いが混ざっているのを感じる。
『お疲れ様』
元気の無い声がした。僅数時間に多くの事がありすぎて何も聞けていなかったが、この時を逃す必要はないと思う。とりあえず純粋な疑問を投げかける。
『君は誰だ?』
『あたしは……まだ言えない』
なぜ言えないのか。追及はせずに次の質問に移る。
『なぜ僕に会いたがってたんだ?』
『あなたに助けて欲しかったから……』
要領を得ない回答。少し苛立ちを覚えてしまう。
『君を助ける? だから君は誰なんだ? 君はさっきから僕の質問に本質的には解答してないじゃないか!』
『こんなこと言いたくないけど、あなたが知りたい事はあたしを助ける過程である程度知る事ができるわ』
意外な言葉だ。ついていけばある程度知る事ができると言っている。まるで誘いをかけているみたいじゃないか。正直好奇心を刺激されている。今まさに、僕は好奇心と早く日常に戻りたいという相反する欲求の狭間に立っている。
……それよりも気になったのは、少女の声が泣きそうに聞こえることだろうか。
『……了解だ、君を助けよう』
どうやら今回は、好奇心が勝ってしまったらしい。少しの後悔があったが。
『ありがとう、流星』
『僕の……名前…』
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