スラムメイドと幽霊坊ちゃんの夜会飯

月址さも

文字の大きさ
上 下
48 / 50
四章

48.聖女のスピーチ

しおりを挟む
 王位継承を終えたシウォンはホールのバルコニーに出ていく。
 手すりのすぐ前に立つと、そこからたくさんの人が見渡せる。

「あ、あれが第二皇子か?」
「え~! ねえちょっとカッコよくない!?」
「あらまあ、どういうお話をなさるのかしら......?」

 バルコニーの下から国民達がシウォンの姿を捉え、一気に騒がしくなる。

「皆の者、聞け」

 前皇帝が民衆に向かって叫ぶ。
 その瞬間、ざわついていたその場は一気に静かになった。

「つい先程、王位は無事に継承された。よってここに新しい皇帝の誕生を知らせる!」

 次の瞬間、静まっていた国民達の歓声によってその場は湧きあがる。
すごい熱量の歓声だ。国民達が一斉に新しい皇帝の誕生を祝っている。

「国民達よ。私は前皇帝から王位を継承した。これから彼に代わってこの国を守り、そして新しく作っていくことをここに約束する」

 シウォンが大きな声で宣言した。

「声もかっこいいわね~! 真面目そうだし、好青年ね~!」

「いや~第一皇子が皇帝にならなくてほんと良かったよ。俺はシウォン皇帝を応援するぞ!」

「皇帝バンザーイ!!!」

 国民達が次々にシウォンへの歓声を投げかける。
どうやらお披露目は上手くいったようだ。

「そして次に皆に紹介しておかねばならぬ方がいる。その方は今まさに王位を継承した皇帝の命を救った奇跡の存在、”聖女”だ」

 その瞬間、聖女という単語に群衆はざわめき出す。

「聖女だって? 初めて聞いたな」
「何か皇帝と関係があるのかしら?」

王位継承式の日に突然現れた聖女。その存在に、国民達は疑問に思う。

「では、聖女フィオネ。挨拶を」

(はあ、緊張する......!)

 私はバルコニーに出て、シウォンの横に並んだ。

「皆さん、私はこの国の危機に現れるとされた聖女です。私の力により、この国は護られるでしょう」

 私が指輪をつけた手を合わせて祈る。
 その瞬間、指輪が白い光を放ち始めた。

「なんだ!?あの光?」

「見て、あれ!どんどん上がっていく!!」

 指輪から放たれた光は徐々に大きくなり、バルコニーの真上に一本の光の柱を築いた。

 やがて柱は空に到達し、曇り空だった空を引き裂いていく。

「え、晴れた......」

「空が晴れた! すごい!」

「これが聖女様の力?」

「聖女、バンザーイ!」

 国民達は聖女の力を見て、かなり驚いているようだ。

(良かった、噛まずに言えた!)

「そして何故、今日聖女フィオネはここに居るのか、そう疑問に思うものもいるじゃろう。この度、晴れて二人は結ばれることになった。新しい皇后陛下の誕生じゃ」

「皇后だって!?」

「新しい皇帝と新しい皇后だ! これはおめでたい!」

 国民達は今日はお祭りだとでも言わんばかりに騒ぎ始める。

「では二人とも、誓いのキスを」

「へっ?」

(誓いの......?何?)

 私は少し離れた所で見ていたドリーに目で助けを求めた。
 なんの間違いか、こんな流れは一度も無かったはずだ。
 その瞬間、ドリーは小さく親指を立てて控えめに微笑んだ。

(ド、ドリーーー! 謀ったな!)

「フィオネ、良い?」

「え......シウォン、本当に?」

 彼が私の頬に手をあてる。
 周囲の視線が思いっきり突き刺さっているこの状況でシウォンはどうやら腹を括ったようだ。

「フィオネ、今まで僕を助けてくれてありがとう。これからは僕が君を幸せにするから」

「シ、シウォン――」

 私は嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちで半分パニックだった。

「うう、分かった。私、シウォンを信じる。だからその――」

「その......?」

「ずっとよろしく、ね」

「!」

 たくさんの視線を浴びながら私達はお互いの唇を重ねる。

 その瞬間、シウォンに初めて会った日、初めて文字を教えて貰った日、魚の塩焼きを食べさせて貰った日、彼が生き返った日、その今までの記憶が走馬灯のように蘇った。

 そうして私は盛り上がる歓声の中、その声も聞こえなくなるくらいの幸せに夢中になるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...