スラムメイドと幽霊坊ちゃんの夜会飯

月址さも

文字の大きさ
上 下
46 / 50
四章

46.今日から

しおりを挟む
「と、いうことで既に書類は作成しておいた。あとはおぬしのサインだけだな」

「えっあの」

 私は皇帝の圧に蹴落とされ、言われるままに分厚い書類の最後にサインをした。

(うう、めっちゃ疲れた......)

「サインが終わりましたらこちらに、一ヶ月後に行われる継承式に参加するドレスの型紙を取らねばなりません」

「えっ、今からですか?」

「はい、その後も継承式で発表する文章を考えていただきます。そして今日から礼儀作法の授業が始まりますので――はっ、もうデザイナーが来る時間だ! フィオネ様、行きますよ!」

 サインを書き終わった瞬間、私はドリーに腕を掴まれた。

「へっ? ちょっ、えええええ」

 廊下に私の情けない叫び声が響き渡る。
 そしてこの後まさか十五時間に渡って宮内に拘束されることになるとはこの時の私は知る由もなかった。









「ふあー、疲れたあ......」

 その後、怒涛の十五時間スケジュールを終えた私は今朝居たベッドにダイブしながら脱力していた。

 ドレスの型取りはずっと立ったままだし、礼儀作法の授業は頭にいっぱい本を載せられて首が痛い。

 明日から継承式まで毎日授業がびっしり詰まっていると思うと、ちょっと憂鬱だ。

 だが。

「好きだ、だってさ。ふふ」

 私はシウォンが今朝言ってくれた言葉を思い出す。
 こんなに疲れている今でも、その瞬間を思い出すだけでなんだか不思議なエネルギーが溢れてくる。
 それだけでどんなに大変なことでも頑張れる気がした。

(......これが両思いってやつなんだね)

 月明かりが窓から差し込む。
 その光に照らされた指輪がキラリと光った。

「カイン、ありがとうね」

 シウォンを生き返らせて聖女の精神世界から出る直前、彼は私に手を振っていた。

 ここまで力を使い果たしたから少しだけ、お別れだとカインはそう告げた。

 彼があの時力を貸してくれなかったら月石だけでシウォンを蘇らせることは出来なかったかもしれない。

「また......どこかで会えるよね」

 私はそう言って指輪を見つめた。

 さあ、明日も早い。もう寝なければ......。
 目を閉じるとあっという間に眠気に襲われ、私は深い夢の中に落ちるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある
恋愛
男女の貞操観念などが逆転している世界の話。 高校生の『あおい』は友達の『りん』に片思いしているが、あおいにはある秘密があった…… 基本男女による恋愛ですが、ガールズラブも含まれます。 女性向けラブコメだと思います。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...