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三章

39. 聖なる者

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「あの、カイン。感傷に浸っているところ申し訳ないんだけど」

「はっ! そ、そうだったね。つい昔を思い出してしまったよ、悪いね」

 どうやら彼は少しだけ元気になったみたいだった。
 それは良かったが、私はシウォンを失った悲しみを未だ消化できていない。

「でもカイン......私、正直もうどうでも――」

 冷たくなった彼の身体が目の前にある。
 それを目にして私にもう元気はない。

「さあ、フィオネ。シウォンくんを蘇生させるんだ!」

「えっ.........???」

 私はカインの衝撃的な台詞に耳を疑った。

「何をボケっとしてるんだ? いくらこの精神世界は時間が止まってるからと言って、そんなにシウォンくんを待たせたらかわいそ......ってあ、そうだった忘れてた」

「あの! カイン、今なんて――」

(シウォンを蘇生させる......)

 まさか、聖女の力か何かで生き返らせるってこと?

「じゃあシウォンは、戻って、くるの?」

 私は冷たくなったシウォンの頬に手を当てた。
 海風で少し荒れた肌はちょっとだけざらざらしている。

「まつ毛も銀色だ......」

(ずっと触れてみたかったんだよなあ)

「私が聖女なら、きっと治せるんだよね」

 私は左手にはめていた指輪に意識を集中する。
 自分が使える聖女の力のことはよく分からないが、なんとなくこんな感じで使えるのではないだろうか?

「うぅ~ん、はぁ!」

 しかし何も起きない。
 違う? じゃあ次はこれでどうだ!

「うぅ、よいしょ~!」

(これも違うかな?じゃあこれはどうだ!)

「うおおお!ぎゃああああ!!!」

「うーん確かこっちに......あっ、あったあった!よし、これでシウォンくんを、って何してるんだい?フィオネ」

「え?」

 シウォンに向けて波動を送った瞬間、後ろでぶつぶつ独り言を言いながら探し物をしていたカインと目が合った。

「ぷぷっ、フィオネっ......。ぷぷ、そんなことしても生き返らないよ。ほら見てこれ、本物の月石だよ」

「~ッ!!!」

 カインは私の奇行を軽く小馬鹿にしつつ、とんでもなく綺麗な宝石を胸ポケットから出して見せた。

「え、月石? なんでカインが持ってるの?」

「これが無いと蘇生できないの忘れてたよ、ごめんごめん。それにしても月石のある鉱山を譲って貰うのに苦労してね、こんなに登場が遅くなってしまったよ」

「!」

 その瞬間私はミッジとスワムの会話を思い出す。
 つまり、ミッジが以前会ったことがあるのは皇弟では無くスワムの姿を借りたカインだった、というわけだ。

「さあフィオネ、これを使うと良い。月石がきっと君が扱えなかった力の使い方を教えてくれるはずだよ」

 琥珀色に光る手のひらほどの宝石。
 私は迷いなくその宝石を、カインから受け取った。
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