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三章

37.隠してたこと

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「フィオネ、シウォン! しっかりしろ!」

「うぅ......」

 荒い声が頭上に降りかかる。
 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

「いたっ、何......」

 ズキズキと痛む頭。
 全身を打ち付けたのか身体が痛い。
 朦朧とした意識の中で辺りを見渡すとシウォンが隣で倒れていることに気づいた。

 その瞬間私は、全てを思い出した。

「シ、シウォン! 大丈夫!?」

 辺り一体が血の海だった。
 そう、私達はあの最上階から真っ逆さまに落ちたのだ。
 血の海には、真っ白い顔で意識を失っているシウォンが力無く沈んでいた。

「何これ......。血が!?」

 シウォンは私を庇って下敷きになった。
 つまり、最上階から地面に落ちた衝撃は彼が全部代わりに受けたことになる。

「シウォン、返事して!! 私だよ、フィオネよ!」

 手を握って呼びかけても握り返すのはおろか、ピクリとも動かない。

「シウォン!! 嫌だ、死んじゃ嫌だ! お願いだから返事してよ!!!」

 私は我を忘れて必死に叫んだ。
 頭には既に最悪の結末が浮かんでいる。
 これだけの血を流している人間が果たして、助かるのだろうか?

 叫びながらも、頭の中はシウォンと過ごした記憶が次々に通り過ぎていった。

「シウォン大丈夫か!?おい、お前! 侍医を呼べ!」

「はっ、はい!」

 スワムが周りで野次馬していた貴族達に侍医を呼ぶように怒鳴りつけた。
 今まで余裕そうだった彼の顔が真っ青になっているのを見て、私の焦りは恐怖に変わっていく。

 すると次の瞬間、突然後ろから聞こえた“悪魔”の声。

「呼んでも無駄だと思うがなあ。四階から落ちたんだぞ?」

「ジーク! 貴様、よくも――」

「残念だったな皇弟。貴方がこいつを使って何を企んでいたのかは知らないが。まあ、もうどうでもいい。既に死んでいるようだしな」

 ジークは血まみれのシウォンを一べつして、鼻で笑っている。

「ジーク様がシウォン様を......」

「一体どうして......」

 私達の周りにはジークを筆頭にヘンゼルとミッジも最上階から降りてきたようだった。

「けほっ! フィ――」

「シウォン、大丈夫なの!?」

 苦しそうに喋るシウォンに心が痛くなる。
 制止されているのに、シウォンはそのまま喋り始めた。

「フィ、オネ......。ごめん」

「へっ......?何が?」

「僕、君を利用しようとしたんだ」

「ど、ういうこと?」

 こんな状況での突然の謝罪に混乱した。
 だってシウォンは全てを諦めて、最後の力で喋っているように見える。

「君の中の、聖女の力を僕は、利用するつもり、だったんだ」

(り、よう......?)

「君が聖女って知られたら......きっと崇められて人気者になっちゃうだろ?だから君に黙って君を......僕の妃にするつもりだった」

 だからバチが当たったんだ、と言ってシウォンは恥ずかしそうに笑う。
 その笑顔を見てようやく私は、自分がプロポーズされたことに気づいた。
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