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三章

35.もう黙らない

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「しかし、ユジ国はトーユ国に守られているようだしな。これでは流石の俺も手を出せない。だから――」

「だから......?」
「あっ、諦めてくれるのですか?」
「ああ」

 その場にいる全員が少し、ほっとする。
 しかしジークが発した次の言葉でその場は凍りつくことになった。

「もう海上貿易うんぬんはどうでもいい。この場で全員殺せばそれで済む話だ」

(え......?今なんて――)

 ジークは突然、自分の腰に差していた剣を鞘から引き抜いた。
 その場から悲鳴があがる。

「やめてください兄上! 何をするつもりですか!?」

「ふんっ! やはり話すまでもありませんでしたね。この野蛮人が!」

 殺気を感じたユジ国とトーユ国の護衛がジークを取り囲む。

「ふんっ、やれるならやってみろ! その剣で私に指一本でも触れたら......」

 ガキンッ!

「――触れたらなんだというのだ?」

 三メートルほど離れた場所に居たジークはいつの間にかミッジの目の前で刃を振るっていた。 

「ひぃっ......!」

 間一髪で護衛が刃を受け流したが、あと数秒でミッジの顔は真っ二つになっていたかもしれない。  

「うおおお!」

「やあああ!」

 護衛が勢い良くジークに斬りかかる。
 しかし軽くかわされてその衝撃が彼に届くことは無かった。

「ぐっ......! うっ!」

「がはっ......!」

 ジークは交わした反動で護衛に蹴りを入れる。
 ドサッと地面に倒れる二人の護衛を見てミッジは震え上がった。

「ふっ、選りすぐりの護衛兵がこの程度か?」

「何をして......!? 兄上! 剣をしまってください!!」

(シウォン.....!)

「お前は黙ってろ! いつも何も出来ないくせにこの俺に指図するな!」

「! 何も出来ないくせに? はっ、兄上は......そんなんだからいつも嫌われるんだろ」

「なんだと......?」

 その瞬間、ジークの気配が変わった。
 さきほどまでの殺気は本物の殺意になってシウォンに向けられる。

 ジークがシウォンの襟を掴んで引っ張る。

「うっ、あ、兄上......!」

「お前は本当に俺の神経を逆撫でするのが上手いな。お望み通り今すぐに殺してやる」

 ジークは怒りのまま、シウォンを壁に向かって投げ飛ばした。

 バンッ!

「うぐっ......!」

 シウォンは扉に身体を打ち付けて部屋の外に放り出された。

 吹き抜けになっている廊下の手すりによりかかったままシウォンは動かない。

「終わりだなカス。お前の最後はここからの落下死だ」

 そう言いながらジークがシウォンに向かって剣を振り下ろそうとしたその時、

「やめてください!」

「......なんだ、お前は?」

 私の身体はとっさにシウォンを庇うようにジークの目の前に立ち塞がったのだった。
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