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三章
33.六百年前
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「僕は――」
シウォンが口を開く。
「平和協定に入るほうが良いと思います」
彼の意見を聞いて周囲がホッとしたのは言うまでもない。それと同時にシウォンには少しだけ期待の眼差しが注がれることになった。
「なんだと......?」
ジークの殺気が強くなる。
「兄上が僕のことをよく思っていないのは知っています。しかし、トーユ国の海上貿易が無ければこの国は成り立ちません。今この瞬間にも、貧しい思いをしている人は増えています」
「そうだな。値上げによって街の治安も悪くなっている。民のことを考えれば自ずと選択肢は限られてくる。そうではないか? ジーク」
スワムもシウォンに意見に同調する。
つまり、この場に居る者の中で反対意見を述べているのは第一皇子だけ。
「黙れ! 俺に指図するな」
その瞬間、ジークの怒号が鳴り響いた。
辺りが静まり返る。
「......ジーク、一つ良いかな? 君がそこまでユジの鉱山に執着する理由はなんだ?」
「それは、私も気になっていました」
スワムの問いかけにミッジがポツリと疑問をこぼした。
先程から話を聞いている限り、確かに鉱山に何かあることは間違いない。
少しの沈黙の末、ようやく彼は口を開いた。
「......聖女だ」
「「「「「せいじょ?」」」」」
思わぬ言葉が飛び出したので私達は固まった。
(聖女とはまさか、私のこと?)
「まさか兄上、あの伝説のことを言っているのですか?」
「伝説......?なんでしょうそれは」
「......話してやれ」
そう言ってジークはしかめっ面のまま弟に投げかけた。
「しかし兄上......。っ、分かりました。この伝説を知っているのは数少ない王族のみですが今から六百年前、この国が戦争でとても荒れていた時、一人の救世主が現れました。それが聖女です」
「それは初めて聞きました。それで、その聖女とやらが鉱山と何の関係が?」
不思議そうにミッジが尋ねる。
「月石のことは知っていますよね?」
(月石......? なにそれ?)
知らない単語に戸惑う私を置き去りにして話はどんどん進んでいく。
「はあ......。もちろん。我が国で最も採取率が低い鉱石です。それがどうしたんでしょう?」
「聖女はかつて太陽石というものを持っていました。それが彼女の力の源だからです。そしてもう一つ、その石と対になる石があります。それがあれば聖女は完全に力を出すことが出来るのです」
(もしかして、それが......月石?)
「ですが六百年前の戦争では月石が聖女の手元に無く、聖女は戦争で力を使い切って亡くなりました」
「ちょっと待ってください。聖女はその六百年前の戦いで亡くなったんですよね? それなのに何故ジーク様は月石を欲しがっているのですか? それで一体何をするつもりなのですか?」
「......」
「答えてください!」
彼はもう限界そうだった。
ミッジだけでは無い、ヘンゼルもジークの理解できない態度にイラついていた。
「ふっ、ふは、はははっ、ははははは!」
その瞬間、狂ったようなけたたましい笑い声がその場に響いた。
シウォンが口を開く。
「平和協定に入るほうが良いと思います」
彼の意見を聞いて周囲がホッとしたのは言うまでもない。それと同時にシウォンには少しだけ期待の眼差しが注がれることになった。
「なんだと......?」
ジークの殺気が強くなる。
「兄上が僕のことをよく思っていないのは知っています。しかし、トーユ国の海上貿易が無ければこの国は成り立ちません。今この瞬間にも、貧しい思いをしている人は増えています」
「そうだな。値上げによって街の治安も悪くなっている。民のことを考えれば自ずと選択肢は限られてくる。そうではないか? ジーク」
スワムもシウォンに意見に同調する。
つまり、この場に居る者の中で反対意見を述べているのは第一皇子だけ。
「黙れ! 俺に指図するな」
その瞬間、ジークの怒号が鳴り響いた。
辺りが静まり返る。
「......ジーク、一つ良いかな? 君がそこまでユジの鉱山に執着する理由はなんだ?」
「それは、私も気になっていました」
スワムの問いかけにミッジがポツリと疑問をこぼした。
先程から話を聞いている限り、確かに鉱山に何かあることは間違いない。
少しの沈黙の末、ようやく彼は口を開いた。
「......聖女だ」
「「「「「せいじょ?」」」」」
思わぬ言葉が飛び出したので私達は固まった。
(聖女とはまさか、私のこと?)
「まさか兄上、あの伝説のことを言っているのですか?」
「伝説......?なんでしょうそれは」
「......話してやれ」
そう言ってジークはしかめっ面のまま弟に投げかけた。
「しかし兄上......。っ、分かりました。この伝説を知っているのは数少ない王族のみですが今から六百年前、この国が戦争でとても荒れていた時、一人の救世主が現れました。それが聖女です」
「それは初めて聞きました。それで、その聖女とやらが鉱山と何の関係が?」
不思議そうにミッジが尋ねる。
「月石のことは知っていますよね?」
(月石......? なにそれ?)
知らない単語に戸惑う私を置き去りにして話はどんどん進んでいく。
「はあ......。もちろん。我が国で最も採取率が低い鉱石です。それがどうしたんでしょう?」
「聖女はかつて太陽石というものを持っていました。それが彼女の力の源だからです。そしてもう一つ、その石と対になる石があります。それがあれば聖女は完全に力を出すことが出来るのです」
(もしかして、それが......月石?)
「ですが六百年前の戦争では月石が聖女の手元に無く、聖女は戦争で力を使い切って亡くなりました」
「ちょっと待ってください。聖女はその六百年前の戦いで亡くなったんですよね? それなのに何故ジーク様は月石を欲しがっているのですか? それで一体何をするつもりなのですか?」
「......」
「答えてください!」
彼はもう限界そうだった。
ミッジだけでは無い、ヘンゼルもジークの理解できない態度にイラついていた。
「ふっ、ふは、はははっ、ははははは!」
その瞬間、狂ったようなけたたましい笑い声がその場に響いた。
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