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三章
28.初めまして
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「本当に良かったの? ついてきて」
「うん、シウォン皇子だけだと心配だからさ」
「皇子はやめて......緊張するから。じゃあ入るよ」
そう言ってシウォンはドアをノックする。
私達はあれからすぐに戦争を止めるために動くことにした。
どうやらこの部屋はシウォンを匿っている数少ない頼れる人物、皇弟の執務室らしい。
私は緊張しながらもシウォンが開けた扉の奥を見ていた。
「失礼します。皇弟、今街は――」
「カイン!?」
カインだ。
目の前にカインが立っている。
あの白い髭に高い背、おまけに部屋の隅にある銀色のゲージ。その中にジーンと思わしき犬がいた。
「ちょっとフィオネ、皇弟だよ......」
私の奇行にシウォンの顔が大分引き攣っている。
しかし、間違えるはずがない。
どうしてここにカインがいるのか分からない。
「私はカインではない、スワムだ。だがよく来たなシウォン、フィオネ。待っていたぞ」
そう言って、スワムと名乗る人物はカインと同じ顔で微笑むのだった。
「“カイン”というのは私の身体を借りた精霊のことだ」
「えっ......???」
「どういうことですか?」
皇弟の説明に私とシウォンははてなマークが浮かんでいた。
説明をまとめると、精霊というのは特殊な力を使って聖なる者を助け、国の危機を聖なる者と一緒に救ってきたいわば、神に近いような存在らしい。
「カインは私の姿になって聖なる者を探していた。分かるかね?フィオネ、それが君だよ」
(えっ?今なんて――)
「「えっ?」」
その瞬間、二人して聞き返すことしかできない。
「どういうことですか? フィオネが聖女だなんて......」
とんでもない事実をあっさり告げられてパニックになる。
(スラムで生まれた私がどうして聖女なの......?)
「フィオネ、あの指輪はまだ持ってるね?」
「あっ、これ」
「この指輪を持っている間、何か不思議なことは起こらなかったか?」
そう言って真っ直ぐに私を見据えるスワム。
その問いに私は心当たりがあった。
「! まさか......馬車の時も、城下町に着いた時も、この前のひったくりの時も.......!この指輪を見た人が急に操られたようになって――」
そこまで言うと皇弟は静かに頷いた。
つまり、この指輪は――
「ああ、正確に言うとその指輪は聖女だけが使える物なんだ。まだ力が十分じゃない聖女に精霊が短時間だけ力を貸して助けるツールだ。御者や老婆、ひったくり犯のように聖女に危害を加える者を操ったり、攻撃を無効化するんだ」
「カイっ......ごほんっ。あの、皇弟はどうして精霊のことを知ってるのですか?」
慌てて敬語を使って尋ねると彼は悩ましげに切り出した。
「精霊はこの国の危機の度に現れる。実は精霊には去年出会ったんだ。私にはなんの特殊な力もないが、精霊がこの危機を救うために力を貸してほしいと言われた。ジークのやり方は気に食わないからな。こうして身体を貸していた」
(そういうことか......)
身体を貸していたと聞いてなるほどと思う。それなら同じ顔でも納得だ。それにしても――
「えっと、この国の危機とは?」
「今、ジークがトーユ国を筆頭にその協定を結んだ国と対立しているのは知ってるね?実はその全ての国が手を組んで宣戦布告してきたんだ」
「じゃあ本当に......」
戦争が始まったんだ。
うっすらとしか自覚していなかった事実がはっきりと現実だと実感する。
その瞬間、私の手足が勝手にガタガタと震え出した。
「フィオネ! 大丈夫?」
「フィオネ、落ち着きなさい。大丈夫だ、私が何のためにシウォンを十年以上匿ったと思っている」
スワムはそう言いながらゲージの鍵を開ける。
するとジーンが勢いよく、私に向かって突進してきた。
肌にふわふわの白い毛が当たる。
ジーンの温もりにいつの間にか私の震えは治まっていた。
「私達で交渉をするんだ、平和協定を結べるように。そのためにシウォン、フィオネ、君たちに力を貸してほしい」
「それはもちろん、僕の悲願ですから」
それは今まで見たことのないシウォンの覚悟を決めた返事だった。
(そうか、彼はもうずっと前から――)
ごくり、と唾を飲む。
彼らのために私もここで覚悟を決めなければ。
「あの、私で良ければ......何ができるか分からないですけど」
「ふふ、ありがとう。では、早速行こうか」
そうして私達はジーク皇子がいる、本城へ向かうことにした。
「うん、シウォン皇子だけだと心配だからさ」
「皇子はやめて......緊張するから。じゃあ入るよ」
そう言ってシウォンはドアをノックする。
私達はあれからすぐに戦争を止めるために動くことにした。
どうやらこの部屋はシウォンを匿っている数少ない頼れる人物、皇弟の執務室らしい。
私は緊張しながらもシウォンが開けた扉の奥を見ていた。
「失礼します。皇弟、今街は――」
「カイン!?」
カインだ。
目の前にカインが立っている。
あの白い髭に高い背、おまけに部屋の隅にある銀色のゲージ。その中にジーンと思わしき犬がいた。
「ちょっとフィオネ、皇弟だよ......」
私の奇行にシウォンの顔が大分引き攣っている。
しかし、間違えるはずがない。
どうしてここにカインがいるのか分からない。
「私はカインではない、スワムだ。だがよく来たなシウォン、フィオネ。待っていたぞ」
そう言って、スワムと名乗る人物はカインと同じ顔で微笑むのだった。
「“カイン”というのは私の身体を借りた精霊のことだ」
「えっ......???」
「どういうことですか?」
皇弟の説明に私とシウォンははてなマークが浮かんでいた。
説明をまとめると、精霊というのは特殊な力を使って聖なる者を助け、国の危機を聖なる者と一緒に救ってきたいわば、神に近いような存在らしい。
「カインは私の姿になって聖なる者を探していた。分かるかね?フィオネ、それが君だよ」
(えっ?今なんて――)
「「えっ?」」
その瞬間、二人して聞き返すことしかできない。
「どういうことですか? フィオネが聖女だなんて......」
とんでもない事実をあっさり告げられてパニックになる。
(スラムで生まれた私がどうして聖女なの......?)
「フィオネ、あの指輪はまだ持ってるね?」
「あっ、これ」
「この指輪を持っている間、何か不思議なことは起こらなかったか?」
そう言って真っ直ぐに私を見据えるスワム。
その問いに私は心当たりがあった。
「! まさか......馬車の時も、城下町に着いた時も、この前のひったくりの時も.......!この指輪を見た人が急に操られたようになって――」
そこまで言うと皇弟は静かに頷いた。
つまり、この指輪は――
「ああ、正確に言うとその指輪は聖女だけが使える物なんだ。まだ力が十分じゃない聖女に精霊が短時間だけ力を貸して助けるツールだ。御者や老婆、ひったくり犯のように聖女に危害を加える者を操ったり、攻撃を無効化するんだ」
「カイっ......ごほんっ。あの、皇弟はどうして精霊のことを知ってるのですか?」
慌てて敬語を使って尋ねると彼は悩ましげに切り出した。
「精霊はこの国の危機の度に現れる。実は精霊には去年出会ったんだ。私にはなんの特殊な力もないが、精霊がこの危機を救うために力を貸してほしいと言われた。ジークのやり方は気に食わないからな。こうして身体を貸していた」
(そういうことか......)
身体を貸していたと聞いてなるほどと思う。それなら同じ顔でも納得だ。それにしても――
「えっと、この国の危機とは?」
「今、ジークがトーユ国を筆頭にその協定を結んだ国と対立しているのは知ってるね?実はその全ての国が手を組んで宣戦布告してきたんだ」
「じゃあ本当に......」
戦争が始まったんだ。
うっすらとしか自覚していなかった事実がはっきりと現実だと実感する。
その瞬間、私の手足が勝手にガタガタと震え出した。
「フィオネ! 大丈夫?」
「フィオネ、落ち着きなさい。大丈夫だ、私が何のためにシウォンを十年以上匿ったと思っている」
スワムはそう言いながらゲージの鍵を開ける。
するとジーンが勢いよく、私に向かって突進してきた。
肌にふわふわの白い毛が当たる。
ジーンの温もりにいつの間にか私の震えは治まっていた。
「私達で交渉をするんだ、平和協定を結べるように。そのためにシウォン、フィオネ、君たちに力を貸してほしい」
「それはもちろん、僕の悲願ですから」
それは今まで見たことのないシウォンの覚悟を決めた返事だった。
(そうか、彼はもうずっと前から――)
ごくり、と唾を飲む。
彼らのために私もここで覚悟を決めなければ。
「あの、私で良ければ......何ができるか分からないですけど」
「ふふ、ありがとう。では、早速行こうか」
そうして私達はジーク皇子がいる、本城へ向かうことにした。
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