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二章

24.指輪の文字

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「っていうことがあってさ。ラッキーだったって言う話」
「......危ないな」
「まあ、そのあとすぐ自警団が来てくれたから大丈夫だよ。それに食材も貰っちゃったし明日はシチュー作るらしいよ」
「......」

 先日のひったくり事件をシウォンに話すと彼は少し暗い顔になってしまった。
 治安の悪い場所に慣れているのでもしかしたら話すテンションを間違えてしまったかもしれない。

「どうかした? 大丈夫だよ。ここにはひったくりは来ないよ」
「そうじゃなくてっ! はあー......」

 そこまで言いかけて彼は深いため息をつく。どうしたのだろうか?

「僕はフィオネが心配なの。その時は運が良かっただけでひったくり犯が勝手に転ばなかったらどうなってたか」

「そっ、そっか。そうだよね......」

 シウォンが私を心配してくれている。その事実を知って私はなんだかちょっと嬉しく思った。
 今までそういうことを言ってくれる人はいなかったから。

「シウォン実はね、伝えてなかったんだけどひったくり犯は勝手に転んだんじゃなくて......その、この指輪のせいで転んだんじゃないかなって思うの」

 私はあの時ポケットに入っていた指輪をシウォンに見せた。

「これを持ち始めてから何度も不思議なことが起こるの......。変なこと言ってると思うけど、本当なの」

 私はシウォンを真っ直ぐ見つめた。
 指輪のことは誰にも言うつもりはなかったが、彼なら信じてくれるかもしれない。

「ひったくり犯が転ぶ前、この指輪が光ったの。でもどういうことなのか分からなくて――」

「我、聖なる者を導く者なり」

「え?」

 そう書いてあるよ、とシウォンは指輪の内側に彫ってある文字を指した。
 指摘されるまで気づかなかった。なにこれ?

「僕が読んだ本にそういう内容があったような気がする。ちょっと待ってて」

 するとシウォンは書庫から一冊の古い本を持ってきた。

「あったよ。確かこの辺に......約六百年前、国同士の大戦争を一人の“聖なる者”が治めた。聖なる者はこの戦いにより力を失い、長い眠りについた――その指輪の聖なる者ってこの大戦争を治めた人物のことじゃない?」

 急に難しい言葉が流れて頭がはてなで埋めつくされる。

「??? そうなんだ......? じゃあ聖なる者を導く者って誰?」
「この指輪は誰から貰ったの?」
「”カイン”って人。私、その人に紹介されてここに来たの。でもヘリンはカインを知らないって言ってて......」

 (そういえばカイン、あれから何も手がかりがつかめてないな)

「カインか......僕も知らないな。何にせよその人に聞いてみたら何か分かるかもしれないね」
「シウォンは今の私の話信じてくれるの?」
「うん、信じるよ。フィオネが嘘つくわけない」

「シウォン......ありがとう」

 彼に話して良かった。
 こんなこと普通に言っても信じてもらえるか分からないのに。

(あれ、なんか私今――)

 私はその時、自分の中で初めて彼に対していつもと違う感情を持っていることを自覚するのだった。
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