上 下
10 / 50
一章

10. 深夜の実験

しおりを挟む
 皆が寝静まった時間、私は深夜の厨房にこっそり忍び込んでいた。

 結局昨日は皿洗いと夕食の仕込み(野菜の皮を剥く)を手伝った。

 ぐぬぬ......。せっかく料理を教えて貰えると思ったのにライアンはとりあえず一ヶ月は見習いだなーっと笑って言っていた。

 私としては作る気満々だったが、人手も少ないし、最初は雑用しか任されないだろう。

 こうなったら自分でこっそり練習するしかない。
 私は暗闇の中で最小限の明かりで照らしつつ、まな板と包丁を用意した。

 (えーっと......何を作ろう)

 そういえばここに初めて来た時のトマトスープ美味しかったな。

 トマト、玉ねぎ、きのこ、あとなんだっけ?
 ああ、人参か。

 私は昼間盗み見た食材の配置を思い出し、各位置から少しだけ拝借した。

 まず、玉ねぎと人参を水で洗い、皮を剥く。
 昼間に練習したときは手を切りそうで怖かったが慎重にやれば大丈夫なはず。問題は――

 この、包丁だ。ライアンが切ってるのを見た感じはこう?見よう見まねで玉ねぎを切ってみる。

 サクッ。サクッ。

「切れた......」

 ぎこちないながらも半分程切っていくと、何故か急に鼻がムズムズし始めた。

 風邪でもひいたのだろうか?
 あれ、なんか目もしょぼしょぼしてきた。自然と涙が出てくる。

「うう、なんだこれ」

 泣きながら玉ねぎを全部切り終えた頃には、私は涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっていた。

(うええ、鼻水が止まんないんだけど!)

 そういえばライアンが玉ねぎを切る時に大きい眼鏡みたいなの付けてたかも。今度はあれを借りよう。

 食材を切り終えた私は鍋に水を入れて、火をかけた。
 スープなんて具を切ってお湯にぶち込めばそれで作れるし、きっと簡単なはず!

 お湯に全ての材料を入れ、そのままグツグツと煮込む。そしたら今度は味付けだ。

 コンロの近くには調味料の瓶が沢山並んでいる。

 よし、味付けは......とりあえず、塩かな?
 なんとなくフィーリングで近くにあった塩らしき瓶を手に取る。

「ん?」

 次の瞬間、白い粉の瓶がもう一つあることに気づいた。

(え、なにこれ。どっちだ?)

 よく見ると瓶にはそれぞれ文字が書かれたラベルが貼ってある。きっとここにそれぞれ名称があるはずだが、私は字が読めない......。

(じゃあ適当にこっちで――あっ、なんかこれ美味しそう。分かんないけど追加で入れちゃえ。あとこの赤いやつも......ってあれ?入れ過ぎちゃった。まあ大丈夫でしょ。最後にこれとこれも入れて、これでよしっと)

 そしてついに私のトマトスープが完成した。
 椅子に座り、早速皿に盛り付ける。

(うっ、すごい刺激臭......。この赤いやつ入れ過ぎちゃったかな?)

「いただきます......」

 私は意をけしてスープを一口食べた。

 ぱくっ、もぐもぐ。

 口の中に広がる刺激臭。と同時に舌にピリピリとした痛みが――

「うっ! げほっ、ごほっ」

 体温が一気に上がり、汗が吹き出す。心臓が脈を早くし、耳鳴りが止まらない。
 辛さと苦味が先に来たと思ったら、後味がめちゃくちゃ甘く、トマトの風味が消し飛んでいる。

 あまりの衝撃的な味に思考が停止し、私は悶え苦しんだ。

 急いで流し台の蛇口を捻り、水を飲む。

「はぁー、はぁ」

(ま、ま、不味すぎる!!!)

 結局そのあと私は三口ほど頑張ってスープを飲んだ後、泣く泣くリタイアすることに決めたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...