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一章

9. 料理人フィオネ?

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「ヘリ~ン、草むしり飽きた。別の仕事......」

 ここに来て三週間、すっかり草むしりに飽きた私は横にいるつり目の少女に悪態をついていた。

 なんといってもこの草むしりが退屈すぎる。
 身体を動かすのは好きだが、単純作業は苦手である。

「あんたは身体も小さいし、重いものも持てないから駄目。それにこの前掃除させたら壺を割ったの忘れてないわよね?」

 ギクッ。

 そうだった。なんでもあの壺は私たちが五年働いても買えないくらい高いとかなんとか。
 新人だからなんとか許せて貰えたけど次は無いって。

「あんたが出来そうなことねー......」

 ヘリンは考えながら柱に肩肘ついてサボっている。
 次の瞬間、渡り廊下の奥から足音が聞こえた。

「ヘリン!厨房に人手が足りないんだ。来てくれ」

 そう言って声をかけてきたのはコック帽を被ったとある少年。おそらく厨房担当の人だろう。

「あら、分かったわ。じゃあフィオネ、またお昼に」

 そう言って彼女は居なくなり、私はぽつんと一人草刈り作業に戻ってしまった。

(ちぇっ。いいなーヘリン、それにしても厨房か。料理なんてしたことないけどなんか面白そう)

 ここに来てから毎日美味しい食事を貰っている。
 以前感じていた空腹と頭痛は無くなったし、常に曇っていた視界は霧が晴れたようにスッキリしている。
 硬い床で寝ていたときよりぐっすり寝れてるし、すごく良いんだけど......。

 たまにめちゃくちゃ不味いご飯がある。あれが無ければもっと最高なのに。

「......」

 私は指をパチンと鳴らす。良いこと思いついた。

(――自分が料理人になれば好きな物だけでまかないを作れるのでは......?)

 天才すぎるアイデアに我ながら恐ろしく思う。早速お昼にヘリンに交渉しに行こう!

 そうして太陽が真上に登った時、午前業務終了のチャイムが鳴る。私は急いで食堂へ向かった。

「あんたが? 料理人~? フッ」

 ヘリンが鶏肉にフォークを刺しながら笑ってきた。
まるでお前にできるはずがないとでも言いたげだ。ぐぬぬ。

「フィオネ、料理に興味あるのか?」

 その瞬間、突然会話を遮ってきたのは料理長のライアンだった。
 彼は私たちのまかないを作ってくれている最高の料理人である。

「それなら、午後は食堂を手伝ってくれ。第一王子の遠征の準備でここの人手が足りないんだ」

 ライアンの突然の提案に私は目を丸くする。

「だから人手が少ないのね、本城は大変そうだわ」
「ああ、しばらくは俺たちだけで離れを回すことになる。フィオネ、大丈夫か?」

 まさかこんなに簡単に仕事を貰えるとは。私はふたつ返事でライアンの提案を受け入れるのだった。
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