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第一章
17.魔法動物
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「はあ、遅くなってごめんなさい」
「お、おう」
急いで飛び乗った船の上でそう謝ると、彼はなぜかかなり驚いた顔をしていた。
(あれ、もしかして私の服、なんか変......?)
あれから大通りで新しい服を買い、飲み水を買った私。
母の呪縛から逃れた今なら一応好きな服を選べるのだが、未だに他人から見て、おかしいかどうかは気になってしまう。
(ど、どうしよう。もし変だって言われたら......)
内心そんな風にドキドキしていると、リックが突然咳払いをした。
「っ、ごほんっ」
「っ!」
しかし私の不安とは裏腹にそのまま彼は「じゃ、行こう」と言わんばかりに船内に親指を向けてそれ以上何も言わなかった。
船首に移動した私たちの目に入ったのはブルーオパールのような透き通った海。
こんな状況じゃなければビーチで海水浴でも......なんて考えてしまう。
フェープは山岳地帯と呼ばれる所にあり、ここシンピゴールからは北に約三時間かかる。
つまり、これから少し長い船の旅が始まるということ。
「で? どういう作戦なんだ?」
そう言いながらドカッと船首の長椅子に座るリック。
私は周囲に人があまりいないことを確認し、簡単に説明した。
まずこの作戦の目標は”とある生き物”を殺すこと。
そのためにはその生き物が収容されている施設に侵入する必要がある。
「施設に入るのは私だけ。貴方には逃走用の船と死体を入れる大きなかごを用意して欲しいの」
「......はあ、それはいいけど。アンタはどうやって施設に入るんだ?」
まさか関係者なのか?と続ける彼に首を横に振る。
関係者ではないが前世で出入りした記憶があるから、なんて口が裂けても言えないだろう。
「侵入方法に関しては企業秘密よ。作戦決行は今日の日づけが変わるころ、私が標的を捕まえて外に出たら馬車まで一緒に運んで欲しいの」
そう伝えるとリックは少し黙った末に、了解と短く返答した。
(まあ、こんな説明で納得はできないわよね......)
ふと訪れる沈黙に少しだけ気まずく思う。
しかし彼はこの計画のために一時的に協力しているだけの敵。なんでも話すような仲ではないのだからこれでいい。
「......なあ、そういやアンタはなんで魔法動物のことを知ってるんだ?」
「っ!」
ふと、思わぬ質問されて冷や汗が出る。
魔法動物。
その歴史は五十年と浅く、ミデリーではその存在はあまり浸透していない。
今まで見つかった魔法動物は私たちが目的とする生き物を含めて三体。
彼らは他の動物にはない不思議な力を持ち、ほとんどが厄災の神だと恐れられている存在だ。
一体目は姿が透明で、そのまま行方不明。
二体目は川で死んでいるのを発見された。
そして三体目が我々が目的としている生き物。その名をソリドドラゴンという。
全身紫がかった黒色で、鳥のような羽のある翼と硬い外皮を持つ外見からそう名前がついた魔法動物だ。
発見は一ヶ月前、場所は山岳地帯。
変わった鳴き声に気づいたフェープの住人がその姿を見つけた。要請を受けた騎士団が捕獲に成功し、今は古い廃墟を改築した隔離施設に収容されている。
そしてドラゴンのある厄介な性質のため、国は扱いに困っている状態だった。
(これも前世の記憶から分かるけど、もちろん話すわけにはいかないわよね......)
「それも企業秘密ね、別に貴方に教える義理はないわ」
内心動揺しながらもそう返すとリックはつれないねえー、と大きなため息を吐いた。
「お、おう」
急いで飛び乗った船の上でそう謝ると、彼はなぜかかなり驚いた顔をしていた。
(あれ、もしかして私の服、なんか変......?)
あれから大通りで新しい服を買い、飲み水を買った私。
母の呪縛から逃れた今なら一応好きな服を選べるのだが、未だに他人から見て、おかしいかどうかは気になってしまう。
(ど、どうしよう。もし変だって言われたら......)
内心そんな風にドキドキしていると、リックが突然咳払いをした。
「っ、ごほんっ」
「っ!」
しかし私の不安とは裏腹にそのまま彼は「じゃ、行こう」と言わんばかりに船内に親指を向けてそれ以上何も言わなかった。
船首に移動した私たちの目に入ったのはブルーオパールのような透き通った海。
こんな状況じゃなければビーチで海水浴でも......なんて考えてしまう。
フェープは山岳地帯と呼ばれる所にあり、ここシンピゴールからは北に約三時間かかる。
つまり、これから少し長い船の旅が始まるということ。
「で? どういう作戦なんだ?」
そう言いながらドカッと船首の長椅子に座るリック。
私は周囲に人があまりいないことを確認し、簡単に説明した。
まずこの作戦の目標は”とある生き物”を殺すこと。
そのためにはその生き物が収容されている施設に侵入する必要がある。
「施設に入るのは私だけ。貴方には逃走用の船と死体を入れる大きなかごを用意して欲しいの」
「......はあ、それはいいけど。アンタはどうやって施設に入るんだ?」
まさか関係者なのか?と続ける彼に首を横に振る。
関係者ではないが前世で出入りした記憶があるから、なんて口が裂けても言えないだろう。
「侵入方法に関しては企業秘密よ。作戦決行は今日の日づけが変わるころ、私が標的を捕まえて外に出たら馬車まで一緒に運んで欲しいの」
そう伝えるとリックは少し黙った末に、了解と短く返答した。
(まあ、こんな説明で納得はできないわよね......)
ふと訪れる沈黙に少しだけ気まずく思う。
しかし彼はこの計画のために一時的に協力しているだけの敵。なんでも話すような仲ではないのだからこれでいい。
「......なあ、そういやアンタはなんで魔法動物のことを知ってるんだ?」
「っ!」
ふと、思わぬ質問されて冷や汗が出る。
魔法動物。
その歴史は五十年と浅く、ミデリーではその存在はあまり浸透していない。
今まで見つかった魔法動物は私たちが目的とする生き物を含めて三体。
彼らは他の動物にはない不思議な力を持ち、ほとんどが厄災の神だと恐れられている存在だ。
一体目は姿が透明で、そのまま行方不明。
二体目は川で死んでいるのを発見された。
そして三体目が我々が目的としている生き物。その名をソリドドラゴンという。
全身紫がかった黒色で、鳥のような羽のある翼と硬い外皮を持つ外見からそう名前がついた魔法動物だ。
発見は一ヶ月前、場所は山岳地帯。
変わった鳴き声に気づいたフェープの住人がその姿を見つけた。要請を受けた騎士団が捕獲に成功し、今は古い廃墟を改築した隔離施設に収容されている。
そしてドラゴンのある厄介な性質のため、国は扱いに困っている状態だった。
(これも前世の記憶から分かるけど、もちろん話すわけにはいかないわよね......)
「それも企業秘密ね、別に貴方に教える義理はないわ」
内心動揺しながらもそう返すとリックはつれないねえー、と大きなため息を吐いた。
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