19 / 21
第一章
16.賭け
しおりを挟む
急いで店を出るが外にリックと思わしき人影は見当たらない。
でもまだそんな遠くには行っていないはず。
私は路地の更に奥に向かって走るとそこの曲がり角にさっきの後ろ姿を見つける。
(いた!)
「ね、ねえ貴方!」
思わずそう声をかけると彼はすぐに立ち止まった。
そして私の姿を確認すると少し驚いたのか、茶色い眉毛がピクリと動く。
「? なんだ、まだ何か用かお嬢さん」
「あ、えーっと......」
やばい、慌てて追いかけてきたからなんて言うべきか考えてなかったわ。
でも前世のことなんて口が裂けても言えないし、なんて言えば......。
しかし声に出す言葉を考えているうちに口ごもる私を不審に思ったのか、リックは段々表情が曇っていく。
「? なんださっきの金額に不満があるのか? ああ、それとも――」
(え?)
その瞬間、ゆらりと二人の影が重なった。
「俺と遊びたいって言うんなら喜んで付き合うぜ、カワイイお嬢さん」
そう言って唇が触れそうな距離まで近づく彼に私は心臓がヒュッと縮む。
リックの右手はまるで逃がさないとでも言うように壁について私の横を通せんぼしていた。
(ううっ、なんなのこいつ......!? でも、ここで怯んだら絶対になめられるわ......)
私はぎゅっと手のひらに爪を立てて気合いで目の前の男を睨み返す。
そしてお互いに見つめあったまま、彼にこう言った。
「お......お金になることがあるの」
「! へえ、じゃあアンタ俺が誰なのか知ってたんだな」
そう言った途端、急に変化した彼の二人称に緊張が走る。
いくらあの時と違うとはいえ、目の前にいるのは私と私の愛する人を殺した殺人鬼。
正直言って怖いと思わない方が無理な話だった。
「あ、貴方はお金になることならなんでもするって聞いたわ。だから協力して欲しいの」
「......ふぅん、アンタにそんな話があるとは思えねーけどな」
どう見たって俺と同業者には見えねえし、とリックは鼻で笑った。
「――フェープの”隔離施設”」
「っ!」
そう口にした瞬間、リックはすぐに壁から手を離した。
そのままごくりと唾を飲む彼の目は明らかに先ほどとは変わっている。
「貴方にお願いしたいのはあの施設で守られているものを盗むことよ。どう? やる? 時間がないのよ、今決めて」
「......報酬は?」
「そうね、ひづめと羽は譲るわ。悪いけどあの子は殺すつもりなの」
殺すと口に出した瞬間、やっぱりその言葉が怖いと感じる。それでも一応、覚悟は決まっているつもりだ。
「殺す? あの魔法動物を......? ふぅん、まあ良いぜ。ちょっと面白そうだしな」
リックは一瞬訝しげな顔をしたが、どうやらこの話に興味が出たらしい。
よし、それなら気が変わらないうちに準備をしなければ。
「じゃあ、貴方は先にフェープ行きの船に乗って。私はちょっと用事を済ませてから行くから」
そう言うと、私は路地を全速力で逆走した。
「えっ? ちょっ、おいっ!」
そうして船で待っていたリックが目にしたのは先ほどまでのふわふわのピンク色に包まれた箱入り娘......ではなく、大きいトランクケースを抱えためちゃくちゃ質素な服の女性だった。
でもまだそんな遠くには行っていないはず。
私は路地の更に奥に向かって走るとそこの曲がり角にさっきの後ろ姿を見つける。
(いた!)
「ね、ねえ貴方!」
思わずそう声をかけると彼はすぐに立ち止まった。
そして私の姿を確認すると少し驚いたのか、茶色い眉毛がピクリと動く。
「? なんだ、まだ何か用かお嬢さん」
「あ、えーっと......」
やばい、慌てて追いかけてきたからなんて言うべきか考えてなかったわ。
でも前世のことなんて口が裂けても言えないし、なんて言えば......。
しかし声に出す言葉を考えているうちに口ごもる私を不審に思ったのか、リックは段々表情が曇っていく。
「? なんださっきの金額に不満があるのか? ああ、それとも――」
(え?)
その瞬間、ゆらりと二人の影が重なった。
「俺と遊びたいって言うんなら喜んで付き合うぜ、カワイイお嬢さん」
そう言って唇が触れそうな距離まで近づく彼に私は心臓がヒュッと縮む。
リックの右手はまるで逃がさないとでも言うように壁について私の横を通せんぼしていた。
(ううっ、なんなのこいつ......!? でも、ここで怯んだら絶対になめられるわ......)
私はぎゅっと手のひらに爪を立てて気合いで目の前の男を睨み返す。
そしてお互いに見つめあったまま、彼にこう言った。
「お......お金になることがあるの」
「! へえ、じゃあアンタ俺が誰なのか知ってたんだな」
そう言った途端、急に変化した彼の二人称に緊張が走る。
いくらあの時と違うとはいえ、目の前にいるのは私と私の愛する人を殺した殺人鬼。
正直言って怖いと思わない方が無理な話だった。
「あ、貴方はお金になることならなんでもするって聞いたわ。だから協力して欲しいの」
「......ふぅん、アンタにそんな話があるとは思えねーけどな」
どう見たって俺と同業者には見えねえし、とリックは鼻で笑った。
「――フェープの”隔離施設”」
「っ!」
そう口にした瞬間、リックはすぐに壁から手を離した。
そのままごくりと唾を飲む彼の目は明らかに先ほどとは変わっている。
「貴方にお願いしたいのはあの施設で守られているものを盗むことよ。どう? やる? 時間がないのよ、今決めて」
「......報酬は?」
「そうね、ひづめと羽は譲るわ。悪いけどあの子は殺すつもりなの」
殺すと口に出した瞬間、やっぱりその言葉が怖いと感じる。それでも一応、覚悟は決まっているつもりだ。
「殺す? あの魔法動物を......? ふぅん、まあ良いぜ。ちょっと面白そうだしな」
リックは一瞬訝しげな顔をしたが、どうやらこの話に興味が出たらしい。
よし、それなら気が変わらないうちに準備をしなければ。
「じゃあ、貴方は先にフェープ行きの船に乗って。私はちょっと用事を済ませてから行くから」
そう言うと、私は路地を全速力で逆走した。
「えっ? ちょっ、おいっ!」
そうして船で待っていたリックが目にしたのは先ほどまでのふわふわのピンク色に包まれた箱入り娘......ではなく、大きいトランクケースを抱えためちゃくちゃ質素な服の女性だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる