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第一章

15.殺人鬼リック

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 その瞬間、思わぬ人物との再会に私は顔を歪める。

 伸ばしきった金髪に、日焼けした褐色の肌。
 その涼し気な金色の瞳の奥には隠しきれないうさんくささが漂っている。
 歳は私よりも上......二十代後半に差しかかるかどうか、くらいだろうか。とにかく何が何でも関わってはいけないオーラがすごい。

「このエメラルドはそんなに安くないぜ。俺なら金貨七枚は出せる。そっちのパールは金貨一枚でどうだ?」

(な、ななまいですって?)

 衝撃的な金額提示に一瞬倒れそうになる私。
 しかし突然交渉に割りこんできた人物に店主が黙っているはずもなかった。

「おい、小僧! 一体なんの真似だ!」

 すると金髪の男は悪びれもせずに乾いた笑いを浮かべ、こう言い放つのだった。

「ふっ、ここの店主は無知な人間から金を騙しとってる。俺にしといた方がいいと思うぞ」

「なっ......!?」

 図星をつかれた店主はあわてて弁明しようとカウンターから身を乗り出す。
 カウンターに乗りあげるおじさんの腹肉にちょっと笑いそうになったものの、なんとか堪えた私を誰か褒めてほしい。

「お、お嬢さん。こいつはやめた方がいい! 何せこいつはあの大悪党のリックです! あなたもきっとこの後利用されるだけだ」

 その瞬間、おじさんが言った“リック”という名前に分かっていても動揺する。
 彼の正体はいわゆる金のためならなんでもする極悪人。つまり、殺し屋だった。

 その毒牙にかかった人物が今、ここにいる。
 それは七回目の人生の私だった。
 彼は私の母に頼まれ、迷いの森にああして火を着けたのだ。
 思い出すとはらわたが煮えくり返りそうになる。正直言って顔も見たくないし、同じ空間の空気も吸いたくない。

「決めるのはお嬢さんだ。さあ、どうする?」

(こんなやつに売るのは気が引けない。でも金貨七枚だなんて......ぐぬぬぬ)









「まいどありー」 

 かちゃり。
 と、リックの手から代金を受け取る。

(う、売ってしまった......)

 ずしんと手のひらにのしかかる金貨八枚が、罪悪感からか異常に重く感じる。
 しかしこれも全てこの後の計画のため。移動費は多いに越したことはない。そう、決して欲に目がくらんだとかそういうことではないのだ。

 そうして必死に自分を正当化しているうちにリックは姿を消していた。
 彼のことだから何か企んでるのかと思ったけど普通にあの宝石を買い取りたかったらしい。

 さて、お金を手に入れたので次は......。
 そこまで考えてふと私の頭に一つの選択が浮かびあがる。

 これからやることは、私一人では難しいこと。
 シンピゴールに向かう道中で、出来れば協力してくれる人がいたら、なんてそんな風に考えていた。

 それにここで宿敵となる可能性のある人物を野放しにしておくよりも、近くで監視したほうがむしろ安全かもしれない。

(嘘でしょ私......。まさか、いやでも......)

 数秒頭を悩ませた末、何を思ったのか私は店を飛び出していた。
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