16 / 21
第一章
13.剣を構えろ
しおりを挟む
ピリピリした殺気を肌で感じる。
ふと城壁の上を見ると相棒はもうどこかに行ってしまったようだった。
目前の老人の名前はセバスチャン。
長い白髪を後ろで一つにまとめ、その少しユーモアがある髭がチャームポイントだと普段から自称している。
そしてこの城に三十年仕える生真面目な執事兼、僕の教育係でもある人物だ。
「セ、セバスチャン! これは......その」
慌てて言い訳しようとするも、今まで見たことのない彼の気迫に言葉が出てこない。
いつもならすぐに罵声が飛んでくるはずなのに、今はなぜか微笑んでいるようにすら見える。
「与えられたものをこなす人だけが、褒められるとは限りません。いつの世も枠を超えて大成する者がいるからです」
「え、あの......? セバスチャン?」
すると執事は右手に持っていた”剣”をゆっくりと構えた。
(えっ、ちょ、まさか――)
「ですから貴方がどちらなのか、これで証明してください」
ガキィィン!
目の前に青い火花が散る。
とっさに前に出したこの短剣がなければ、僕は今この瞬間にも首が吹っ飛んでいたかもしれない。
「いっっっっ......」
刃が噛み合う衝撃でビリビリと手が痺れる。
あまりの本気さに面食らうも、彼がその気ならこちらもやるしかないだろう。
僕は一瞬押す力を緩めると、その反動で一気に剣を弾き返した。
キィィン!
その隙に壁づたいに平行移動し、距離を取る。
しかしそれでも執事の猛攻は止まらなかった。
キィィン!キンッ!ガキィィン!
数秒の間に何度も自分を襲う斬撃。
目で追う暇もなく、感覚だけで無理やりなんとか受け流す。
「はあっ、はあっ」
(やっぱ強いなこの人......)
セバスチャンは今はただの優秀な執事だが、昔はソードマスターとして一躍名を馳せた男でもあった。
つまり今の僕にはそんな彼の刃をかわすので精一杯なのである。
――与えられたものをこなす人だけが、褒められるとは限りません。いつの世も枠を超えて大成する者がいるからです。
ふいに脳裏に浮かぶ、彼が言った台詞。
僕は兄さんのように何でもこなすことは出来ない。
勉強や運動だって平均的だし、長所があるとすれば多少明るくて社交的なところぐらいだ。
でももし、自分でどちらになるかを選べるのなら――
「大枠でも太枠でも、なんでも超えてやる!」
「っ!」
ガキィィン!
渾身の一撃をセバスチャンにぶつける。
兄のようになれなくても僕にはきっと僕だけの道がある!
「甘い!」
「うわっ!?」
しかしリーチの短い僕の剣ではいささか踏み込みが甘かったらしく、すぐに剣を弾かれた僕は後方に吹っ飛んでしまった。
「ぐっ......このっ!」
それでも急いで立ち上がると、ほんのちょっとだけセバスチャンの呼吸が乱れているのに気づいた。
「はあ、はあ。セバスチャン、実は意外ともう限界なんじゃないの?」
「はあ、はあ......。ふ、貴方がそう思い込みたいだけでしょう」
お互いに切りかかるタイミングを伺うような、そんな静寂。
次の一手。お互いが同時に足を踏み込んだ瞬間、けたたましい怒号が僕たちの動きを止めた。
「やめんかあああ! 今はそんなことをしてる場合ではない!」
(へ?)
「む、陛下......!?」
その瞬間、僕とセバスチャンはお互いにぱちくりと目を見合せた。
ふと城壁の上を見ると相棒はもうどこかに行ってしまったようだった。
目前の老人の名前はセバスチャン。
長い白髪を後ろで一つにまとめ、その少しユーモアがある髭がチャームポイントだと普段から自称している。
そしてこの城に三十年仕える生真面目な執事兼、僕の教育係でもある人物だ。
「セ、セバスチャン! これは......その」
慌てて言い訳しようとするも、今まで見たことのない彼の気迫に言葉が出てこない。
いつもならすぐに罵声が飛んでくるはずなのに、今はなぜか微笑んでいるようにすら見える。
「与えられたものをこなす人だけが、褒められるとは限りません。いつの世も枠を超えて大成する者がいるからです」
「え、あの......? セバスチャン?」
すると執事は右手に持っていた”剣”をゆっくりと構えた。
(えっ、ちょ、まさか――)
「ですから貴方がどちらなのか、これで証明してください」
ガキィィン!
目の前に青い火花が散る。
とっさに前に出したこの短剣がなければ、僕は今この瞬間にも首が吹っ飛んでいたかもしれない。
「いっっっっ......」
刃が噛み合う衝撃でビリビリと手が痺れる。
あまりの本気さに面食らうも、彼がその気ならこちらもやるしかないだろう。
僕は一瞬押す力を緩めると、その反動で一気に剣を弾き返した。
キィィン!
その隙に壁づたいに平行移動し、距離を取る。
しかしそれでも執事の猛攻は止まらなかった。
キィィン!キンッ!ガキィィン!
数秒の間に何度も自分を襲う斬撃。
目で追う暇もなく、感覚だけで無理やりなんとか受け流す。
「はあっ、はあっ」
(やっぱ強いなこの人......)
セバスチャンは今はただの優秀な執事だが、昔はソードマスターとして一躍名を馳せた男でもあった。
つまり今の僕にはそんな彼の刃をかわすので精一杯なのである。
――与えられたものをこなす人だけが、褒められるとは限りません。いつの世も枠を超えて大成する者がいるからです。
ふいに脳裏に浮かぶ、彼が言った台詞。
僕は兄さんのように何でもこなすことは出来ない。
勉強や運動だって平均的だし、長所があるとすれば多少明るくて社交的なところぐらいだ。
でももし、自分でどちらになるかを選べるのなら――
「大枠でも太枠でも、なんでも超えてやる!」
「っ!」
ガキィィン!
渾身の一撃をセバスチャンにぶつける。
兄のようになれなくても僕にはきっと僕だけの道がある!
「甘い!」
「うわっ!?」
しかしリーチの短い僕の剣ではいささか踏み込みが甘かったらしく、すぐに剣を弾かれた僕は後方に吹っ飛んでしまった。
「ぐっ......このっ!」
それでも急いで立ち上がると、ほんのちょっとだけセバスチャンの呼吸が乱れているのに気づいた。
「はあ、はあ。セバスチャン、実は意外ともう限界なんじゃないの?」
「はあ、はあ......。ふ、貴方がそう思い込みたいだけでしょう」
お互いに切りかかるタイミングを伺うような、そんな静寂。
次の一手。お互いが同時に足を踏み込んだ瞬間、けたたましい怒号が僕たちの動きを止めた。
「やめんかあああ! 今はそんなことをしてる場合ではない!」
(へ?)
「む、陛下......!?」
その瞬間、僕とセバスチャンはお互いにぱちくりと目を見合せた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる