君に嫌われるまで死ねない

月址さも

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第一章

11.別れ

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 まずい。非常にまずい。
 とっさに頭に浮かびあがるこれから起こるであろう地獄。

(このままじゃ、父上とセバスチャンに死ぬほど怒られる......!)

 というか多分、怒られるだけではすまない。
 最低でも謹慎きんしん三ヶ月は確定だろう。
 うわあと床で なげいているとそれを見たシルビアが哀れに思ったのか、こう言った。

「貴方本当に大丈夫? まだ具合悪いならベクターさんに病院に連れて行ってもらったら?」

 彼女の心配に僕は力なく首を振る。
 病院なんて、とんでもない。それよりも僕は早く家に帰らないといけないのだ。
 しかし、ここから帰るには足がない。昨日の魔女の話だと馬車はどうやら一ヶ月に一度しか出ないらしかった。

(まあ、昨日はノリで来ちゃったからな......)

 軽率さに反省しつつ、ここでグズグズしている時間はない。
 僕は厚かましいと思いながらもその旨をシルビアに説明する。すると一つの提案が彼女から返ってきた。

「......ふぅん、事情は分かったわ。とりあえずベクターさんに送ってもらえるか頼んでみましょう。もし大丈夫だったら彼にはちゃんとお礼を言うのよ」

「あ、ありがとうごさいます......!」

 そうして彼女に連れてこられたベクターという老人を見て、僕は彼が昨日の御者だということに気づいた。

(昨日も今日も......。はあ、この人は僕の一生の恩人だな)

 その後、事情を聞いた彼が僕を馬車で王都まで送ってくれることになった。
 急いでフユと一緒に馬車に乗り込み、一呼吸置いてからシルビアに別れを言う。

「シルビア、本当にありがとう。貴方とそのマサという人にはまた今度正式にお礼をします。私を二度も救ってくれて本当にありがとう、このご恩は一生忘れません」

 そう言うと、シルビアは一瞬ぽかんとした顔をした。

「あ、あらやだ。どうしたの、そんな急にかしこまって......。私は大したことはしていないし、お礼ならベクターさんとマサに言うのよ。それと、ここにはまたいつでも来てね」

 そう言って水色の髪の魔女は手を振る。
 彼女に別れを告げると馬車は早々に出発した。
 昨日と同じ馬車に揺られながら、僕はさっきの言葉を頭の中で反芻はんすうしてハッとする。

(あ、なんかつい王子の時のお礼言っちゃったかも)

そうして静寂が訪れた大地の上でほんのり赤く耳を染める魔女がいたことをこの時のミシェルは知る由もなかった。
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