君に嫌われるまで死ねない

月址さも

文字の大きさ
上 下
14 / 21
第一章

11.別れ

しおりを挟む
 まずい。非常にまずい。
 とっさに頭に浮かびあがるこれから起こるであろう地獄。

(このままじゃ、父上とセバスチャンに死ぬほど怒られる......!)

 というか多分、怒られるだけではすまない。
 最低でも謹慎きんしん三ヶ月は確定だろう。
 うわあと床で なげいているとそれを見たシルビアが哀れに思ったのか、こう言った。

「貴方本当に大丈夫? まだ具合悪いならベクターさんに病院に連れて行ってもらったら?」

 彼女の心配に僕は力なく首を振る。
 病院なんて、とんでもない。それよりも僕は早く家に帰らないといけないのだ。
 しかし、ここから帰るには足がない。昨日の魔女の話だと馬車はどうやら一ヶ月に一度しか出ないらしかった。

(まあ、昨日はノリで来ちゃったからな......)

 軽率さに反省しつつ、ここでグズグズしている時間はない。
 僕は厚かましいと思いながらもその旨をシルビアに説明する。すると一つの提案が彼女から返ってきた。

「......ふぅん、事情は分かったわ。とりあえずベクターさんに送ってもらえるか頼んでみましょう。もし大丈夫だったら彼にはちゃんとお礼を言うのよ」

「あ、ありがとうごさいます......!」

 そうして彼女に連れてこられたベクターという老人を見て、僕は彼が昨日の御者だということに気づいた。

(昨日も今日も......。はあ、この人は僕の一生の恩人だな)

 その後、事情を聞いた彼が僕を馬車で王都まで送ってくれることになった。
 急いでフユと一緒に馬車に乗り込み、一呼吸置いてからシルビアに別れを言う。

「シルビア、本当にありがとう。貴方とそのマサという人にはまた今度正式にお礼をします。私を二度も救ってくれて本当にありがとう、このご恩は一生忘れません」

 そう言うと、シルビアは一瞬ぽかんとした顔をした。

「あ、あらやだ。どうしたの、そんな急にかしこまって......。私は大したことはしていないし、お礼ならベクターさんとマサに言うのよ。それと、ここにはまたいつでも来てね」

 そう言って水色の髪の魔女は手を振る。
 彼女に別れを告げると馬車は早々に出発した。
 昨日と同じ馬車に揺られながら、僕はさっきの言葉を頭の中で反芻はんすうしてハッとする。

(あ、なんかつい王子の時のお礼言っちゃったかも)

そうして静寂が訪れた大地の上でほんのり赤く耳を染める魔女がいたことをこの時のミシェルは知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...