君に嫌われるまで死ねない

月址さも

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第一章

10.大事件

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 ふと、耳に入る鳥のさえずり。
 眠い目をこすりながら、なんとか目を開けようとする。しかし疲れているのかまぶたは全然開いてくれなかった。

「うぅー......」

「あら、ようやく起きたの?」

 ジェームズ?と知らない名前を頭上で呼んでくる声にちょっとだけイラッとする。
 寝起きが悪い僕はいつものように、起こしてくる使用人に「あと、五分だけ」と駄々をこねた。
 あれ。でも、こんな声の使用人いたっけ。

「ふふっ、ここは家じゃないわよ」

(......いえじゃ、ない?)

 ガバッ

 その瞬間、僕は完璧に目が覚めた。
 それと同時に今自分がやってしまった行動に羞恥心がぶわっと湧き上がる。
 視界に入る見覚えのあるレンガの家、アカシアの木で作られたカウンター。

 そして目の前に立つ、短い水色の髪の女性。
 ここはまさか......。

「な、なんで貴方がここに!?」

 反射的に疑問をぶつける。
 しかしその慌てようが面白かったのか、くすくすと笑いながら彼女は答えた。

「あら、昨日の出来事を覚えてないの?」

 そう言われて、記憶を辿る。
 えっと昨日は確か迷いの森に来て、それから――

「あれ? 僕、あの後どうなって......」

「貴方、湖で倒れたのよ」

(たお、れた?)

 そこまで言われてなんとなく記憶が蘇る。
 シルビアの話によれば、湖でうずくまる僕をたまたまそこを通りかかった魔女の一人が見つけてくれたらしい。

「マサとベクターさんには感謝してね。貴方をここまで運んでくれたんだから」

「そ、そうでしたか。それはその、すいませんでした......」

 そうにこやかに笑う彼女を見て、僕はもう恥ずかしくて目が合わせられない。
 しかし次の瞬間、そんなことを考える余裕もなくなるほど衝撃的な発言が僕を襲った。

「大丈夫よ、体調が悪い人を責めるほど私も鬼じゃないし。でもとりあえず早く帰ったほうが良いわ。貴方、一晩眠ってたから」

(え?)

 今、この人とんでもないことを口にしたような気がする。だって”一晩”って......僕、あの後朝まで寝てたってこと?
 その瞬間、羞恥心で熱くなっていた身体が一気に冷水を被ったかのように冷たくなる。
 額からは冷や汗がにじみ出て、バクバクと心臓がうるさい。

 みゃお。

「あら猫ちゃん、おはよう」

 その瞬間、昨日と同じ場所にいたフユが鳴く。
 おはようってそんなまさか、まさか――

「今、何時ですか!?」

「朝の六時よ。それがどうかした?」

 ガタンッ

 そう言われて僕は思わず長椅子から転げ落ちた。
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