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第一章
9.湖の記憶
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みゃお。
「もうフユ、勝手に動かないでよ」
ふてぶてしい猫の顔を見ながら、罪悪感に駆られる。さっきは仕方がなかったとはいえ、偽名を使ってしまった。それが彼らを騙してしまったようでちょっと心苦しい。
それにしても彼らは普通にいい人たちで良かった。
正直言って名前のイメージだけだと、怖そうな印象があったから。
でも皆人当たりが良かったし、出してくれたお茶菓子も美味しかった。今日はここに来て正解だ。
さて、これからどうしようか。
魔女に会うという目標は達成したし、日が暮れる前には帰りたいところだけど。
そう思っていた時、矢印の書かれた看板が目に入った。
(えーっとこの先、湖あり......?)
矢印の方向を見るとそれは森がある方向だった。
なんとなく行ってみたくなった僕は、フユを連れてその方向へ歩き出した。
「この森結構深そう、しるしつけて行くか」
僕はマントの中にしまっておいた短剣を取り出すと木にしるしをつけながら森の奥に進んでいった。
探索は得意だ。
なぜなら昔はよく兄と一緒に父の狩りに連れて行ってもらっていたから。
影の位置から時刻を割り出すのも、こうやって木にしるしをつけて行けば迷わないことも全部父と兄から教えてもらった。
おかげで、勉強も政治もダメな僕だけどこういうのだけは王家の誰よりも得意だった。
まあ、普通王族がこんなことする必要ないんだけどね。
しるしをつけながらしばらく歩くと木々の間から水色の地面が見える。
(あ、もしかして......)
そのまま木々の間を進むと、やっぱりだと確信した。
「フユ! ついたよ」
みゃーお。
その瞬間、嬉しそうにごろころと喉を鳴らすフユ。
僕たちの目の前には夕暮れに照らされて輝く大きな湖が広がっていた。
「......わあ、すごいな」
おそろしく綺麗だと思った。
夕暮れは徐々に沈んでいき、一秒ごとに水面に映し出される景色を変えている。
もはやそれは芸術と言っても過言ではなかった。
ざあああ、と少し肌寒い風が頬を撫でる。
その時ふと、新鮮なはずのこの景色がなぜか懐かしく感じた。
(あれ? ここ、前にも来たことが――)
「ゔっっ......!?」
その瞬間、ズキリと割れるような痛みが青年の頭に走った。それは今まで経験したことのない強い痛み。耐えられなくて、地面にうずくまる。
「なん、で......こんな時、に......」
『あ、ご――。い――かけて。っと』
(え?)
脳裏に映る、どこかの森の風景。
そこで自分と思われる人物が誰かに話しかけている。
『――の......母を――り――う、いす』
顔はぼやけていて認識出来ないが、話している相手はブロンドの髪を持つ人のようだ。
でも、こんなの知らない。
僕の記憶じゃない。だってこんな、こんな会話は今までした覚えがない。
それなのに今回の”これ”はなぜかハッキリと現実で起きた感覚があった。
頭が今にも裂けそうなくらい痛い。
気を失いそうな直前、フユではない誰かの声が僕の耳に届いた。
「貴方、大丈夫!?」
でも、その声に返答出来ずに僕は意識を手放してしまった。
「もうフユ、勝手に動かないでよ」
ふてぶてしい猫の顔を見ながら、罪悪感に駆られる。さっきは仕方がなかったとはいえ、偽名を使ってしまった。それが彼らを騙してしまったようでちょっと心苦しい。
それにしても彼らは普通にいい人たちで良かった。
正直言って名前のイメージだけだと、怖そうな印象があったから。
でも皆人当たりが良かったし、出してくれたお茶菓子も美味しかった。今日はここに来て正解だ。
さて、これからどうしようか。
魔女に会うという目標は達成したし、日が暮れる前には帰りたいところだけど。
そう思っていた時、矢印の書かれた看板が目に入った。
(えーっとこの先、湖あり......?)
矢印の方向を見るとそれは森がある方向だった。
なんとなく行ってみたくなった僕は、フユを連れてその方向へ歩き出した。
「この森結構深そう、しるしつけて行くか」
僕はマントの中にしまっておいた短剣を取り出すと木にしるしをつけながら森の奥に進んでいった。
探索は得意だ。
なぜなら昔はよく兄と一緒に父の狩りに連れて行ってもらっていたから。
影の位置から時刻を割り出すのも、こうやって木にしるしをつけて行けば迷わないことも全部父と兄から教えてもらった。
おかげで、勉強も政治もダメな僕だけどこういうのだけは王家の誰よりも得意だった。
まあ、普通王族がこんなことする必要ないんだけどね。
しるしをつけながらしばらく歩くと木々の間から水色の地面が見える。
(あ、もしかして......)
そのまま木々の間を進むと、やっぱりだと確信した。
「フユ! ついたよ」
みゃーお。
その瞬間、嬉しそうにごろころと喉を鳴らすフユ。
僕たちの目の前には夕暮れに照らされて輝く大きな湖が広がっていた。
「......わあ、すごいな」
おそろしく綺麗だと思った。
夕暮れは徐々に沈んでいき、一秒ごとに水面に映し出される景色を変えている。
もはやそれは芸術と言っても過言ではなかった。
ざあああ、と少し肌寒い風が頬を撫でる。
その時ふと、新鮮なはずのこの景色がなぜか懐かしく感じた。
(あれ? ここ、前にも来たことが――)
「ゔっっ......!?」
その瞬間、ズキリと割れるような痛みが青年の頭に走った。それは今まで経験したことのない強い痛み。耐えられなくて、地面にうずくまる。
「なん、で......こんな時、に......」
『あ、ご――。い――かけて。っと』
(え?)
脳裏に映る、どこかの森の風景。
そこで自分と思われる人物が誰かに話しかけている。
『――の......母を――り――う、いす』
顔はぼやけていて認識出来ないが、話している相手はブロンドの髪を持つ人のようだ。
でも、こんなの知らない。
僕の記憶じゃない。だってこんな、こんな会話は今までした覚えがない。
それなのに今回の”これ”はなぜかハッキリと現実で起きた感覚があった。
頭が今にも裂けそうなくらい痛い。
気を失いそうな直前、フユではない誰かの声が僕の耳に届いた。
「貴方、大丈夫!?」
でも、その声に返答出来ずに僕は意識を手放してしまった。
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