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第一章
2.目覚める
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◇
春の穏やかな木漏れ日と台所でトントン、と何かを包丁で切る音で目が覚める。
力なく開いたその瞼で部屋の天井を見た時、ああ、また死んでしまったのかとそう落胆した。
私の名前はアリリ・ロベール。
七回に渡る転生を繰り返した女だ。
理由は分からないがこのループは私が死んだら強制的にこの日の朝に戻ってしまう。
一度目は喜んだ。神がまた幸せになるチャンスをくれたのだと。でも殺されて死んだ。
二度目は驚いた。
これは自分のために起きている現象ではないと悟ったから。それでもなんとか前世の記憶を使って頑張った。でも殺された。
三度目からは疲れていた。
三度も見せられた愛する人の”死”。四度目があると思えば恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
私は自殺した。
四度目はなぜか少し状況が変わっていた。
愛する人には出会わなかったけど私は病衰で死んだ。
五度目は転生してすぐ死んだ。
六度目は立ち向かった。
あともう少しのところで死んだ。悔しくて悔しくてたまらない。
七度目の人生はもうあらゆる手を使い果たした。そしてたったさっき、炎の中で終わりを迎えた。
「やっぱり、まだこれは......。続くのね」
あれだけ手を尽くしたのに、残念で残念で仕方がない。
それでも燃え盛る火の中で私は気付いたことがあった。一番長生きした四度目の人生とそれ以外の人生で違う点。それは――
ミシェル・フェーブルの“望み”を叶えないことだ。
最後は死んでしまったけどこれだけが唯一、他の人生と違う点だった。
もしこれを達成するなら私は今までどうしても諦めなけきれなかったあることを諦めなければいけない。
ちなみに私の最初の望みはたった一つ、彼と一緒に幸せに暮らすこと。でもきっとそれを夢見た時点で、この悪夢は始まっていたのだろう。
その発端は......。
「アリリ、朝ごはんよ」
ガシャンッというトレイを置く音で一気に私の背筋に緊張が走る。
「あとこの薬もちゃんと飲むのよ? 分かった? アタシはこれから魔女集会に行ってくるけど二時間くらいで戻ってくるからそれまでいい子にしててね」
「は、はい......」
「じゃあ行ってくるわね」
そう言って声の主は部屋を出ていく。
その後ろ姿はサイズの大きい服を着ていても分かるくらい骸骨のようにガリガリだった。
白髪頭を一つにまとめ、真っ暗なその瞳はいつだって生気がない。
私は思わず、シーツを握りしめる手に力が入る。
そう、彼女こそがこのループの中で全ての私の死因であり、そして実の母親でもあるマサ・ロベールという魔女だった。
春の穏やかな木漏れ日と台所でトントン、と何かを包丁で切る音で目が覚める。
力なく開いたその瞼で部屋の天井を見た時、ああ、また死んでしまったのかとそう落胆した。
私の名前はアリリ・ロベール。
七回に渡る転生を繰り返した女だ。
理由は分からないがこのループは私が死んだら強制的にこの日の朝に戻ってしまう。
一度目は喜んだ。神がまた幸せになるチャンスをくれたのだと。でも殺されて死んだ。
二度目は驚いた。
これは自分のために起きている現象ではないと悟ったから。それでもなんとか前世の記憶を使って頑張った。でも殺された。
三度目からは疲れていた。
三度も見せられた愛する人の”死”。四度目があると思えば恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
私は自殺した。
四度目はなぜか少し状況が変わっていた。
愛する人には出会わなかったけど私は病衰で死んだ。
五度目は転生してすぐ死んだ。
六度目は立ち向かった。
あともう少しのところで死んだ。悔しくて悔しくてたまらない。
七度目の人生はもうあらゆる手を使い果たした。そしてたったさっき、炎の中で終わりを迎えた。
「やっぱり、まだこれは......。続くのね」
あれだけ手を尽くしたのに、残念で残念で仕方がない。
それでも燃え盛る火の中で私は気付いたことがあった。一番長生きした四度目の人生とそれ以外の人生で違う点。それは――
ミシェル・フェーブルの“望み”を叶えないことだ。
最後は死んでしまったけどこれだけが唯一、他の人生と違う点だった。
もしこれを達成するなら私は今までどうしても諦めなけきれなかったあることを諦めなければいけない。
ちなみに私の最初の望みはたった一つ、彼と一緒に幸せに暮らすこと。でもきっとそれを夢見た時点で、この悪夢は始まっていたのだろう。
その発端は......。
「アリリ、朝ごはんよ」
ガシャンッというトレイを置く音で一気に私の背筋に緊張が走る。
「あとこの薬もちゃんと飲むのよ? 分かった? アタシはこれから魔女集会に行ってくるけど二時間くらいで戻ってくるからそれまでいい子にしててね」
「は、はい......」
「じゃあ行ってくるわね」
そう言って声の主は部屋を出ていく。
その後ろ姿はサイズの大きい服を着ていても分かるくらい骸骨のようにガリガリだった。
白髪頭を一つにまとめ、真っ暗なその瞳はいつだって生気がない。
私は思わず、シーツを握りしめる手に力が入る。
そう、彼女こそがこのループの中で全ての私の死因であり、そして実の母親でもあるマサ・ロベールという魔女だった。
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