4 / 21
第一章
1.美しい自然の国
しおりを挟む
春の暖かな日差しが差す昼下がり。
この美しい自然の国、ミデリーがあるのも国王陛下のゼファがかつて手に負えなかった異種族を説得したおかげだった。
そんな彼も今年で六十四歳。
もうそろそろ次の世代に託しても良いと思っている。
だって国王にはあんなに優秀な第一王子がいるんだもの。
「はあ......。そりゃ兄さんはすごいよ」
城の屋根の上で寝転びながら、僕は整備された城下町を眺める。
そう、その第一王子というのは稀代の天才と謳われた僕の兄、アンディのことだった。
その人気は二十七歳という若さでありながら世間では次代の王は彼しかいないと太鼓判を押されるほど。
対して第二王子の僕、ミシェルは何をやっても兄のようには出来ず、世間では存在を忘れられてしまっているくらい影が薄かった。
いや、泣いてない。泣いていないからね......。
兄さんは頭が良いだけではなく、性格もとびきり良かった。だから僕のことをよく気遣ってくれたし、城内で肩身が狭くなることもなかった。
僕はそんな優しい兄さんを尊敬しているし、ちょっと嫉妬はするけど山のような書類を毎日処理しているのを見るとやっぱり自分が第二王子で良かったと、心底ホッとしてしまう。
そしてそんなモヤモヤとした気持ちで疲れた僕は今日も剣の稽古をサボってしまった。
今頃、執事のセバスチャンやメイドのメアリーが怒っているだろう。
はあ、憂鬱だ。戻ったらまたこっぴどく怒られるんだろうな――ってん?
その時、僕の視界に入ったのは城の後ろに止めてあったとある馬車だった。
御者は荷物を城内に運んでおり、その木箱から見える薬品を見るにそれは魔女の作った代物だと分かる。
(そうか、魔女......。それだ!)
その瞬間、とっさの思いつきをミシェルはすぐに実行した。
城の屋根を伝って器用に屋根裏部屋に入ると、使っていなかった黒いマントを手に取り、子供の時に練習用に使っていた短剣を探す。
あれ、この辺にあったような気がしたんだけど?
――みゃあ!
カランッ。
「っ!」
驚いて振り向くと、そこには窓の縁に立つ三毛猫がこちらを見ていた。
「あー、フユお前が持ってたのか。その短剣。通りで見つからないと思ったよ」
そう言ってフユが落とした短剣を拾う。
フユは野良猫だが、城で色んな人から餌を貰っているのでほとんど皆のペットみたいなものだった。
人間の言葉は分からないはずだが、なぜだかこいつには話が通じているような感じがする時がある。
「あ、そうだ。お前も一緒に行く?」
みゃあっ。
僕がそう聞くと元気に返事をしたフユはふろしき代わりにしたマントの中に勢いよく入った。
なんかぽかぽかしてあったかい。
作戦はこう。
まず、見張りの兵士を撒くために馬車の西側の窓からガラクタを落とす。
そしてその隙にあの馬車に乗り込むのだ。
「よし、フユ行くぞ!」
その後、無事にその作戦を成功させた僕達は魔女の住む家へと長い馬車の冒険が始まるのだった。
この美しい自然の国、ミデリーがあるのも国王陛下のゼファがかつて手に負えなかった異種族を説得したおかげだった。
そんな彼も今年で六十四歳。
もうそろそろ次の世代に託しても良いと思っている。
だって国王にはあんなに優秀な第一王子がいるんだもの。
「はあ......。そりゃ兄さんはすごいよ」
城の屋根の上で寝転びながら、僕は整備された城下町を眺める。
そう、その第一王子というのは稀代の天才と謳われた僕の兄、アンディのことだった。
その人気は二十七歳という若さでありながら世間では次代の王は彼しかいないと太鼓判を押されるほど。
対して第二王子の僕、ミシェルは何をやっても兄のようには出来ず、世間では存在を忘れられてしまっているくらい影が薄かった。
いや、泣いてない。泣いていないからね......。
兄さんは頭が良いだけではなく、性格もとびきり良かった。だから僕のことをよく気遣ってくれたし、城内で肩身が狭くなることもなかった。
僕はそんな優しい兄さんを尊敬しているし、ちょっと嫉妬はするけど山のような書類を毎日処理しているのを見るとやっぱり自分が第二王子で良かったと、心底ホッとしてしまう。
そしてそんなモヤモヤとした気持ちで疲れた僕は今日も剣の稽古をサボってしまった。
今頃、執事のセバスチャンやメイドのメアリーが怒っているだろう。
はあ、憂鬱だ。戻ったらまたこっぴどく怒られるんだろうな――ってん?
その時、僕の視界に入ったのは城の後ろに止めてあったとある馬車だった。
御者は荷物を城内に運んでおり、その木箱から見える薬品を見るにそれは魔女の作った代物だと分かる。
(そうか、魔女......。それだ!)
その瞬間、とっさの思いつきをミシェルはすぐに実行した。
城の屋根を伝って器用に屋根裏部屋に入ると、使っていなかった黒いマントを手に取り、子供の時に練習用に使っていた短剣を探す。
あれ、この辺にあったような気がしたんだけど?
――みゃあ!
カランッ。
「っ!」
驚いて振り向くと、そこには窓の縁に立つ三毛猫がこちらを見ていた。
「あー、フユお前が持ってたのか。その短剣。通りで見つからないと思ったよ」
そう言ってフユが落とした短剣を拾う。
フユは野良猫だが、城で色んな人から餌を貰っているのでほとんど皆のペットみたいなものだった。
人間の言葉は分からないはずだが、なぜだかこいつには話が通じているような感じがする時がある。
「あ、そうだ。お前も一緒に行く?」
みゃあっ。
僕がそう聞くと元気に返事をしたフユはふろしき代わりにしたマントの中に勢いよく入った。
なんかぽかぽかしてあったかい。
作戦はこう。
まず、見張りの兵士を撒くために馬車の西側の窓からガラクタを落とす。
そしてその隙にあの馬車に乗り込むのだ。
「よし、フユ行くぞ!」
その後、無事にその作戦を成功させた僕達は魔女の住む家へと長い馬車の冒険が始まるのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

ありがとう、ばいばい、大好きだった君へ
中小路かほ
恋愛
君と出会って、世界が変わった。
初めての恋も、
まぶしいくらいの青春も、
かけがえのない思い出も、
諦めたくない夢も、
すべて君が教えてくれた。
ありがとう、大好きな君へ。
そして、ばいばい。
大好きだった君へ。
引っ越してきたばかりの孤独な女の子
桜庭 莉子
(Riko Sakuraba)
×
まっすぐすぎる野球バカ
矢野 大河
(Taiga Yano)

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる