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11.不穏な影
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11.不穏な影
「麗華様。戻られる際はお声がけ下さいね」
侍医のおじさん、もとい旭宇(シューユー)さんはそう言って頭を下げて退出して行った。
「ふぅ。何だかまだ夢みたい」
麗華は自分に与えられていた玉蘭の間に戻って来ていた。
寝台に腰掛けて自分に起きた変化に身を震わせる。
麗華がここにいるのは、炎輝の許可が取れたからだ。
頭が混乱して、龍王の寝室にも落ち着かない麗華は必死に炎輝に暫くの間でいいから1人になりたいと訴え出た。
炎輝は初めは取り付く島もなく渋っていたが、麗華の潤んだ瞳に仕方なしと最後には許可を出してくれた。
許可を出す炎輝の表情は不満ですと分かりやすく現れていた。
もちろん完全な1人は許可は出ず(麗華自身も危険だと思っている)、旭宇さんを連れていく事が条件だった。
泰然さんも名乗り出たが、自分が一緒にいれないのに他の龍族が傍にいるのは我慢出来ないらしい。却下されていた。
そして、必ず一刻(2時間程)で戻る事。これが、炎輝なりの最大限の譲歩だった。
我儘なのはわかっていたが、もうあの宮に戻れないのなら、最後に一度だけ見ておきたかった。
さすがに自分の我儘で宮を移設させるわけにはいかない…と、思う。
自分でも不思議だが、何故かこの宮が好きだった。
落ち着くし、静かだし、何よりここは初めて麗華を攻撃して来ない空間だったから。
少しの間だったけど、安らぐ空間になっていた。
「私が、番なんて」
今でも実感が湧かない。不思議な夢の中にいるような浮遊感だ。
何かの間違いじゃないんだろうか。
この手からすり抜けて行ってしまうんじゃないか?
「いつか、醒めて、全部が夢だった…とか」
そうしたら自分は今度こそ壊れてしまうだろう。
折角1人にならせてもらったのに悪い想像ばかりしていたら炎輝に怒られそうだ。
「いいえ。大丈夫よ、麗華。予定は狂っちゃったけど、逃げなくて済むのよ。龍王陛下も傍にいて下さる」
何も不安など抱える必要はない。
だって物語で聞く龍と番のお話たちはいつだって幸福な物語だったから。
永遠に愛される番様に憧れなかったと言えば嘘になる。
そんな存在に自分がなるのだ。
うれしい。
麗華は静かに自分の心と語り合った。
起きた事を飲み込む時間が出来て覚悟も決まった。
(私も陛下と同じだけ気持ちをお返ししたい)
そろそろ戻ろう。きっと心配させている。
「旭…」
「おい!麗華!!ここにいるのだろう!!出て来い!!」
「出て来なさいよ!!」
旭宇さんを呼ぼうとした声は、突然外から聞こえて来た声に掻き消された。
「………っ!」
この声は、実家の下男と瑞麗の声だ。
「旦那様から帰郷せよと連絡があった!いつまでもここにしがみ付いていないで帰るぞ!選定も落ちたんだろう!!」
宮の内部に入って来たのか、どんどん声が近付いて来ている。
旭宇さんはどうしたのだろう?
声がしない。
何かされていないだろうか。
そうなら私のせいだ。
ザッと一瞬で血の気が引いた。
「麗華様。戻られる際はお声がけ下さいね」
侍医のおじさん、もとい旭宇(シューユー)さんはそう言って頭を下げて退出して行った。
「ふぅ。何だかまだ夢みたい」
麗華は自分に与えられていた玉蘭の間に戻って来ていた。
寝台に腰掛けて自分に起きた変化に身を震わせる。
麗華がここにいるのは、炎輝の許可が取れたからだ。
頭が混乱して、龍王の寝室にも落ち着かない麗華は必死に炎輝に暫くの間でいいから1人になりたいと訴え出た。
炎輝は初めは取り付く島もなく渋っていたが、麗華の潤んだ瞳に仕方なしと最後には許可を出してくれた。
許可を出す炎輝の表情は不満ですと分かりやすく現れていた。
もちろん完全な1人は許可は出ず(麗華自身も危険だと思っている)、旭宇さんを連れていく事が条件だった。
泰然さんも名乗り出たが、自分が一緒にいれないのに他の龍族が傍にいるのは我慢出来ないらしい。却下されていた。
そして、必ず一刻(2時間程)で戻る事。これが、炎輝なりの最大限の譲歩だった。
我儘なのはわかっていたが、もうあの宮に戻れないのなら、最後に一度だけ見ておきたかった。
さすがに自分の我儘で宮を移設させるわけにはいかない…と、思う。
自分でも不思議だが、何故かこの宮が好きだった。
落ち着くし、静かだし、何よりここは初めて麗華を攻撃して来ない空間だったから。
少しの間だったけど、安らぐ空間になっていた。
「私が、番なんて」
今でも実感が湧かない。不思議な夢の中にいるような浮遊感だ。
何かの間違いじゃないんだろうか。
この手からすり抜けて行ってしまうんじゃないか?
「いつか、醒めて、全部が夢だった…とか」
そうしたら自分は今度こそ壊れてしまうだろう。
折角1人にならせてもらったのに悪い想像ばかりしていたら炎輝に怒られそうだ。
「いいえ。大丈夫よ、麗華。予定は狂っちゃったけど、逃げなくて済むのよ。龍王陛下も傍にいて下さる」
何も不安など抱える必要はない。
だって物語で聞く龍と番のお話たちはいつだって幸福な物語だったから。
永遠に愛される番様に憧れなかったと言えば嘘になる。
そんな存在に自分がなるのだ。
うれしい。
麗華は静かに自分の心と語り合った。
起きた事を飲み込む時間が出来て覚悟も決まった。
(私も陛下と同じだけ気持ちをお返ししたい)
そろそろ戻ろう。きっと心配させている。
「旭…」
「おい!麗華!!ここにいるのだろう!!出て来い!!」
「出て来なさいよ!!」
旭宇さんを呼ぼうとした声は、突然外から聞こえて来た声に掻き消された。
「………っ!」
この声は、実家の下男と瑞麗の声だ。
「旦那様から帰郷せよと連絡があった!いつまでもここにしがみ付いていないで帰るぞ!選定も落ちたんだろう!!」
宮の内部に入って来たのか、どんどん声が近付いて来ている。
旭宇さんはどうしたのだろう?
声がしない。
何かされていないだろうか。
そうなら私のせいだ。
ザッと一瞬で血の気が引いた。
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