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5.選定の儀式
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5.選定の儀式
龍王の御前で行われる番選定。
挨拶が済んだ後、側近によりいくつもの玉が運ばれてきた。
儀式で使用する番を見分ける為の玉だ。人数も多い為複数用意された玉に前列にいる者から順に触れていった。
選定の試験は既にスタートしている。
先程まで龍王に対し魂を抜かれたようになっていた娘達も我に返り気を引き締め直した。
早く帰りたい……。
立っているのもやっとなのに。
麗華は我先にと殺到する中、足に力を入れて必死に立っていた。他を気にしている余裕などない。
今どこまで選定が進んだのかすら状況が掴めなかった。
後どれだけ残っているのだろう。
耳鳴りが酷くてさっきまでの喧騒すら聞こえない…。
正直いつぶっ倒れてもおかしくないなぁ…なんて思っていた。
「よし。やるわよ」
「瑞麗お嬢様!頑張って下さい!きっと選ばれます!」
「当然よ」
意気込んだ瑞麗が玉の前に立った。
番の反応が出るとは正直瑞麗もあまり期待していなかった。要は願掛けだ。
もし選ばれなくても自分なら龍妃になれる。
そんな確信があった。
ペタッ。
瑞麗はそっと玉に触れた。
案の定少し待ってみても玉は触る前となんら変わりない。
やっぱりダメか。
わかっていたとは言え、ちょっとした期待はやはりあった。
「次の者」
ずっと触れているわけにもいかず、瑞麗は玉から手を離した。
龍族の側近たちも既に次に促している。
「お嬢様…残念でございました…」
「まぁ、わかっていたしね。問題ないわ。私たちの本命はこの後の龍妃選定よ。気合いを入れましょ」
瑞麗以下他の使用人3人も玉に触れるがなんの反応も示さなかった。
どんどん選定を済まし残りの人数は減っていった。
一喜一憂する者、憤慨し認めようとしない者、最初から諦めていて早く帰りたい者様々であった。
そして後1人を残して全ての選定が終わった。
何故かその場で動かない最後の者。
皆怪訝そうに見た。
「なぁに、あの子。何故突っ立っているのかしら」
「早くしなさいよ」
「もしかして、龍族の方の気でも引きたいんじゃないの?厚かましいわ、あんな貧乏人のくせして」
口々に選定が終わった娘達がその娘を見て口にする。
全身着飾ってもいない、衣装は普段着で所々繕った跡まである様子に鼻で笑う。
側近たちも玉の前に進み出ない娘に怪訝な顔をした。
「娘よ。早く玉の前に来なさい」
側近の1人がその場に残っていた麗華に声を掛けた。
「………」
しかし、側近の声にも何の反応も返さない。
「おい……」
その様子を龍王が玉座の上から視線を動かした。
側近が焦れて麗華の元に行こうとするのを龍王が視線で制止し、首を横に振る。
「!?」
龍王のその反応に側近はビクりと止まる。
「ちょっ…」
それを遠くから見ていた瑞麗が、問題を起こしているのが姉の麗華だと気が付くと焦って声を上げ掛けた。
しかし。
「娘」
一言。
龍王が麗華に声をかけた。
勢いよく声を上げ掛けた瑞麗はその声にビクりと硬直したように黙り込む。
「………………?」
誰?
今声が聞こえた?
不思議とその声は麗華の朦朧とした意識の中に滑り込んできた。
「名は何という」
「………?……麗華…です…」
「なるほど。では麗華よ。選定の儀は後そなただけだ。受けよ」
「……は…い…」
麗華は操られるように前に進み出た。
ふらふら。
身体が揺れる。
その様に幽鬼的なものを感じ、他の娘達が悲鳴を上げた。
ダメだ。
近いはずなのにとても遠い……。
あと少しなのに足が鉛のよう。
「どうした。体調でも悪いのか」
またあの声だ。
何故かすっきりと頭に響いて来る声。
「うっ……!」
私はそれでも力を振り絞ったが急速に意識が遠のいてゆき、足を躓かせた。
転ける……。
麗華が最後に感じたのは衝撃では無く、柔らかい何かに包まれた感触だったーーーーー。
龍王の御前で行われる番選定。
挨拶が済んだ後、側近によりいくつもの玉が運ばれてきた。
儀式で使用する番を見分ける為の玉だ。人数も多い為複数用意された玉に前列にいる者から順に触れていった。
選定の試験は既にスタートしている。
先程まで龍王に対し魂を抜かれたようになっていた娘達も我に返り気を引き締め直した。
早く帰りたい……。
立っているのもやっとなのに。
麗華は我先にと殺到する中、足に力を入れて必死に立っていた。他を気にしている余裕などない。
今どこまで選定が進んだのかすら状況が掴めなかった。
後どれだけ残っているのだろう。
耳鳴りが酷くてさっきまでの喧騒すら聞こえない…。
正直いつぶっ倒れてもおかしくないなぁ…なんて思っていた。
「よし。やるわよ」
「瑞麗お嬢様!頑張って下さい!きっと選ばれます!」
「当然よ」
意気込んだ瑞麗が玉の前に立った。
番の反応が出るとは正直瑞麗もあまり期待していなかった。要は願掛けだ。
もし選ばれなくても自分なら龍妃になれる。
そんな確信があった。
ペタッ。
瑞麗はそっと玉に触れた。
案の定少し待ってみても玉は触る前となんら変わりない。
やっぱりダメか。
わかっていたとは言え、ちょっとした期待はやはりあった。
「次の者」
ずっと触れているわけにもいかず、瑞麗は玉から手を離した。
龍族の側近たちも既に次に促している。
「お嬢様…残念でございました…」
「まぁ、わかっていたしね。問題ないわ。私たちの本命はこの後の龍妃選定よ。気合いを入れましょ」
瑞麗以下他の使用人3人も玉に触れるがなんの反応も示さなかった。
どんどん選定を済まし残りの人数は減っていった。
一喜一憂する者、憤慨し認めようとしない者、最初から諦めていて早く帰りたい者様々であった。
そして後1人を残して全ての選定が終わった。
何故かその場で動かない最後の者。
皆怪訝そうに見た。
「なぁに、あの子。何故突っ立っているのかしら」
「早くしなさいよ」
「もしかして、龍族の方の気でも引きたいんじゃないの?厚かましいわ、あんな貧乏人のくせして」
口々に選定が終わった娘達がその娘を見て口にする。
全身着飾ってもいない、衣装は普段着で所々繕った跡まである様子に鼻で笑う。
側近たちも玉の前に進み出ない娘に怪訝な顔をした。
「娘よ。早く玉の前に来なさい」
側近の1人がその場に残っていた麗華に声を掛けた。
「………」
しかし、側近の声にも何の反応も返さない。
「おい……」
その様子を龍王が玉座の上から視線を動かした。
側近が焦れて麗華の元に行こうとするのを龍王が視線で制止し、首を横に振る。
「!?」
龍王のその反応に側近はビクりと止まる。
「ちょっ…」
それを遠くから見ていた瑞麗が、問題を起こしているのが姉の麗華だと気が付くと焦って声を上げ掛けた。
しかし。
「娘」
一言。
龍王が麗華に声をかけた。
勢いよく声を上げ掛けた瑞麗はその声にビクりと硬直したように黙り込む。
「………………?」
誰?
今声が聞こえた?
不思議とその声は麗華の朦朧とした意識の中に滑り込んできた。
「名は何という」
「………?……麗華…です…」
「なるほど。では麗華よ。選定の儀は後そなただけだ。受けよ」
「……は…い…」
麗華は操られるように前に進み出た。
ふらふら。
身体が揺れる。
その様に幽鬼的なものを感じ、他の娘達が悲鳴を上げた。
ダメだ。
近いはずなのにとても遠い……。
あと少しなのに足が鉛のよう。
「どうした。体調でも悪いのか」
またあの声だ。
何故かすっきりと頭に響いて来る声。
「うっ……!」
私はそれでも力を振り絞ったが急速に意識が遠のいてゆき、足を躓かせた。
転ける……。
麗華が最後に感じたのは衝撃では無く、柔らかい何かに包まれた感触だったーーーーー。
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