最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

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第1話 『進む道なき』シオン その7

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「じゃ、最後の一人ね」

 意地悪く微笑む顔がシオンに向いた。

「最後……ですか?」

 邪気の無い笑顔が、それだけに恐ろしくシオンには見えていた。

「『ですか』、ね。いいね。礼儀正しい言葉、ラフィ大好き」

 シオンの目の前に、ラフィの幼い顔が来た。
 膝立ちのシオンと視線の高さは変わらない。
 身体も細い。
 溌剌とした表情は愛らしく、よく見ると目鼻立ちは整っている。
 どこかの良家の令嬢のようにも見える。

 今、二人の屈強な冒険者を殺した者と言われるよりは、そちらの方が違和感が無い

「……ボクも狩りますか?」

 冷や汗を流しながらシオンは尋ねる。
 だが、その応えはあっけらかんとした笑顔。

「まっさかぁ。アンタは被害者じゃん。そんな事よりもさ」

 ラフィが視線を反らす。
 その先に、片足で立ち上がったサライがいた。
 サライは背中を向いていた。
 そのまま密かに逃げるつもりだった。

「仲間、殺られてるのに逃げるんだ? 一人で」
「……黙れ……」

 サライは苦々しく顔をしかめた。
 冒険者の本分は生きて帰る事にある。
 生きて帰り、情報を集め、有利な状況を作り、そしていつか仇をとる。
 故に、勝ち目の薄い相手と戦う選択肢は、冒険者として有り得ない。
 それが苦楽を共にしてきた仲間であったとしてもだ。

「ま、そーゆー早い見切りは必要だけどね。生きていくには」
「カラスどもには……分からんことだ」
「んー。まあ、分かんないなら分かんないでいいんだけどさぁ」

 ラフィは再びシオンに目を向ける。
 黒色の大きな瞳に、血まみれのシオンの顔が映っていた。
 朝、泉の水に映した時とは変わり果てた顔だった。
 頭の傷は先程つけられたものだ。
 瞼の下は涙で腫れていた。
 顔つきは疲れ切り、目の下は落ち窪んでいるように見えた。
 たった半日程度の事で、これ程までに人相が変わる事を、シオンは初めて知った。

「さっきも言ったけど、あれを逃してやっても、ロクな事はしないわ。恩を仇で返すだけ。ラフィにとっても、ちょっと面倒な事になるわね」

 そのシオンを正面から見つめて、ラフィは噛んで含めるように言う。

「でもね。ラフィはアンタに選ばせてあげる。あれは少し前までアンタの仲間だったから」
「……どうしてボクに?」

 尋ねるシオン。
 ラフィはにししと笑う。
 顔立ちに似合う、幼い感じの笑顔だった。

「ラフィは面食いなの」

 少し頬が赤くなっていた。
 ゆっくりと、力を込めてシオンは立ち上がる。

「それにきっと。アンタは才能あると思うのよね。ラフィの勘、当たるんだから」

 蹴り飛ばされた剣を拾う。
 剣は泥と自分自身の血に汚れきっていた。
 それでも、刃の鋭さは少しも失われていなかった。
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